ドイツ・ベルリンの学校事情
ドイツの教育制度の大きな特徴は、小学4年生〜6年生という早い段階で進学トラックが分かれる点にあります。そしてこの構造こそが、その後の教育現場の現実を形づくっています。特に将来大学に進学するかどうかによって進路が大きく変わります。ドイツの大学入学にあたっては、日本のようにどの高校卒業でも良いというわけではなく、一般大学入学資格(Abitur:アビトゥア)が必要となります。すべての学校卒業後にアビトゥアが付与されるわけではないので、大学進学については小学4年生や6年生の段階で決まってしまうというなかなか厳しい制度になっています。
ベルリンでは2010年の学校構造改革により、従来の総合学校(Gesamtschule)はISS(統合中等学校)へと再編されました。ISSでもアビトゥア(大学入学資格)取得コースを設ける学校があり、制度上は進路の柔軟性が確保されています。この点については次回以降の記事で詳しく触れたいと思います。
日本では春になると全国一斉に卒業・入学シーズンを迎えます。一方ドイツでは、夏季休暇のあと、8月下旬から9月上旬にかけて新学期が始まるのが一般的です。さらに日本のように全国一律ではなく、州ごとに休暇の時期や卒業式・入学式の日程も異なります。
今回は、筆者の暮らすベルリンの学校事情を中心にお伝えします。
ベルリンの学校制度について
ご家庭の判断により異なるでしょうが日本では、子どもの進路が大きく分かれるのは高校進学時だと思います。しかし、ドイツの多くの州では日本の小学校4年生から進路が決まってしまいます。一方ベルリンでは、小学校が6年制で、その子の成績次第では10歳前後で進学コースが分かれます。まずは、以下の表にてその仕組みを見てみましょう。
表1: ベルリンの学校制度(概要)
| 教育段階 | 学年 | 主な学校種別 | 取得できる資格等 |
|---|---|---|---|
| 就学前教育 (Elementarbereich) | 1〜6歳 | 保育施設 (Kita) | 義務教育ではないが、法的に保育を受ける権利ありとみなされる |
| 初等教育 (Primarbereich) | 1〜6年生 (ベルリン ※) 1〜4年生 (多くの州) | 基礎学校 (Grundschule) | ― |
| 前期中等教育 (Sekundarstufe I) | 7〜9/10年生 (ベルリン ※) 5〜9/10年生 (多くの州) 学校職種により修了年が異なる | 統合中等学校 (*ISS: integrierte Sekundärschule) ギムナジウム (Gymnasium) 特別支援学校 (Förderschule) | 9年生/10年生修了:職業教育修了資格(BBR) 10年生修了:拡張職業教育修了資格(eBBR) 10年生修了:中等教育修了資格(MSA) |
| 後期中等教育 (Sekundarstufe II) | 11〜13年生 | 統合中等学校 ギムナジウム | 13年修了:一般大学入学資格 (Abitur:アビトゥア)*アビトゥアのコースがないISSもある 12年修了:一般大学入学資格 (Abitur) |
※ ベルリンの特徴
- →小学校(Grundschule)は6年制だが、他州では4年生が主流
- →早ければ10歳前後で進路分岐が始まる
- →成績が基準を満たせば5年生終了後にギムナジウム進学可能
- →1年生から10年生までが一緒に学ぶ共同学校(Gemeinschaftsschule)もある
ドイツの教育制度の大きな特徴は、小学4年生〜6年生という早い段階で進学トラックが分かれる点にあります。そしてこの構造こそが、その後の教育現場の現実を形づくっています。特に将来大学に進学するかどうかによって進路が大きく変わります。ドイツの大学入学にあたっては、日本のようにどの高校卒業でも良いというわけではなく、一般大学入学資格(Abitur:アビトゥア)が必要となります。すべての学校卒業後にアビトゥアが付与されるわけではないので、大学進学については小学4年生や6年生の段階で決まってしまうというなかなか厳しい制度になっています。
ベルリンでは2010年の学校構造改革により、従来の総合学校(Gesamtschule)はISS(統合中等学校)へと再編されました。ISSでもアビトゥア(大学入学資格)取得コースを設ける学校があり、制度上は進路の柔軟性が確保されています。この点については次回以降の記事で詳しく触れたいと思います。

