【アメリカ人の生活】アメリカの分断を促す自動車保険の値上げ

インフレーションが常態化し、物価が高騰を続けるアメリカ。家賃や水道光熱費、食費などの基本的な生活コストが上昇し続ける中、普段は目立たない費用である各種の保険が、特に自動車保険が大きく値上がりし、アメリカの分断を促し始めています。現在のアメリカで自動車保険はどのくらい値上がりしているのか、今後の動向などを予想しつつ、現状をお伝えします。

一年で22.2%値上がりした自動車保険

クルマ社会のアメリカにおいて自動車は必需品です。また、自動車を運転するには自動車保険への加入が必要です。自動車保険は、多くのアメリカ人にとって必要生活コストというべきものですが、昨今その自動車保険が値上がりし、アメリカの家計に影響を及ぼし始めています。

アメリカの大手ケーブルメディアのCNBCは、先月発表された最新の消費者物価指数で、自動車保険が対前年比で22.2%増加したと報じています。自動車保険は、アメリカの消費者物価を計る重要な項目のひとつですが、これまでそれほど注目されてこなかった自動車保険が消費者物価全体を押し上げる形となったことに驚きの声が上がりました。

米労務省労働統計局(US Bureau of Labor Statistics)がまとめたところでも、アメリカの自動車保険は2021年12月から月次ベースで値上がり続けていて、2024年3月までに45.8%も値上がりしたそうです。

自動車保険値上がりの理由は「車両価格」と「修理代」の高騰

では、なぜ自動車保険が値上がりを続けているのでしょうか。その最大の理由は「車両価格」と「修理代」の高騰です。新型コロナウィルスの世界的な感染拡大、およびそれによる自動車産業のグローバルサプライチェーンの停滞などにより、アメリカでの自動車の販売価格が上昇しています。新車の価格は無論のこと、特に中古車の値上がりがすさまじく、コロナ前の2019年には2万ドル(約300万円)を下回っていた中古車の平均店頭販売価格が、2021年末には28,200ドル(約423万円)へと上昇しています。

また、自動車の「修理代」も軒並み値上がりを続けています。「修理代」値上がりの理由は明確です。最近の自動車のハイテク化が進んだことにより、交換部品の価格や修理作業料が値上がりしているのです。特に最近の自動車の多くはマイクロプロセッサーなどの半導体部品や、高機能カメラ、センサーなどの高額なハイテク部品を多数使用しており、そうした部品の交換に多額の費用がかかるようになってきているのです。

自動車の「ハイテク化」が進む以上値上がりは避けられず

専門家の多くは、自動車の「ハイテク化」が進む以上今後も車両価格と修理代の値上がりは避けられず、結果として自動車保険の値上がりも避けられないとしています。今、アメリカではハイブリッドカーの人気が高く、EV(電気自動車)よりも売れる勢いを示していますが、日本製のハイブリッドカーはほとんどハイテク部品の塊(かたまり)のようなもので、特に動力制御系の部品などはブラックボックス化が相当進んでいます。

一昔前の自動車のように、現代のハイテク自動車は自動車修理工が車の真下に潜り込んで手作業で修理できるといったシロモノではまったくなく、故障や破損した場合は、ブラックボックスごと丸ごと交換するといったことが当たり前に行われています。当然ながら、そうした交換部品はそれ相応の値段で販売され、結果的に修理費用も高額になります。

自動車は今後、自動運転や各種のコネクテッド機能などが大きく進化し、次世代のフェーズへ移行することが予想されています。各種のテクノロジーに裏付けられた次世代の自動車は、当然のことながら相応のコストが求められてくることは間違いなく、そのまま自動車保険の高止まりに直結することになるのは火を見るよりも明らかでしょう。

アメリカ人は自動車保険を支払い続けられるのか?

アメリカの金融情報大手のバンクレートによると、2024年4月末時点のアメリカの自動車保険料の平均価格は年間2314ドル(約34万7100円)で、月額193ドル(約28,950円)です。なお、バンクレートは、保険料は自動車により千差万別となり、ハイテク自動車などの保険料は旧型の自動車の保険料よりも割高になるとしています。

前に別の記事でEVメーカーのテスラが、自社のEVユーザーを対象にした自前の自動車保険「テスラ保険」の販売を開始したことをお伝えしましたが、その背景にはテスラのEVに対する既存の保険会社による自動車保険の保険料が高すぎ、消費者に負担になっている現実がありました。実際のところ、大手自動車保険会社GeicoによるテスラEVの平均保険料は年間6565ドル(約98万4750円)もするのです。

アメリカにおいては今後、高額な自動車保険を支払いながらハイテク自動車に乗るユーザー層と、自動車保険を必要最低限に抑えつつクラシカルなアナログ自動車に乗るユーザー層とに二分化する可能性があります。現在のアメリカでは、所得格差による国民の分断が進んでいますが、その分断が自動車および自動車保険の領域にも浸透してくるのはもはや時間の問題でしょう。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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