【アメリカ人の生活】自動車保険と並んで住宅保険も値上がり

前に「アメリカの分断を促す自動車保険の値上げ」という記事で、昨今のアメリカで自動車保険が一年で平均22.2%も上昇し、多くのアメリカ人にとっての経済的な負担となりつつある状況や、アメリカ社会を分断するひとつの要因になりかけている現状をお伝えしました。一方、今日のアメリカでは自動車保険と並んで住宅保険も値上がりしています。今回は、アメリカで進行中の住宅保険の高騰についてお伝えします。

住宅保険も大きく値上がり

アメリカの物価上昇をモニタリングしている市場調査会社S&Pグローバル・マーケットインテリジェンス(S&P Global Market Intelligence)の調査によると、昨年2023年12月末時点で、アメリカでは住宅保険(Home insurance)、別名住宅オーナー保険(Homeowners‘ insurance)の保険料が年額平均で11.3%値上がりし、調査開始以降初めて二桁の上昇率となったそうです。中でもテキサス州(23.3%)、アリゾナ州(21.8%)、ユタ州(20.3%)などでは軒並み20%以上も値上がりし、多くの住宅オーナー達の家計を直撃したとしています。

ノースカロライナ州ローリーに住むエズラ・クロフトさんは、年に一度保険会社から受け取る保険料の請求書を開封したところ、昨年の年900ドル(約13万9500円)から700ドル(約10万8500円)も値上げされ、1600ドル(約24万8000円)になっていたのに驚いたそうです。クロフトさんは、これまでに住宅の破損や盗難などによる保険金の支払請求を一度もしたことがないそうで、「何もしていないのに保険料がどんどん上がってゆくのでは、こちらとしては対応のしようがないよ」との嘆きの声を、アメリカ公共放送PBSを通じて伝えています。

自然災害の増加が最大の値上がり要因

ほぼすべてのアメリカ人が影響を受けている住宅保険の値上がりですが、その最大の要因は自然災害の増加です。前掲のS&Pグローバル・マーケットインテリジェンスのショーン・キャヴァリアンCEOは、「高額の住宅保険料を喜んで支払いたいという人はいません。しかし、保険料は実際にそこにあるリスクレベルと実害額により算出されるのです」と、アメリカにおける昨今の自然災害とそれによる被害額の増加を指摘します。

実際のところ、これまで「自然災害大国」であるとされた森林火災大国カリフォルニア州やハリケーン大国フロリダ州以外の、自然災害とはあまり縁がなかった州で各種の自然災害が相次ぎ、保険金請求額がかつてない水準にまで増加しています。実際の数字を見てみても、昨年2023年の一年間で被害額10億ドル(約1550億円)を超える自然災害が24件以上も発生、過去最悪を記録しています。それらの多くは「巨大地震」や「巨大サイクロン」のように大きな話題になることはなく、あくまでも「ある州において起きたローカルのイベント」として扱われますが、実際の被害額はすさまじく大きなものになっているのです。

保険会社が持つ「プライシングパワー」

なお、一般論としてアメリカの保険会社は、他の少なくない数のアメリカの大企業や公益企業が課せられているような「価格キャップ」(Price cap)が課せられていません。保険料は、あくまでも「実際にそこにあるリスクレベルと実害額により算出される」のものであり、一方的な利益の上乗せが最初からできない仕組みになっているとされているからです。

それゆえ、保険会社は住宅保険がペイしないと判断した場合、保険会社の都合により保険契約を「自由に解除する」ことができます。実際にハリケーンや干ばつ、あるいは大規模な冷害などによって甚大な被害を受けた州から保険会社が撤退するケースが増えてきているのです。

ルイジアナ州ニューオリンズに住む35歳の銀行員、アルフレッド・ヘレーラさんは、自宅にかけていた住宅保険の解約を知らせる通知を突如受け取りました。保険会社によると、ハリケーンで生じた被害などの影響により、保険会社はルイジアナ州での保険業務を停止し、同州から撤退するというのです。ヘレーラさんのように、保険会社の都合による一方的な契約解除は増加しつつあり、社会問題化する兆しを見せ始めています。

住宅保険に加入しない「住宅保険無保険者」も

なお、アメリカでも日本と同様に、住宅を住宅ローンで購入した場合、通常は金融機関との契約により住宅に住宅保険をかけることが求められます。しかし、最近の住宅保険料の値上がりを嫌い、自ら住宅保険をやめて「住宅保険無保険者」となる選択をする人が増えてきています。

保険業界の市場調査会社保険情報インスティテュート(Insurance Information Institute)が昨年行った調査によると、昨年末時点のアメリカでは、住宅オーナーの12%が住宅保険に加入していない「住宅保険無保険者」であり、四年前の5%から倍以上に増加したそうです。

アメリカでは、高額の医療保険の保険料を嫌って医療保険に加入しないか、あるいは加入したくても経済的な理由などで加入できない「医療保険無保険者」が国民9人に1人の割合で存在しています。住宅保険の値上がりが今後さらに続くと見込まれるアメリカにおいては、「医療保険無保険者」と並んで「住宅保険無保険者」が増加し、社会コスト全体を押し上げる可能性があります。アメリカにおける「住宅保険無保険者」の推移を、今後も注意深くウォッチしてゆく必要がありそうです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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