アメリカで注目のFintech企業・マネーライオン

マネーライオンという会社

 マネーライオン(Money Lion)は2013年設立、ニューヨークに拠点を置くFintechスタートアップ企業です。マネーライオンは、同社がパーソナル・ファイナンス・プラットフォーム(Personal Finance Platform:PFP)と呼ぶユニークなプラットフォームを開発しています。マネーライオンの投資家の評価は高く、同社はこれまでにベンチャーキャピタルのエディソン・キャピタルからのシリーズA投資による2,250万ドル(約24憶7,500万円)の大型投資を成功させています。エクイティファイナンスに加え、同社は別にデットファイナンスでも6億5千万ドル(約715億円)の巨額の資金を集めています。

 そんなマネーライオンですが、そのビジネスモデルの中核は個人に対するパーソナルローンです。マネーライオンのパーソナル・ファイナンス・プラットフォームアプリを使うという事は、マネーライオンからローンを借りるという事とほぼ同義です。

マネーライオンのパーソナル・ファイナンス・プラットフォーム

 では、マネーライオンのパーソナル・ファイナンス・プラットフォームを見てみましょう。アプリはパソコンとスマホの両方からログイン可能です。アカウントを開設し、ログインするとダッシュボード画面が現れ、ローンの申し込みメニューが現れます。申し込みは簡単で、オンラインフォームに年収や社会保険番号などの必要事項を記入して申し込みます。マネーライオンのローンは最長3年の短期無担保ローンが中心で、金利は5.99%から29.99%となっています。審査はスピーディーで、申し込みから最短1営業日で口座へ入金されます。

 マネーライオンのパーソナル・ファイナンス・プラットフォームがユニークなのは、単にローンの申し込みがオンラインで出来るからではありません。マネーライオンはパーソナル・ファイナンス・プラットフォームを通じて、クレジットモニタリングとパーソナル・ファイナンスの機能を提供しているところがユニークなのです。

 例えば、利用者はマネーライオンのパーソナル・ファイナンス・プラットフォームで自分のクレジットスコアのシミュレーションが出来ます。マネーライオンの利用者は平均で月に3.9回クレジットスコアをチェックしているそうで、クレジットスコアを知る事でムダのない計画的な消費が可能になります。また、パーソナル・ファイナンス機能が利用者の資金繰りを管理し、パターンを認識してマイナスになりそうな時に短期のローンをオファーしてきます。利用者の消費パターンを管理し、フィナンシャル・アドバイザーとして機能しているわけです。

高まるPFPへのニーズ

 マネーライオンのサービス開始以来、同社の利用者は増え続けています。マネーライオンは、単にパーソナルローンを貸し付けるのではなく、返済スキームや消費パターンなどを含めたパーソナル・ファイナンス・マネジメントの機能を提供する事で、お金の貸し手と借り手との健全な関係を構築しているのです。その意味で、マネーライオンほど現在最もアメリカらしいFintechベンチャーはないといえるかもしれません。

 マネーライオンはまた、利用者に様々なインセンティブを提供しています。返済が通常通り行われると返済ごとにポイントがもらえます(この時点で、既に日本ではありえない話だと思いますが)。ポイントが貯まるとAmazonギフトカードなどと交換できます。また、マネーライオンは営業コストを下げるために「ブースト」と呼ばれる紹介制度を用意しています。家族や友人を紹介してローンが実行されると金利が下げられるのです。ブーストを利用する事で利用者の金利は下がり、マネーライオンの営業コストも下がります。ある種のウィン・ウィンの関係を実現しています。

PFPの今後

 パーソナル・ファイナンス・プラットフォームの台頭は、お金の貸し手が借り手の生活や消費スタイルにまで関与するという新しい金融スタイルの誕生を意味しています。マネーライオンのケースは、お金の貸し手が借り手の生活に関与する事で、ある種の健全な関係が構築できる事を示しています。そして、この流れは、他の金融セクターにも波及する可能性があると考えられます。

 お金の貸し手が借り手の生活へ関与する金融機関としては、ソーシャルレンディングのSoFiなども注目を集めています。同業者としてSoFiと事業がバッティングするかとの問いに対し、マネーライオンの創業者でCEOのディワカー・チャウベイ氏は、「SoFiはクレジットスコア750点以上の人しか相手にしません。我々はクレジットスコアで中間の70%の人達を相手にしているのです」とコメントし、お互いに棲み分けがなされているとしています。

 昼食後にスターバックスの高額なラテを毎日飲まない方がいいとまでアドバイスするマネーライオンのPFPは、今後さらに進化を続けるでしょう。今のところは短期の小口のパーソナルローンに限定されていますが、いずれ住宅ローンや教育ローンなどの領域にも進出するでしょう。ある意味借り手にやさしい貸し手として、マネーライオンは今後も成長を続けてゆくでしょう。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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