小学校選びからすでに大変なベルリン
ベルリンでは住んでいる地区によって、学校事情が大きく異なります。各地区には学校局
(Schulamt)があり、住所によって指定校が決まります。しかし校区は日本のように固定ではなく、子どもの人数によって毎年見直されます。前年はA校が指定校だったのに、翌年はB校になる、ということも珍しくありません。
わが家もその影響を受け、上の子と下の子が別々の小学校に通うことになってしまいました。行事の日程が重なることがあったり、低学年のうちは送り迎えの手間がかかったりと、親の負担も増えました。それ以上に、きょうだいが同じ小学校に通えないということに、どこか寂しさを覚えました。
地区による格差という現実
知人のお子さんのケースも印象的です。もともとはドイツ語を母語とする生徒が比較的多い小学校が指定されるはずでしたが、区画変更により、道路を一本挟んだ別の学校が指定校となりました。学校見学の際、ロッカーの扉がいくつも壊れているのを目にし、衝撃を受けたそうです。その学校では移民背景を持つ生徒が大多数を占めていました。最終的に息子さんは別の学校に入学希望を出し、幸いにも認められたとのことです。
昨年、調査の仕事で訪問した別の小学校では、95%以上がドイツ語を母語としない生徒でした。1年生の段階でまったくドイツ語を話せない子どもも珍しくありません。
「そのような状況で、どのように授業を進めているのですか」と研究員が尋ねると、校長先生はこう答えました。「簡単ではありません。だからこそ、私たちは『すべての授業がドイツ語の授業である』という視点で取り組んでいます。大変ですがやりがいもあります。」
移民背景の多さが即座に学校の荒廃を意味するわけではありません。厳しい環境の中でも、真摯に教育に向き合う現場も確かに存在しています。
一方で、別の元生徒の話は対照的でした。息子の通う小学校の保護者会に出席していた大学生から聞いた話です。彼女はアラブ系移民家庭の出身で、両親がほとんどドイツ語を話せないため、弟の保護者会に代理出席していました。現在はアビトゥア(大学入学資格)を取得し大学で学んでいますが、こう語りました。「私の通っていた小学校では、授業がほとんど成立していませんでした。」ドイツ語が十分理解できない生徒が多く、授業態度も荒れがちで、多くの教師が十分に対応できない状況だったそうです。彼女は学習内容の多くを独学で身につけたといいます。そのように自力で乗り越えられるケースは決して多数派ではないでしょう。
教育現場に山積みになる課題
ベルリンには、「Brennpunkt(ブレンプンクト)」と呼ばれる、社会的課題が集中する地域があります。こうした背景から、小学校進学を前に、よりドイツ語母語話者の割合が高い地区へ住所登録を移す家庭も少なくありません。結果として、学校間の偏りはさらに強まります。
多様性は理念としては美しく聞こえますが、一定の語学力を前提とする教育現場では容易に機能するものではありません。専門家や教員不足などの問題も重なり、学校は多くの課題を抱えながら運営されています。
そして、そのような環境の中で行われる「早期の進路分岐」は、単なる制度上の区分ではありません。その線がどのように引かれ、誰がその影響を強く受けるのか。
次回以降に、分岐の先にある現実を見ていきたいと思います。
出典・参照
Senatsverwaltung für Bildung, Jugend und Familie. Berliner Schulsystem
rbb. Diese Berliner Brennpunkt-Schulen erhalten zusätzliches Geld
希代 真理子(きたい・まりこ)
メディア・コーディネーター
1995年よりドイツ・ベルリン在住。フンボルト大学でロシア語学科を専攻した後、モスクワの医療クリニックでインターン。その後、ベルリンの映像制作会社に就職し、コーディネーターとして主に日本のテレビ番組の制作にかかわる。2014年よりフリーランスとして活動。メディアプロダクションに従事。2020年にAha!Comicsのメンバーとして、ドイツの現地小学校を対象に算数の学習コミックを制作。2023年3月に初の共著書『ベルリンを知るための52章』刊行(明石書店)。
