2024年7月1日からカリフォルニア州で「ジャンクフィー法」が施行

2024年7月1日から、カリフォルニア州で通常の表示価格に上乗せして客に請求する各種の「ジャンクフィー」を禁止する「ジャンクフィー法」が施行されました。特に飲食店やホテルなどのホスピタリティ産業に携わる事業者が大きな影響を受けると見られていますが、「ジャンクフィー」が禁止される背景には何があるのでしょうか。現状をお伝えします。

2024年7月1日から施行された「ジャンクフィー法」

「ジャンクフィー」(Junk Fee)とは、「何らかのサービスなどの対価として客に請求される、客が予期していない、客に対してあらかじめ明示されない、隠されたフィー(料金)のこと」です。アメリカには想像以上にジャンクフィーが存在しており、かねてより透明性に欠けるなどの理由で問題視されてきました。

例えば、コンサートチケットなどを販売するチケッティング会社は、チケットマスターなどの販売店での販売価格を290ドルとする一方で、「サービス料」や「プロセッシング料」などの名目の「ジャンクフィー」を客に上乗せして請求し、最終価格を337.9ドルへ引き上げていたとされています。

チケッティング会社以外にも、ホテルが請求する「リゾート料」「従業員安全維持費用」などの各種の「サーチャージ」、銀行の「最低残高維持費用」、クレジットカード会社の「支払延滞料」、自動車販売店の各種の「サーチャージ」、賃貸住宅申込の際に請求される「入居審査費用」、飲食店の「従業員サポート料」や「サービス料」等々、まさしく想像以上の数の「ジャンクフィー」がアメリカには存在しています。そして、今回カリフォルニア州で施行された「ジャンクフィー法」は、特にホスピタリティ産業と飲食店における「ジャンクフィー」の請求を厳しく禁じる内容となっています。

カリフォルニア州の「ジャンクフィー法」

今回施行されたカリフォルニア州の「ジャンクフィー法」(Junk Fee Law)ですが、上述の通り、特にホテルなどのホスピタリティ産業と飲食店における「ジャンクフィー」の請求を厳しく禁じる内容となっていますが、具体的に何が禁じられ、何を行うよう求められているのでしょうか。

まずホテルなどのホスピタリティ産業ですが、アメリカのホテルで一般的な「リゾート料」の上乗せが禁じられ、「リゾート料」を徴収する場合は事前に客に説明し、トータルの費用について合意することが求められるようになります。同様に「ミニバー利用料」「インターネット利用料」「アーリーチェックイン・レイトチェックアウト料」なども事前の明示と客の合意が求められることになります。

飲食店においては、「サービス料」「オンラインオーダーフィー」「従業員健康保険サーチャージ」「割り勘手数料」などの「サーチャージ」を徴収する際は、事前の説明と客の合意が求められることになります。特にこれまで客にまったく通知せずに上乗せしてきた「サービス料」の上乗せが、正式に法律で禁じられることになります。

「ジャンクフィー」上乗せ禁止で経営が困難になる店も

一方、飲食店などを中心に、「ジャンクフィー」上乗せ禁止で経営が困難になる店も出てくるという懸念の声も上がっています。カリフォルニア・レストラン協会は、これまで「サービス料」や「従業員健康保険サーチャージ」などの「ジャンクフィー」を上乗せしてきた店の多くは、「ジャンクフィー」を店の売上ではなく従業員のベネフィットとして還元しているので、透明性を確保するという前提で、「ジャンクフィー」の上乗せを継続させてほしいという嘆願活動を行っています。

カリフォルニア州では、先に実施されたファストフードレストラン従業員の最低賃金引上げの影響などもあり、飲食業における従業員雇用コストが高騰しています。実際のところ、各種の「ジャンクフィー」や客のチップを従業員のベネフィット支払の財源としている飲食店は少なくなく、今回の「ジャンクフィー法」の影響を受ける店は少なくないでしょう。

価格表示は原則「明朗会計」がトレンド

カリフォルニア州で施行された「ジャンクフィー法」は、今後他州にも影響を与え、結果的にカリフォルニア州に追随する州が増加すると予想されています。モノやサービスの価格表示を原則「明朗会計」で行うことが一般的に広く求められており、それが今後アメリカで大きなトレンドとなる可能性が高いです。

アメリカのような「資本主義のリーディングカントリー」において、各種のジャンクフィー上乗せが一般化していることは、ある種驚くべき事実とでも言うべきですが、アメリカはすべてのモノやサービスの価格について “What you see is what you pay”(目の前に表示された価格が支払う価格)の原則を適用させる方向に進んでいます。日本ではインバウンド客に対して「インバウンド価格」と称した二重価格を提示する飲食店などが相次いで出てきているようですが、それとは真逆の方向であるとせざるを得ません。資本主義の本質について、日本がアメリカから学べることはまだたくさんあるようです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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