ロサンゼルスで完全無人「ロボタクシー」の本格的運行開始

Google持株会社Alphabet傘下の無人自動車開発のWaymo(ウェイモ)が、昨年2024年11月からロサンゼルスで完全無人「ロボタクシー」の本格的な運行を開始して話題になっています。Waymoは、アリゾナ州フェニックス、カリフォルニア州サンフランシスコでロボタクシーの運行を始めていましたが、ロサンゼルスのような巨大な車社会での運行は初となります。ロサンゼルスでのロボタクシーの運行は、アメリカ社会にどのようなインパクトを与えるのでしょうか。
Waymoと言う会社
Waymoは、2005年に発足したスタンフォード大学レーシングチームに端を発する無人自動車開発企業です。2009年にGoogleの無人自動車開発プロジェクトに吸収され、2010年にプロジェクトが公開、2016年にGoogleプロジェクトから卒業してAlphabet傘下の独立企業となり、同時に社名をWaymoに変更しました。Waymoは2020年10月に世界で初めて公道での自動車無人走行に成功、アリゾナ州フェニックスで世界初の商用ロボタクシーの運行を開始しています。
Waymoは、ベンチャーキャピタルなどの投資家の間で評判の「ユニコーン企業」としても知られています。「ユニコーン企業」(Unicorn company)とは、時価総額10億ドル(約1500億円)以上の未上場企業のことですが、Waymoはこれまでに複数のラウンドで総額56億ドル(約8400億円)もの資金を調達しています。Waymoには、世界初の商用インターネットブラウザ「ネットスケープナビゲーター」を開発したマーク・アンドリーセン率いるベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロヴィッツも投資しています。

乗り方はカンタンな「ロボタクシー」
Waymoのロボタクシーですが、乗り方は簡単です。ユーザーはまず、スマホアプリのWaymo One Appを自分のスマートフォンにダウンロード・インストールします。インストール後、自分のアカウントを開設し、決済用クレジットカード情報を含む個人情報を入力します。続いてアプリを立ち上げて行き先を入力すると近隣のロボタクシーの利用可能状況や行き先までのルート候補と予想運賃などが表示されるので、了解すればロボタクシーが迎えに来ます。ロボタクシーが迎えに来るとアプリを使ってドアを開け、「運転スタート」をタップすれば無人走行の開始です。あとは社内に流れるBGMに身をゆだね、目的地までリラックスして過ごすだけです。
気になるWaymoの利用料金ですが、Waymoによると、UberやLyftなどの人間が運転するライドシェアのサービスの利用料金とほぼ同じだそうです。一方、Waymoの場合、運転手にチップを支払う必要がまったくないため、その分割安になります。チップの相場は料金の20%程度とされているので、UberやLyftなどを利用するよりも相当安くなりそうです。

ロサンゼルスでのサービス利用可能エリアは?
そんなWaymoのロボタクシーですが、2024年11月からロサンゼルスでの本格的な運用が始まりました。ロサンゼルスといえば全米最大の車社会とされる大都市ですが、ロサンゼルスでのサービス利用可能エリアはどこでしょうか。
Waymoによると、ロサンゼルスでのサービス利用可能エリアはロサンゼルス郡(カウンティ)を中心とする80平方マイル(約207.19平方キロメートル)の範囲で、ダウンタウン、ハリウッド、ビバリーヒルズ、サンタモニカなどの主要観光スポットを含んでいます。ロサンゼルスのダウンタウンを拠点にして、チャイナタウン、リトル東京、ドジャースタジアムなどを観光し、翌日にハリウッドとビバリーヒルズ、その翌日にウェストロサンゼルスとサンタモニカを観光する。そんな典型的な観光ツアーが、ロボタクシーを使って簡単にできるようになったのです。
注意点は、Waymoは現在、ロサンゼルス国際空港での送迎はしていないことと、高速道路の走行が原則できないことです。よって、日本からロサンゼルス国際空港へ到着してもロボタクシーは迎えに来てくれません。また、フリーウェイなどの高速道路を使った移動もできないので、長距離の移動には使えないことになります。現時点では、ロサンゼルスでのロボタクシーの利用は、あくまでも近距離の移動がメインになりそうです。

ロボタクシーは車社会ロサンゼルスをどう変える?
現時点の車社会ロサンゼルスにおいては、ロボタクシーはあくまでも新参者であり、その数も微々たるものに過ぎません。しかし、ロボタクシーの利用は急激に増えてきており、特に近距離の移動においてロボタクシーは、人間が運転するタクシーやライドシェアサービスを徐々にリプレースしてゆく可能性があります。人間のドライバーにチップを支払う必要が無いのに加え、人間のドライバーよりもロボタクシーの方が安全だからです。
Waymoによると、ロボタクシーの傷害をともなう交通事故発生率は、人間の運転による自動車の6.7倍も低く、件数では85%も少なくなっています。さらに、警察の介入を伴う事故発生率も人間の運転による自動車の2.3倍も低く、件数では57%も低くなっています。自動車の運転をAIに置き換えることで交通事故の発生率の減少が期待でき、ひいては社会全体の交通インフラのコストも大きく削減できる可能性が生じます。ロサンゼルスでのWaymoのロボタクシーの運行開始は、来るべき次の車社会のプロトタイプを垣間見せることになりそうです。

前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。