ここ数年で大きく変わったルーマニア
ちょうどコロナ禍の6年前、ルーマニアについて執筆させていただきました。今月久しぶりにルーマニアを訪問する機会があったので、今回はルーマニアについて取り上げます。ルーマニアだけではなく他の周辺諸国にも言えることかもしれませんが、転換期を迎えているように感じます。特に人材、経済政策の変更、安全保障へのシフトという点です。
ルーマニアについておさらい
首都のブカレストを有するルーマニアは東ヨーロッパに位置し、ウクライナ、ハンガリー、ブルガリア等の複数の国々と国境を接するだけではなく、黒海にも面しています。人口は約1,902万人で、人口減少が続いています。1989年のルーマニア革命によってチャウシェスク政権が崩壊した後、市場経済への移行が進み、2004年にはNATO、2007年にはEUに加盟しました。
そして2025年1月、ルーマニアはブルガリアとともに悲願とも言える、シェンゲン協定に完全加盟しました(空路については2024年3月31日より)。EU域内の人・モノの移動がより円滑になり、欧州の生産・物流拠点としてのルーマニアを語る上で重要な変化です。前回の記事では、「特にITに力を入れる東欧の低コスト国」という観点でルーマニアを考えていましたが、「EU・NATOの東側に位置する戦略的な産業・物流拠点」へと、その位置づけを変えつつあります。

ルーマニアの経済注力分野
現在、ルーマニアが特に力を入れているのは、AIを含むIT分野に加えて自動車・EV、再生可能エネルギー、半導体・電子産業、インフラ・物流などです。以前は他の東欧諸国同様にIT関連に力を入れようとしていましたが、ここ数年で変化が見られます。後述しますが、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、他のEU加盟国と同様に防衛産業への強化を行っています。
ルーマニア政府は2024年に「産業戦略2024–2030」を策定し、従来型の製造業を単に拡大するのではなく、デジタル化・脱炭素化・高度技術化を進める方針を明確にしています。特に、EV向け電装部品、バッテリー、風力・太陽光発電設備、重要鉱物、半導体・マイクロエレクトロニクス、AI、Industry 4.0などを成長分野として位置づけています。これはEU委員会の方針にも沿ったものであり、かつ外国企業の投資を受け入れつつ、国内の産業基盤・技術力を高め、戦略的自立性を強化することをめざします。これまでは低コストの製造拠点として西欧企業の投資を受け入れていましたが、それを国内の産業高度化・技術蓄積につなげ、R&D拠点を設立するなど戦略的な自立性を高めようというところまで成長しています。
ただし、ルーマニアは依然として「汚職」というイメージを払拭することができず、利益相反、行政手続きの透明性などの課題が残っています。トランスペアレンシー・インターナショナルの2025年腐敗認識指数では、ルーマニアは45点で182か国中70位となり、EU平均の62点を下回っています。ただし、特にEU加盟後は国家汚職対策局などによる高位汚職の摘発が進み、法制度や行政の透明性を高める取り組みも続いています。ある50代のルーマニア人女性は、「まだまだ汚職対策は課題があるが、昔よりは随分進んでいると感じる。次の世代にはもっと明るい未来が待っているはずだ。」と胸を張りました。
ルーマニアの人材事情
OECDによると、生産年齢のルーマニア人の約20%が国外に居住しており、人材流出が労働力不足を生んでいるようです。ブカレスト中心部に位置する、有名な「国民の館」のすぐ裏手の官公庁街でさえ廃墟となっている建物があり、大変驚きました。ちなみに若いルーマニア人の主な移住先は、ドイツ、イタリア、スペインなどが中心だそうです。
人材流出は国内企業にとって、単純な人口減少以上の問題です。若年層・生産年齢人口の流出によって人手不足が発生し、賃金上昇の要因となっています。コロナ前の2019年に約3,000 RONだった平均月額手取り賃金は、2025年には約5,100 RONまで上昇しています。2026年に入っても上昇の一途をたどっており、名目ベースでは2019年から約9割増ともなっています。
さらに、ルーマニアでは国内の労働力不足を補うため、近年、外国人労働者の受け入れが急増しています。外国人労働者が雇用全体に占める割合は2022~2024年だけで94%増加しています。首都・ブカレストでも、休日を楽しむインド系と見られる若者グループを見かけました。また、IT系のエンジニアのような高度人材にとどまらず、コンビニエンス・ストア等の店員にも移民と見られる方をお見かけしました。また、ルーマニアはロシアのウクライナ侵攻後に、隣国のウクライナから多数の難民を受け入れており、その数は20万人弱にも上ります。
この副次効果と言えるかもしれませんが、ルーマニアの治安がやや改善されたように感じました。街中に手入れがなされていない建物や多数の落書きなどは見られましたが、歩いている人のカバンの持ち方からスリへの警戒感が薄れているように感じられたり、物乞いも減ったりという変化があるように見られました。もちろんインフレもあるので、賃金上昇が一概にはいいことばかりとは言えませんが、人々の生活に余裕が出たとも言えそうです。


