【アメリカ大統領選挙】カマラ・ハリス氏とはどういう人物か?

ドナルド・トランプ氏暗殺未遂事件に続き、世界を驚かせた現職米大統領ジョー・バイデン氏の大統領選撤退表明。現在83歳と歴代米大統領の中で最高齢のバイデン氏ですが、後継に指名したのはバイデン氏に仕えてきた現職副大統領のカマラ・ハリス氏です。大統領の影に隠れて目立たない存在の米副大統領ですが、民主党の大統領候補に正式指名されるや支持率が急上昇、世界中の注目を集めています。カマラ・ハリス氏とは一体どういう人物なのか、概要をまとめてみます。

カリフォルニア生まれの移民二世、ハリス氏

カマラ・ハリス(Kamala Devi Harris)氏は、1964年10月20日生まれのアメリカ人女性です。サンフランシスコ対岸の街オークランドに、インド系移民で生物学者の母と、ジャマイカ系移民でスタンフォード大学経済学部教授の父のもとに生まれた移民二世です。傍から見れば相当なインテリファミリーに生まれたハリス氏ですが、両親はハリス氏が7歳の時に離婚し、ハリス氏は母親と姉とカナダのケベック州へ引っ越します。

現地のウェストマウント高校を卒業後、モントリオールのヴァニアー・カレッジを経由してワシントンDCのハワード・カレッジへ転籍、政治科学と経済学の学位を取得して卒業。その後カリフォルニア大学ヘイスティング校ロースクールへ入学、1989年に法学博士となり卒業、カリフォルニア州アラメダ郡の地区検事長(District attorney)に就任します。

キャリアの大半を司法畑で形成、カリフォルニア州司法長官に

アラメダ郡の地区検事長としてキャリアをスタートさせたハリス氏ですが、在任三年間の評価は、「上昇過程にある有能な検察官」(an able prosecutor on the way up)だったそうです。その後カリフォルニア州失業保険上訴委員会委員、カリフォルニア州医療支援委員会委員などを経て、1998年にサンフランシスコ市地区検事長補佐に就任します。

やがて2002年にサンフランシスコ市地区検事総長選挙へ出馬し、56%の票を獲得して当選します。ハリス氏は、その後2010年にカリフォルニア州司法長官選挙に立候補し、当選します。なおハリス氏は、女性として、さらに黒人女性として初のカリフォルニア州司法長官になった人物です。

第32代カリフォルニア州司法長官としてのハリス氏は、銀行による強引な担保不動産処理を禁じる「住宅オーナー保護法」を成立させ、またカリフォルニア州による死刑制度に間接的に反対するなど「リベラル政治家」としての片鱗を見せ始めます。また、賛否両論を呼んだ、意図的にずる休みをする子供の親に刑事罰を与える法律を制定させたのもこの頃です。

カリフォルニア州司法長官から上院議員、米副大統領へ

ハリス氏は、2016年にアメリカ議会上位議員選挙に立候補し、60%の票を得て黒人女性として二人めの上院議員に当選します。上院議員としてのハリス氏は、ドナルド・トランプ氏の政策から移民を保護する公約を掲げるなど、トランプ氏・共和党との対決姿勢を明確に打ち出しています。また、2030年までに再生可能エネルギー100%を目指す「グリーン・ニューディール政策」に強烈な支持を表明しています。

ハリス氏はその後、2019年に米大統領選挙の民主党予備選挙に立候補し、撤退後にジョー・バイデン氏により副大統領候補に選出され、2020年に黒人女性として初めて第49代米副大統領に就任しました。

一見して順風満帆のキャリアを歩んできたかに見えるハリス氏ですが、政治家としての彼女の人物像を短く表すならば、「マイノリティ寄りのマイノリティ政治家」「銃規制、人工中絶、LGBTQ+保護、気候変動対策などに前向きなリベラル政治家」とでもすべきかと思われます。

ハリス氏は「黒人」なのか?

ところで、ハリス氏を形容する言葉として「黒人女性初のカリフォルニア州司法長官」「黒人女性初のアメリカ副大統領」というフレーズが頻繁に使われますが、一部のアメリカ人、とりわけ一部の「黒人アメリカ人」の中には、そうした表現に対して違和感を覚える人が少なくないとされています。

ハリス氏の対抗馬のドナルド・トランプ氏も、ハリス氏のその「弱点」をしばしば突いてきます。アメリカ黒人ジャーナリスト協会の講演でトランプ氏は、ハリス氏が黒人だと自ら主張することに異議を示し、「彼女は最近まで自分はインド系移民の子だと主張してきた。ところが、最近になって彼女は、自分は黒人だと言い始めた。彼女はいつ黒人になったのだ。彼女はインド系アメリカ人なのか、それとも黒人アメリカ人なのか、一体どちらなのだ」と揶揄しています。

インド系移民の母とジャマイカ系移民の父の子として産まれたハリス氏は、アメリカ国勢調査局の定義による「ジャマイカ系移民は黒人とする」に従うと、「黒人の子は、すなわち黒人」であるということになります。しかし、アメリカで一般的に「黒人」という場合、多くの人は「奴隷としてアフリカから強制的にアメリカに連れてこられた人、およびその子孫」であるという認識をもっていて、ハリス氏は「黒人ではない」とする「本当の黒人」が少なくないのです。

カマラ氏が「黒人」なのかどうかについての議論は、今後さらに過熱してゆくと思われます。ドナルド・トランプ氏は、間違いなくそこをしつこく追及してくることでしょう。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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