新たなヨーロッパビジネスの玄関口 – モルドバ(第1回)

皆さんはモルドバという国をご存知でしょうか。旧ソ連の構成国の一つで、ルーマニアとウクライナに隣接する小さな国です。近年モルドバは独立国家共同体(CIS)の一員であることに加え、EU加盟国であるルーマニアに隣接しているという地理上の強みがあります。それを生かしてヨーロッパビジネスの玄関口として多くの外資系企業の誘致を強化しようという動きがあります。今月は2回に分けてモルドバについてご紹介します。

モルドバとは

東ヨーロッパに位置するモルドバ共和国(以下モルドバ)は1991年に旧ソビエト連邦から独立しました。国土面積は3万3,843平方キロメートルの九州ほどの小さな国で人口は268.2万人です。在留日本人は25名であり、当然のことながら日本との直行便もありません。公用語はモルドバ(ルーマニア)語ですが、歴史的背景からロシア語とのバイリンガルの人が多いです。英語力については世代や職業や学歴などによって差があります。

近年はEU加盟をめざしてルーマニアをはじめとしたEU諸国との関係を強化しようとしていますが、旧ソ連の構成国ということでロシアやウクライナなどとのつながりも強いです。ジョージア(旧グルジア)、ウクライナ、アゼルバイジャンとともに「民主主義と経済発展のための機構GUAM」を構成している他、中欧自由貿易協定(CEFTA)に加盟するなど周辺国とさまざまな政治・経済協定を締結しています。しかしロシアとの間にはトランスニストリア地域の独立問題を抱えており、その解決の目処は立っていません。

東ヨーロッパの内陸国・モルドバ
東ヨーロッパの内陸国・モルドバ

モルドバの経済

もともと農業国であったモルドバは天然資源にも乏しく、ヨーロッパの最貧国の一つに挙げられます。2018年のモルドバ のGDPは114億ドル(世界第136位)です。これと関連して優秀な若者の海外流出が課題となっており、GDPの約25%は海外で働くモルドバ国民からの送金に依存していると言われています。また、国内5万6,000社の企業の98%以上が中小企業であり、特に零細企業が85%を占めています。さらに、モルドバ国内企業全体の売り上げの6割が、全企業の約1%である大企業によるものであるといういびつな構造が課題となっています。したがって国をあげた雇用創出と中小企業の生産性向上が課題となっています。

次に具体的な産業を見ていきましょう。モルドバの国土の約 75%は肥沃(ひよく)な黒土で覆われており、小麦、とうもろこしといった穀物をはじめとしてブドウなどの農業が伝統的に盛んです。特に現地のブドウから作られたモルドバワインは主要な輸出産業の一つです。しかし農業の生産性自体は決して高いとは言えず、産業の性質上天候にも左右されやすいことから、近年は工業化に力を入れています。例えば繊維産業は近年伸びている産業の一つであり、ZaraやH&Mといったファストファッションに限らずBurberryのような高級ブランドもモルドバの工場で生産を強化しています。また工業団地を国が建設して、工業系の海外企業の誘致を試みています。IT関連も強化産業分野の一つであり、IT人材の育成およびビジネス環境の整備を国が大きく支援しています。最近アニメ産業のようなコンテンツビジネスにも力を入れており、世界規模で配信されているアニメの制作を行っているスタジオもあります。

世界でも根強いファンの多いモルドバワイン
世界でも根強いファンの多いモルドバワイン

いかがでしたでしょうか。モルドバは多くの日本人にとってはあまり馴染みがない国だと思いますので、今回はモルドバの概況と経済について少し丁寧に解説しました。次回はモルドバでビジネスを行うメリットや課題、日系企業への期待について詳しく見ていきたいと思います。

ジェイシーズではヨーロッパの現地担当者とともに皆さまのヨーロッパビジネスをお手伝いします。モルドバやヨーロッパでビジネスにご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

出典
外務省「モルドバ 共和国基礎データ」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/moldova/data.html
在モルドバ日本国大使館「モルドバ共和国概観(2017年9月)」(https://www.md.emb-japan.go.jp/files/000285698.pdf
The Moldovan Investment Promotion Agency(http://invest.gov.md/exportatorii)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ブカレスト事務所、モルドバ中小企業育成機構(ODIMM)主催「モルドバ投資環境ウェビナー”BUSINESS BRIDGES JAPAN-MOLDOVA”」(2020年5月21日開催)

執筆者

浜田真梨子(はまだ・まりこ)

執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)

大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
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