【アメリカ人の生活】アメリカで食料品をBNPL(代金後払い)で買う人が増加か?

アメリカで日常の食料品をBNPL(Buy Now, Pay Later, 代金後払い)で買う人が増加しています。バイデン前政権時代から続く持続的なインフレーションに加え、トランプ関税の発動による生活必需品の値上がりが一般的なアメリカ市民の生活を直撃、少なからぬ数の人を生活防衛に走らせています。本記事は、物価上昇が続くアメリカで広がる食料品をBNPLで買うトレンドの広がりについてお伝えします。
調査対象者の四人に一人が食料品をBNPLで購入
アメリカのローン比較サイトのレンディング・ツリー(Lending Tree)が今年2025年4月に実施した調査によると、調査対象となった18歳から79歳までのアメリカ市民2000人のうち、四人に一人が恒常的に食料品をBNPLで購入していることがわかりました。前年2024年度調査結果では14%でしたが、一年で11ポイントも悪化しており、直近のアメリカ人の暮らしが如実に困窮しつつあることを示しています。
同調査はまた、調査対象者の41%が昨年一年間に一回以上食料品をBNPLで購入したと回答したとしており、食料品をBNPLで購入することが「異常ではない」状態へとシフトしつつあることも示しています。
レンディング・ツリーのアナリスト、マット・シュルツ氏は、「多くの人が生活に困窮し、予算のやりくりに四苦八苦しています。インフレーションは解消せず、金利も高い水準のままです。さらにトランプ関税も発動され、より多くの人の生活を厳しいものにしつつあります。食料品をBNPLで購入する人は、やむを得ない手段としているのです」とコメントしています。

BNPLには利息がかからないものの
ところでBNPLには通常、利息がかかりません。利用者の多くは数週間から数か月の間に数回の分割で代金を支払っています。ところが、BNPLには利息がかからない一方で、未払いなどに対する違約金が発生します。違約金の額や適用条件などはBNPLのプロバイダーによって違いますが、中には支払遅延ごとに30ドルの違約金を課したりするケースもあり、状況によってはクレジットカードの利息などよりも高額の違約金が課されたりします。
シュルツ氏は、BNPLの利用者の60%が複数のBNPLプロバイダーを同時に利用していることを指摘しつつ、「BNPLを利用する際には、違約金の適用条件などに十分注意を払うべきです。BNPLは利息がかからず、次の給料日までのつなぎとして使えば非常に便利なツールになります。しかし、複数のBNPLを利用するといった場合には支払管理をしっかりと行い、不払いなどを起こさないようにすることが重要になってきます」と説明しています。

フードデリバリーでもBNPLの利用が広がる?
食料品などの購入に加え、フードデリバリーでもBNPLの利用が増加する予兆を見せています。BNPLプロバイダーのKlarna(クラーナ)は、フードデリバリーサービス大手のドアダッシュと提携し、ドアダッシュでの注文で同社のBNPLが利用可能になったと発表しました。ドアダッシュで注文し、決済手段でKlarnaのBNPLを選択すると、利息無しの四回分割払いに出来るという仕組みです。
前に「アメリカで利用が拡がる「BNPL」とは?」と言う記事で、アメリカでBNPLは販売価格50ドルから1000ドル程度の少額商品の購入で使われるケースが多いことをご紹介しましたが、注文価格が多くて数十ドル程度といった「極少額」のフードデリバリーでBNPLが利用可能になったというニュースは良くも悪くもアメリカ社会へそれなりのインパクトを与えたようで、CNNなども「アメリカ社会は、ついにファストフードもBNPLで購入する時代を迎えたようだ」と、やや落胆したかのようなニュアンスで報じています。

クレジットカードの利用限度額がいっぱいに?
恒常的に食料品をBNPLで購入するアメリカ人の増加は、これまで食料品をクレジットカードで購入していたものの限度額がいっぱいになり、やむを得ずBNPLを使わざるを得なくなった人が増加していることも関係していると思われます。
ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)がまとめたところによると、2024年末時点のアメリカのクレジットカード債務の総残高は1.21兆ドル(約171兆8200億円)で、史上最大を更新しています。
アメリカの大手消費者信用情報会社トランスユニオンによると、直近のアメリカ人一人あたりの平均クレジットカード債務残高は6455ドル(約916万円)で、平均利率21.91%となっています。これは、仮に残高を87か月で返済するとした場合、利息だけで6477ドル(約919万円)も支払う計算になり、家計の資金繰りにとって大きなマイナスとなっています。
現在のアメリカにおいてBNPLは、過度に膨張したクレジットカード債務と、それに付随する高率の利息負担からの逃避先として機能し始めている可能性も大です。あくまでも消費を前提としたアメリカ人の生活を支える、事実上のバックアップシステムとして本格的に使われ始めていると見るのが正しいようです。
上述の記事で、BNPLの利用についてはクレジットカード債務のように全体の「利用残高」が把握できないため、利用の総額がいくらであるのかわからない「幽霊債務」(Ghost debts)の状態になっている旨も説明しましたが、その幽霊債務が今後どんどん膨らみ、ある瞬間に破裂することの無いよう祈るばかりです。

前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。