ヨーロッパに見本市が帰ってきた
以前こちらでご紹介しました通り、ヨーロッパでは見本市・展示会が盛んです。特にドイツではハノーファー・メッセや、メッセ・フランクフルトをはじめとした大きな見本市会場が複数あります。新型コロナウイルスの流行でこの2年間、多くの見本市が中止・延期、またはオンライン開催となっていましたが、本格的な復活の兆しを見せ始めています。5月に複数の見本市に行く機会がありましたので、コロナ前の違いなどと合わせて紹介します。本情報は2022年5月17日時点の情報です。
(お断り)
日本では見本市・展示会という単語は区別されることなく使われているようですが、見本市と展示会は正確には異なります。日本貿易振興機構(JETRO)は、見本市について「来場者を原則としてビジネス関係者に限定して (B to B)、商品の売買交渉を目的」とした商談の場と定義しています。それに対して展示会は「企業イメージの向上や新製品の紹介など、 当面の商取引よりもむしろ将来へ向けた企業価値の向上を目的」とした場です。普段展示会という言葉を使われている方も、見本市を展示会として読み替えていただければ幸いです。
ヨーロッパの見本市は既にアフター・コロナに
大きな見本市は、基本的には同じ場所で毎年もしくは隔年など決まった周期で開催されます。新型コロナウイルスの影響で時期がずれた見本市もあるようですが、多くの見本市・展示会がコロナ前同様に開催しようという動きがあります。世界最大級の医療系見本市MEDICAのように、ワクチン普及が進んだ昨年から様子を見ながら再開催を行っていた見本市もありますが、今年に入ってから本格稼働というところが多いようです。他国の来場者の方も「いよいよこれからだろう」とおっしゃる方が多かったです。見本市は会場を有する自治体や近郊のホテル、公共交通機関などが一体となって盛り上げていくものなので、大きな見本市会場を抱える自治体は気合が入っています。シュトゥットガルトの見本市会場(メッセ・シュトゥットガルト)は空港に近い、市街地から少しはずれにありますが街で見本市の大きな広告をいくつか見かけました。
日系企業にはチャンス到来?
しかし来場者の質と数についてですが、もちろん全てがすぐに元通りというわけではありません。ただ日系企業についてはチャンスが多いにあろうかと思っています。それは以下の2点の理由からです。
(1) 質の高いバイヤーは絶対に見本市に来る
昨年の様子見開催時期であっても、「その分野のトレンドを知りたい」「よい取引先を開拓したい」という野心のあるバイヤーは会場に足を運んでいたそうです。その頃出展した企業様からは収穫があったと聞いています。新型コロナウイルス流行でビジネスに大きな影響を受けている企業は少なくありませんが、ここで新しいビジネス機会をうかがうバイヤーは安定した販路を持っており、ビジネスが安定しているという証でもあります。
(2) 競合国からの参加が減る
これは特に中国ですが、厳しい入国や隔離規制を国が強いている国からの出展が激減しているように思います。渡航は可能であっても、帰国時の行動制限がとても厳しいため現地法人を有しない中華系企業には出展のハードルは高いようです。今後の中国政府のコロナ施策はどうなるかはわかりませんが、一部の国からの出展が難しい今はチャンスとは言えそうです。ちなみにですがアメリカからの渡航・出展は、ほぼ通常通りに戻りつつある印象を受けました。
現地へ渡航する場合の留意点
バーチャル見本市もありましたが、やはり対面での出展には敵わないでしょう。日本の入国規制がだいぶ緩和されたこともあり、各見本市で日本企業の出展や日本からの来場者は目立ちました。ただ全てが元通りとは限らないので以下の点にご注意ください。
スケジュールに余裕を持って
これは新型コロナウイルスというよりもむしろロシアのウクライナ侵攻の影響ですが、ヨーロッパ便についてはフライトの直前キャンセルや航路変更が相次いでいます。こちらに記載しましたが、南回りもしくは北極周りでいつもよりも時間がかかっています。いつもよりも時間がかかることを配慮してスケジュールを組まれた方が良いと思います。これは後述する帰国時PCR検査でも同様です。
日本帰国時の規制など
日本帰国時の隔離は無くなりましたが、帰国時のPCR検査は必須です。日本政府所定のPCR検査フォーマットやそれに準じたものでないと、搭乗拒否や上陸拒否(隔離など何らかの措置が取られる)の場合があります。住み慣れていない外国でそれらに対応したPCR検査場を予約し、探すことは容易ではありません。現地の日本国大使館のホームページに記載されていることも多いですが、PCR検査を行う業者が「アフターコロナ」モードに入ってしまい日本書式対応をしてくれなくなった、特定の書式では結果を得るのに時間を要するようになったなどがあるようです。これらは事前に情報収集を行ってから渡航しましょう。そして、現地で「実際調べた情報と違った」となっても焦らず対処できるようなスケジュールの余裕は保つようにしましょう。
「アフターコロナモード」になりすぎない
現在ドイツでは公共交通機関などではマスクは必須ですが、見本市・展示会会場では主催者判断に委ねられているところが多く、多くの出展者・来場者がマスクをしていません。ご自身がマスクを外すかどうかは自由ですが、新型コロナウイルスに感染するリスクが上がります。帰国時のPCR検査で陽性になった場合、1週間程度は飛行機の搭乗ができないため大幅な予定変更が発生します。また、仮に渡航者であってもその国や自治体の指示に従う必要があります。隔離中の食事はどうするのか、もしホテルが満室で移らなければならなかった場合、コロナ感染中に受け入れてくれるのかなど、考えることが多いです。異国でコロナに感染するのは大変ですので、健康管理には十分ご留意ください。
今回は見本市復活に沸くヨーロッパの現状をお伝えしました。ビジネス・チャンスが増える機会ですので、みなさまもぜひ出展や来場をご検討ください。ただし、新型コロナウイルス流行やロシアのウクライナ侵攻により予定変更やこれまでとは異なる配慮が必要なことが多いので、十分ご準備することをお勧めします。
出典など
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)2015.「見本市と展示会の話 (改訂版)」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/j-messe/column/pdf/fair_exhibition.pdf
UFI The Global Association of the Exhibition Industry, April 2019. “Global Economic Impact of Exhibitions 2019 Edition”
https://www.ufi.org/wp-content/uploads/2019/04/Global-Economic-Impact-of-Exhibitions_b.pdf
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。