官庁街に突如現れる廃屋とブカレスト北駅周辺(いずれも筆者撮影)
依然として西欧企業が大きな存在感を示すルーマニア
多くのEU加盟国を訪れると、ドイツやフランスを発祥とする企業を数多く見かけますが、ルーマニアにおいても例外ではありません。ルーマニア国立銀行(BNR)によると、2024年末のFDI(外国直接投資)残高では、ドイツ(14.9%)、オーストリア(11.2%)、フランス(10.2%)となっています。
オーストリア企業は多くの中東欧諸国と同様に、ルーマニア各地で見かけます。これはオーストリアがルーマニアのシェンゲン加盟に、最後まで反対し続けたことなどを考えると、非常に興味深いです。特に、Banca Comercială Românăを傘下に有するErste Group、Raiffeisen BankやVienna Insurance Group (VIG)等がルーマニアの金融インフラに食い込んでいることが印象的です。
また、企業数では50,000社を超えるイタリア企業が進出しており、2位のドイツの倍以上の差をつけて圧倒しています。これはもともとイタリア自身が中小企業を多く有していることに加え、言語や文化面でイタリアとルーマニアは非常に親和性が高かったことも挙げられます。また、ルーマニア西部はハンガリー、オーストリア、中央ヨーロッパに近く、イタリアから陸路で欧州の製造業サプライチェーンにつながりやすいことも理由となるでしょう。
日本企業においては、ルーマニアでは大手企業によるM&A買収が見られます。自動車・電機などの製造業が依然として中心ですが、「ルーマニアに工場を作る」という従来型の進出だけではなく、IT人材や技術を獲得するための拠点として活用する動きもあります。代表例としては、NTTデータのEBS買収で、ルーマニアのさまざまな都市にてよくNTTデータの看板を見かけます。
ロシア・ウクライナとの関係
ロシアのウクライナ侵攻については、ルーマニアにも大きな影響を及ぼしています。ルーマニアは2022年のロシアによる隣国のウクライナ全面侵攻以降、EUの対ロシア制裁を支持・実施しています。ルーマニア政府自身も、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、ウクライナ領のロシアによる併合を認めない立場を明確にしています。
ロシアのウクライナへの侵攻を背景として、防衛産業、エネルギー安全保障、物流・インフラへの投資も重要性を増しています。ルーマニアはNATO東側の拠点であると同時に、黒海に面し、ウクライナと国境を接することから、EUおよびNATOにとって戦略的な位置を占めています。
特に今年に入り、ルーマニアとロシアの関係は、かなり悪化しています。
6月には、ルーマニア政府が黒海でのロシアによるドローン関連の脅威についてNATO北大西洋理事会に問題提起しました。さらに8月には、NATOがルーマニアおよびポーランドでの領空侵犯・ドローン関連事案について協議し、ロシアに責任があると明確に非難しています。そして先日、ルーマニア情報機関が、ロシアの指示を受けたとされるルーマニア国内の人物による軍事関連施設等の偵察・破壊工作を阻止したと発表しています。
隣国ブルガリアでは親露的な姿勢を持つラデフ政権が発足するなど、ロシアとの関係をめぐる国内政治の揺れが続いています。一方、ルーマニアでは2025年の大統領選で親EU・親NATOのニクショル・ダン氏が勝利し、EU・NATOとの連携とウクライナ支援を維持する方向が明確になりました。ルーマニア国内にもEU懐疑派・親露派の勢力は存在するものの、黒海沿岸に位置し、ウクライナと国境を接するルーマニアは、現在の欧州安全保障体制において重要な東側の拠点となっています。

おわりに
ルーマニアは人材流出や国防面での課題はありますが、少々足踏みしつつも経済成長を続けています。自国の立ち位置を理解して、戦略的に国家施策を模索しているといってもよいでしょう。ウクライナと直接国境を接しているということや、黒海を挟んでロシアとも対峙していることから、安全保障に関してはドイツやフランスとは比較にならないほど大きな課題となっています。
中長期的な面では、経済力・購買力に課題はあり、人口は減少を続けているとは言え1,800万人クラスの国家は東欧には多くはないため、東欧進出にルーマニアを外すことはできないでしょう。
個人的な意見ですが、ブカレストはなかなかワイルドな雰囲気ではありますが、北部や中部の中規模以下の街はのんびりとしています。オーストリア・ハンガリー帝国やオスマン・トルコ帝国等の影響も受けており、絵画や建築などから文化の交錯地であったことがよく感じられます。一国の首都を見ただけでその国を語れない、という話がありますが、ルーマニアほどそれが当てはまる国もなかなかないように感じます。
出典・参照
European Commission (2025), ‘Bulgaria and Romania join the Schengen Area’.
European Commission (2026), ‘EU-funded support for people displaced from Ukraine in Romania’.
Government of Romania (2024), ‘Strategia industrială a României 2024–2030’.
Italian Trade Agency (2025), ‘Italia primo investitore in Romania per numero di imprese registrate’.
Ministry of National Defence of Romania (2026), ‘Press Information’, 23 June 2026.
National Institute of Statistics of Romania (n.d.)
NATO (2026), ‘Strengthening NATO’s eastern flank’.
Transparency International (2026), ‘2025 Corruption Perceptions Index – Romania’.
World Bank (2026), ‘Romania | Data’.
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。
