カリフォルニアを揺るがす「プロポジション47」とは?

「プロポジション47」をご存じですか?カリフォルニア州にお住まいの方であればご存じの方が多いかと思いますが、カリフォルニア州外にお住いの方にはそれほど馴染みがないかも知れません。しかし、このプロポジション47が現在カリフォルニア州において、特にロサンゼルスやサンフランシスコといった都市部において、大きな社会問題の原因になりつつあります。今回は、プロポジション47とその影響などについてお伝えします。

「プロポジション47」とは?

「プロポジション47」(Proposition 47)略称「プロップ47」(Prop 47)は、2014年11月4日に実施されたカリフォルニア州の住民投票により可決成立した法律です。正式名称は「住環境・学校安全法」(Safe Neighborhoods and Schools Act)で、カリフォルニア州における「犯罪」の「再分類」(Reclassification)を行うことを主旨とした法律です。

カリフォルニア州を含むアメリカの各州では、「犯罪」(Crime)は「違反」(Infraction)、「軽犯罪」(Misdemeanor)、「重犯罪」(Felony)の三つのカテゴリーに分類されます。それぞれのカテゴリーの最大の違いは罰則(Penalty)で、「違反」に対する罰則は注意や罰金です。「軽犯罪」に対する罰則は注意、罰金、コミュニティサービス、または最大1年の懲役です。そして「重犯罪」に対する罰則は1年以上の懲役から終身刑または死刑です(カリフォルニア州には死刑制度が存在します)。このように、どのカテゴリーの犯罪で起訴されるかにより、受ける罰則の種類や内容が大きく違ってくるのです。罪を犯す側にしてみれば、これは非常に切実で大きな問題です。

上にプロポジション47は、カリフォルニア州における「犯罪」の「再分類」(Reclassification)を行うことを主旨とした法律であると記しましたが、プロポジション47がこれまで「重犯罪」とされていた多くの犯罪を「軽犯罪」へと「再分類」してしまったのです。

950ドル以下の窃盗は「軽犯罪」

プロポジション47は、実際にそれまでは「重犯罪」とされていた以下の「犯罪」を「軽犯罪」へ「再分類」してしまいました。

被害額950ドル(約13万3千円、以下同じ)以下の窃盗
被害額950ドル以下の万引き
時価950ドル以下の盗難品の受領
額面950ドル以下の小切手、債券、紙幣などの偽造
被害額950ドル以下の詐欺
額面950ドル以下の不渡り小切手の意図的な発行
ヘロイン、コカイン、覚せい剤などの違法薬物の所有または使用

これらのかつての「重犯罪」が「軽犯罪」へ「再分類されたことにより罰則が軽減され、結果的に悪意のある多くの人を犯罪に走らせるインセンティブとなってしまったのです。

「プロポジション47」が誕生した理由は?

日本ではおよそ想像もできない驚くべき法律ですが、この「プロポジション47」は、そもそもどのような理由で誕生したのでしょうか。第一に挙げられるのが刑務所に収監されている囚人人口の問題です。プロポジション47が施行される前のカリフォルニア州では、「重犯罪」で起訴されて刑務所に収監される人が増加し、刑務所の収容キャパシティは限界を迎えたとされていました。プロポジション47の支持者によると、プロポジション47の施行によりカリフォルニア州内の刑務所に新たに収監される人の数が一気に50%減少し、プロポジション47が施行された2014年の翌年の囚人人口の総数は前年比で9%減少したとしています。

同時に挙げられるのがコストの問題です。警察が犯罪者を逮捕し、起訴して刑務所へ送り込み、収容するには少なくないコストがかかります。特に収容する期間が長くなるほどより多くのコストが必要になります。犯罪者を「重犯罪」で逮捕起訴して刑務所へ長期間収容するよりも、「軽犯罪」で逮捕して再教育などを受けされた方がコストが安くなるというのです。実際にプロポジション47の支持者たちは、プロポジション47の施行によりカリフォルニア州の警察関連予算を年間1億5000万ドル(約210億円)も削減できたと主張しています。

万引きが横行、無法地帯と化したカリフォルニアの都市部

しかし、現実はプロポジション47の支持者たちが主張したようにはなっていないようです。ロサンゼルスやサンフランシスコなどの都市部などにおいては、百貨店などの小売店での万引きが常態化し、無法地帯となりつつあります。特にサンフランシスコの状況は酷く、中には大規模な万引きグループに連日店を襲撃されて経営が立ち行かなくなる店も出てきています。

サンフランシスコの地元テレビ局が、サンフランシスコ市民に愛されてきた大型ショッピングモールのウェストフィールドが撤退・閉鎖するというニュースを報じていましたが、サンフランシスコからは、これまでにノードストロム、サックス5thアベニュー、アンソロポロジー、オフィスデポ、ホールフーズ、ブルックスブラザーズ、レイバン、クリスチャン・ルブタン、H&M、マーシャルズ、ディズニーストアなどの、アメリカを代表する小売店を含む95の大型小売店が撤退を決めています。

プロポジション47だけにすべての原因を負わせることはできないにせよ、その原因の相当部分を負わせなければならないのは間違いないでしょう。かつては「アメリカ人のもっともお気に入りの街」とされていたサンフランシスコですが、プロポジション47によりカオスな街に没落してしまったとすれば残念としか言えません。プロポジション47に対しては、大ナタを振るって抜本的に対処する必要があると筆者は切に信じています。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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