リトアニアってどんな国?

大手牛丼チェーンの松屋が8月27日から、「リトアニア風ホワイトソースハンバーグ」を一部店舗限定で販売を開始した、というニュースを耳にしました。みなさんはリトアニアという国についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。旧ソビエト連邦の構成国の一つであり、現在はEU(欧州連合)加盟国の一つです。日本とのつながりの一つとして、第二次世界大戦中に当地在カウナス領事館にて、杉原千畝副領事がユダヤ系避難民等に対して日本通過ビザ「命のビザ」を発給したことでも有名です。今回はリトアニアについて取り上げてみたいと思います。

リトアニアの概要

リトアニアはエストニア、ラトビアと並ぶバルト三国の一つで、ヨーロッパ北東部に位置しています。国境はラトビア、ポーランド、ベラルーシ、ロシア(飛地のカリーニングラード州)と接しています。首都はヴィリニュスで、公用語はリトアニア語です。面積は約65,300平方キロメートルで、人口は約280万人の小さな国です。

中世にはリトアニア大公国として強大な力を持ち、ポーランドと連合して一時期ヨーロッパ最大の国家となりました。しかしその後はロシア帝国の支配下に置かれ、20世紀初頭に一時的に独立を果たしたものの、第二次大戦中に再びソ連に併合されました。1990年に再び独立を果たし、2004年にエストニア、ラトビアとともにEU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、2015年からユーロを導入しています。近年では 特にITやバイオテクノロジーなどの分野で成長を続けています。

再開発が進むリトアニア首都ヴィリニュス
再開発が進むリトアニア首都ヴィリニュス(筆者撮影)

リトアニアの経済

リトアニアの主要産業は製造業、農業、IT、観光産業等が挙げられます。製造業では自動車部品、機械、電子機器、金属加工などが主要な分野で、特にレーザー技術の分野では国際的に評価が高く、主要輸出品の一部となっています。農業もリトアニアの伝統的な主要産業の一つであり、小麦、大麦、ジャガイモ、乳製品、肉類などを生産しています。ジャガイモは他の欧州諸国同様日本の米にあたるような主食であり、ツェペリナイなどの料理が有名です。

また近年成長を遂げている分野としてIT分野が挙げられます。特にフィンテック、サイバーセキュリティ、ソフトウェア開発などでの成長が著しく、首都のヴィリニュスや第二の都市カウナスには多くのスタートアップや国際企業が集まっています。例えば、イギリス発祥のRevolutは英国のEU離脱を機にリトアニアに拠点を設立してEUの銀行ライセンスを取得し、外貨両替、予算管理、暗号通貨取引などの幅広い金融サービスを提供しています。また、国際送金、決済ゲートウェイサービス、モバイルウォレットなどのオンライン決済ソリューションを提供するPayseraは、ヨーロッパ全域で広く使用されています。Payseraは『エストニアで会社を設立する』でもご紹介しましたが、エストニアに設立した企業の銀行口座として幅広く利用されたり、ラトビアでも両替所などでそのロゴを見かけたりします。各IT企業が人材を募集しているため、首都ヴィリニュスでも住宅難や賃貸価格の上昇などが相次いでいるようです。

リトアニア名物・ツェペリナイ
リトアニア名物・ツェペリナイ (写真ACより)

リトアニアの抱える課題

リトアニアでは人口減少が大きな課題となっています。EU加盟後に他のEU加盟国での労働が可能になったことによる、若者を中心とした国外への移住が大きな要因です。多くのリトアニア人が、より良い経済的機会を求めてドイツなどのEU加盟国に移住しています。私の友人のリトアニア人も「高校の同級生は、今誰もリトアニアに住んでいない」と言っていました。今夏リトアニアを訪れる機会がありましたが、人口30万人程度のカウナス中心部でも持ち主がいなくなった廃屋が見受けられました。都市部近郊であっても、限界集落のような地区も少なくないようです。

上述の通りIT産業など成長分野においても、若年層の減少に伴い人手不足が顕著です。賃金もそれほど高い訳ではなく(平均月額2,000ユーロ程度)、失業率の高さ(約8%)も目につきます。これはバルト三国のエストニアやラトビアでも同様です。あるラトビア人からは「2015年頃シリアから難民がたくさん来たものの定住せずに、同じEU諸国の中でもより賃金の高い国に行ってしまった」という話を聞きました。

また、2022年2月にはじまったロシアのウクライナ侵攻の影響も日常的に感じられます。リトアニアは、ロシアによるウクライナ侵攻に対して強く反発し、ウクライナを支持する立場を明確に示しています。国の至る所でウクライナの国旗を見かけ、これは私が最近訪れたどの欧州諸国よりも多いです。ヴィリニュス市内を走るトロリーバス等も「私たちはウクライナとともにある」というメッセージを常時掲げています。国防予算の増額や、特にエネルギー面などでのロシアやベラルーシビジネスの見直しも行っています。歴史的にロシア帝国やソ連に取り込まれてきたことに対する強い拒否感もあるように感じます。そのため、ロシアやEU域内だけではなくより多くの国との結びつきを深めようとする傾向はコロナ禍が明け、さらにロシアのウクライナ侵攻以降増えてきたように感じます。

今日はリトアニアを取り上げました。以前取り上げたアイルランドエストニアもそうですが、EU加盟国の小さな国は独自で経済をまかなうことが他国以前に容易ではないので、海外企業誘致に積極的な国が多いです。地理的にリトアニアはポーランドとも近く、リトアニアを足がかりにした東欧開拓などの拠点、ともなりうるかもしれません。リトアニア政府も同国きっての知日派であるDr. オーレリウス・ジーカス氏を駐日リトアニア共和国特命全権大使として派遣し、日本での認知向上に向けた努力をしています。一度リトアニアという国に注目してみてもおもしろいかもしれません。

出典・参考

Eurostat.
https://ec.europa.eu/eurostat/web/main/home

European Union – Lithuania in the EU
https://european-union.europa.eu/principles-countries-history/eu-countries/lithuania_en

The World Bank Group Data Catalog.
https://datacatalog.worldbank.org/

X (formerly Twitter) 【公式】松屋.
https://x.com/matsuya_foods/status/1826880207774777818

外務省 – リトアニア共和国基礎データ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/lithuania/data.html

駐日リトアニア共和国大使館
https://jp.mfa.lt/jp

執筆者

浜田真梨子(はまだ・まりこ)

執行役員 シニアマーケティングコンサルタント(欧州)

大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
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