ヨーロッパの見本市開催状況2022のまとめ
以前こちらでもお伝えしましたが、コロナ禍で中止・延期が相次いでいた見本市・展示会がヨーロッパでも戻ってきつつあります。私自身今年5つほど見本市・展示会での通訳や出展、ツアー同行をお手伝いさせていただく機会に恵まれました。もちろん全てが元通りというわけではありませんが、ビジネスが少しずつ戻ってくることは大変喜ばしいことです。今回は私の経験をもとに、ヨーロッパでの見本市状況についてお伝えできればと思います。
(お断り)
日本では見本市・展示会という単語は区別されることなく使われているようですが、見本市と展示会は正確には異なります。日本貿易振興機構(JETRO)は、見本市について「来場者を原則としてビジネス関係者に限定して (B to B)、商品の売買交渉を目的」とした商談の場と定義しています。それに対して展示会は「企業イメージの向上や新製品の紹介など、 当面の商取引よりもむしろ将来へ向けた企業価値の向上を目的」とした場です。普段展示会という言葉を使われている方も、見本市を展示会として読み替えていただければ幸いです。
戻りつつある見本市 – 出展が難しい中国企業の影響でやや縮小も、インドが台頭
概して伝統ある見本市はほぼ新型コロナウイルス流行前に戻りつつあります。日本の入帰国規制が緩和されて一定の条件を満たせば帰国直後の隔離が不要となったこともあり、6月以降は日系企業の出展・参加が当たり前になっているように思います。しかし、報道でもなされているとおり中国についてはなかなか難しいことがあるようです。防災見本市のInterschutzでお会いしたある中国企業においては、現地出展者の渡航はおろか展示商品の出荷も不可能となり、現地在住の通訳2名が広いスペースでポツンと座っている、ということもありました。Interschutzだけではなく多くの見本市で、中国企業が参加できない分のスペースを縮小して開催しているように思えます。年明けに開催されるambienteやChristmasworld(/Paperworld/Creativeworld)も、コロナ前であれば別々のイベントとして開催していましたが、2023年は同時開催されるようです。これらの見本市は中国企業の出展がかなり多かったため、その影響を受けているものと推測しています。
しかしながら欧州域内、米国からの出展者・参加者はほぼ通常通りといって良いかと思います。個人的に感じたことですが、テーマを問わず秋以降の見本市でインドからの出展者・参加者の方とお会いする機会が増えたように思います。インドは、2020年は新型コロナウイルスの影響がありマイナス成長でしたが、毎年5-8%程度の経済成長を続けていることもあり、さまざまな分野でインド企業と関わることは増えるように思えます。弊社の田中が株式会社WizWe様に寄稿した、インドでのビジネスに関する記事もよろしければご覧ください。
継続的な出展をおこなっている企業は成果が出ている
すべての海外ビジネスには初期投資が伴います。ロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料高や円安が進む現在において、高額な出展料や渡航費を負担して見本市に出展することは容易ではないと思います。しかしこれまで継続出展してきた企業様は一定の成果を上げていらっしゃるようです。
例えばあるメーカー様は製品・業界特質上、すぐに成果が出づらいということをよく理解した上で計画的な継続出展や社内体制構築を行われています。その企業様は継続出展の過程で、見本市で得たリードのランク分けやフォロー方法についてのノウハウを社内で蓄積され、見本市終了後のフォローアップ体制などもよく準備しておられます。それが功を奏して、ある見本市で知り合いになった顧客と、半年後別の見本市で対面再会を果たすことができて商談が前進したとおっしゃっていました。どの企業様においても見本市は1度の出展で簡単に成果が出るものではありません。そこを理解した上で長期的な戦略を立てた上で準備、事後フォローをきっちり行うことが重要だと改めて感じました。
テクノロジーの進化でメールやZoomなどで商談を進めることが可能になっても、やはり対面でお会いするインパクトには敵いません。こちらの企業様ではないですが日本から渡独されて現地のメーカーと直接交渉したことで、その商品の日本での代理店となることに成功した企業様もありました。本気度を示すために、わざわざ日本から来たという姿勢も重要だと思います。
海外見本市の出展は難しそうだけど、どうすればいい?
