Uberがアメリカで患者病院送迎サービスUberヘルスを開始・その狙いとは?

Uberが始めた患者病院送迎サービスUberヘルス

ライドシェアリング大手のUberが、医療機関向け患者送迎サービスのUberヘルス(Uber health)の提供を開始しました。「医療機関向け」となっているのを見て奇異に思われた方もおられると思いますが、このサービスは患者向けではなく、医療機関向けのサービスなのです。ということはつまり、このサービスの料金を支払うのは、送迎を受ける患者ではなく、医師または医療機関なのです。

なぜ医療機関がこのサービスのコストを負担するかは後に説明しますが、UberのライバルのLyftも、数年前からUberヘルスと同様のサービスのテスト運行を行っています。どうやら両者ともに、医療機関を戦略上重要なパートナーと位置付けているらしいようです。

なお、Uberは2017年7月から全米の100以上の病院、クリニック、リハビリ施設、介護施設などと提携し、Uberヘルスのテスト運用を続けてきたそうです。テストフェーズでの実証実験を終え、この度正式にサービスをリリースし、サービス対象エリアを大きく拡大しました。

医療機関のリクエストで患者を送迎

Uberヘルスの使い方は、通常のUberの使い方と同様です。UberヘルスのスマホアプリかPCアプリをダウンロードし、インストールすればすぐに利用可能です。通常のUberと違うのは、予約期間の長さです。Uberヘルスでは、最短で30分から最長で30日先までのスケジュールを予約できます(なお、送迎スケジュールを予約するのは患者ではなく医療機関であることにご注意下さい)。

複数の患者を同じルートでピックアップする相乗りサービスも利用可能です。送迎される患者へのUberからの連絡(車到着のお知らせなど)は、すべてテキストメッセージで行われ、高齢者にも優しい仕組みになっています。

医療機関にとってもUberヘルスは便利な仕組みになっています。患者の送迎スケジュールはパソコンかスマホのダッシュボードで簡単に予約できます。送迎中の患者の車はオンラインでリアルタイムトラッキングが可能です。Uberヘルスの利用料金は月ごとにまとめて請求され、明細もいつでも確認できるようになっています。

医療機関と患者の双方にとって使いやすく、メリットをもたらすUberヘルスの評判は軒並み高いようです。Uberヘルスのウェブサイトには、双方によるポジティブなコメントが多数掲載されています。

医療機関がUberヘルスを使う理由

さて、医療機関がUberヘルスを使う理由ですが、一言でいうと経済的な理由です。ある調査によると、アメリカでは年間360万人が診療予約時間に現れない「ノーショー(No-show)」を行っていて、医療機関全体に1,500億ドル(約15兆7,500億円)もの巨額の損失を与えているとされています。患者が予約時間に現れないノーショー率はなんと30%にも達しており、多くのアメリカの医療機関が患者のノーショーに悩んでいるのです。

Uberヘルスを利用する前は患者の送迎にタクシーを使っていたという、ネバダ州北部で地域医療施設を運営するある医師は、「以前は患者の送迎にタクシーを使っていました。タクシーを使う患者にバウチャー(日本のタクシーチケットとほぼ同じもの)を渡すのですが、バウチャーだと患者がどのルートを辿って送迎されているのかを確認できません。仮に途中でどこかに立ち寄られたり、回り道をされていてもわかりません。実際に、想定していたコストよりも20%から40%高く請求されたケースもありました」とコメントしています。

また、自前の送迎サービスを提供している医療機関も、Uberヘルスに切り替える事で送迎サービスをUberへ丸投げできるようになります。運転手や車両などの固定費を削減でき、医療スタッフを患者のケアへより集中させる事も可能になるので、経営的にもプラスです。医療機関にとってUberヘルスは、大きなメリットをもたらすありがたいサービスなのです。

車椅子使用の患者にも対応へ

ところで、Uberヘルスには解決が急がれる喫緊の課題があります。車椅子使用の患者への対応です。Uberに対しては、ある身体障がい者保護団体から、車椅子使用の利用者へサービスを提供していない事に対する集団訴訟が起こされています。実際には、Uberは大型車両を使ったUberWAVで車椅子への対応を行っているとしているのですが、訴えを起こした側の主張によると、Uberは車椅子使用の利用者へサービスを提供していないか、または非常に稀にしか提供していないとしています。いずれにせよ、高齢者の利用が多いと思われるUberヘルスでは、車椅子への対応は必須になるでしょう。この課題をUberヘルスがどのように解決するか、興味深く注視してゆきたいところです。

Uberヘルスは、ノーショー問題というアメリカ医療の固有の問題から生まれたニュービジネスです。日本人的な感覚では、診療を予約しておいて当日現れないなど言語道断という感じですが、アメリカでは当たり前の事なのでしょう。長らくアメリカの医療を遠くから眺めている者としては、アメリカの医療にはまだまだ多くの驚くべきことが隠されているような気がします。そして、それらの驚くべきことが、今後さらに多くのニュービジネスを生み出すことになるでしょう。それを良い事としてとらえるか、または悪い事としてとらえるか、筆者は少々複雑な感情を抱いています。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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