海外見本市出展は、特に費用面において中小企業様にとっては容易ではありません。どの見本市の開催期間中も宿泊施設なども高額になりますし、出展以外の付帯費用が多く発生します。少ない予算で成果を上げるにはどうすればいいでしょうか。
(1) 自治体・団体ブースや助成金の活用
日本の中小企業様にはまず、国や自治体の助成金の活用や自治体・産業団体ブースでの出展をお勧めします。自治体ブースでは、その自治体や財団などが押さえた小間にて他企業と共同出展するものです。決して大きなスペースではないですが、費用が抑えることができますし、什器の準備や通訳のアサインだけではなく、必要な資料の印刷なども主催自治体が行ってくれることもあります。助成してくれた団体への個別報告やお付き合いなどさまざまな制約はありますが、最初に様子を見てみたいという場合にはお勧めしたい手段です。
(2) 当日持参するものの準備(製品カタログ、価格表、ノベルティなど)
仮に自治体などのブースで出展が決まっても各企業様での準備が必要です。前述の企業様のようなリード獲得・フォローアップ方式の確立もそうですが、相手に「自社や製品の良さをどうわかってもらうか」という観点での工夫が必要です。
例えばパンフレットや製品カタログなどを単に英語にすればよい、というわけではなく、デザインなどの見せ方もよく検討が必要です。これらについては一度作成すれば他の商談や見本市でも使い回しは可能ですので、お金をかけてでも海外ビジネスに詳しい専門家に依頼されることをお勧めします。お客様にお渡しするサンプルやノベルティをご用意される企業様もいらっしゃいますが、それらについても同様です。
また、価格表を求められる製品については日本円ではなくUSD、EURなどでの価格設定も求められます。日系企業は概して価格体系が分かりづらいことも多いです。コロナ前の話ですが、価格表や価格体系が分かりづらく、見本市開催期間中に作り直しをするお手伝いをしたことも何度かあります。当日相手にお渡しするものすべてが商談に繋がりますので、手を抜かずに準備を行ってください。このデザインについては別途コラムで記載しようと思います。
(3) 積極的な情報収集を – トレンドや競合他社の情報収集、逆営業
見本市に出展する場合は自社のブースのことにかかりっきりになりがちですが、世界中の同業者が一堂に集まる見本市は情報収集の絶好の機会です。例えば競合他社の情報を入手することも可能で、私も業者のふりをしてお客様の競合他社の価格表などをもらいに行ったことがあります。欧米の競合他社がどのような営業ツール(製品パンフレットなど)を使っているのかなども、デザイン面でも非常に参考になります。また業界のトレンドを説明するセミナーなどもありますし、後日インターネット配信もしていたりしますのでそういったものもチェックいただきたいところです。
なお、他社のブースに行って自社の製品を営業する「逆営業」は基本的には嫌われますが、大規模で忙しい見本市の場合は有効なこともあります。相手方も会期中に他ブースを訪問する時間がなく、「こちらに来てくれないか」と言われることもあります。もし「自社のブースにあまりお客さんが来ないなあ」という場合は、名刺と製品パンフレットなどを持って顧客になりそうな企業のブースを訪問してみてください。特に失うものはありませんし、相手にとってもメリットがあること(例:日本での販売代理店網など)を示すことができれば話を聞いてくれる可能性はあります。ただし見本市会場は概して広いので、開催前にホームページでチェックして効率的に回られることをお勧めします。また、最終日午後はどの見本市も開店休業状態ですので、前日までが勝負です。
今回は私の経験に基づき、現在の見本市の状況をお伝えしました。海外見本市出展は決して容易なことではありませんが、医療や食品など日系企業の技術や製品が高く評価される分野あります。新型コロナウイルスの落ち着きに伴い海外渡航が以前よりも容易になりましたので、販路開拓の機会としてぜひご活用ください。
出典・参考
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)2015.「見本市と展示会の話 (改訂版)」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/j-messe/column/pdf/fair_exhibition.pdf
The World Bank 2022. “GDP growth (annual %) – India”
https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=IN
見本市に出展して新たなビジネスを広げよう
https://j-seeds.jp/column/tradefair
コロナ禍における見本市出展
https://j-seeds.jp/column/tradefair-covid19
ヨーロッパに見本市が帰ってきた
https://j-seeds.jp/column/post-eu220602
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。