ヨーロッパで商品やサービスを販売するには(商流・販路開拓編)
これまでシリーズでお伝えしてきた「ヨーロッパで商品やサービスを販売するには」の最終回です。弊社も販売代理店開拓などのご相談をよく頂戴します。皆様のもっとも関心が高い領域になろうかと思います。全体概要編でも記載しましたが、国によって販路が大きく異なります。同じ言語圏(例えばドイツとオーストリアなど)は同一企業が2カ国以上を営業エリアとしていることもありますが、国ごとに規制が異なることも多いので必ずしもそうとは限りません。したがって一般論となりますが、商流や販路開拓について簡単ですが触れたいと思います。
その国の消費者行動を理解しているか
日本には日本の、ドイツにはドイツの商習慣があります。例えば日本ではテレビや新聞広告などを使って流行を作り出されると、消費者はそれに影響を受けやすいことがあります。電車の吊革広告もかなり重要な要素です。しかし、ドイツに住んでいるドイツの消費者に対して物やサービスを売る時に、それを適用すれば日本と同じように物を売ることができるでしょうか。
日本は人口1億2500万人、ドイツは8300万人です。両方とも自動車や電気機器などに特徴がある工業国家です。しかし、日本は東京を中心とした大都市集中型ですが、ドイツは日本の中規模の都市が各所に乱立しています。首都ベルリンでも人口は360万人程度です。政府機関も分散しています。そのため、自動車通勤の方が65%を占めています(日本は46%程度)。したがってどのように消費者が「いつ、どこで、どんな状況で、なぜ、なぜそのきっかけで購買行動を行うのか」という、消費者とのタッチポイントが、日本とドイツで大きく異なります。そのような状況で、日本と同じようなマーケティングやプロモーションがうまくいくのでしょうか。さらにEU加盟国で人の移動の自由が保障されているドイツには、東欧、さらには中東などからのたくさんの移民がいます。日本以上に配慮すべき変数が多いです。「とりあえずインフルエンサーを」「現地の百貨店組めばなんとかなる」というようなことは通用はしません。
したがってまずは消費者行動を理解し、本当に自社の商品・サービスがヨーロッパおよびその国で受け入れられそうかをよく調査されることをお勧めします。またビジネスを始める場合、いきなりヨーロッパ全土を相手にするのではなく、とりあえず1、2国から始めるなどのスモールスタートを切る方がよいでしょう。
基本的には日系企業は相手にされない
実際にある国でビジネスの可能性がありそうだ、参入を試みようとなった場合です。ここでよくお問合せをいただくのが「販売代理店を探して欲しい」というご要望です。代理店候補を探すこと自体は難しいことではありませんが、その代理店候補が貴社の商品を販売してくれるかについては、別の話です。弊社としてはコストが多少かかっても、見本市出展をお勧めしています。なぜならばバイヤーが取引先を開拓しにきているため、売り手にとって有利な契約条件などを提示しやすいためです。しかし見本市出展は新型コロナウイルスの流行下ではなかなか難しいところはあると思います。その代理店への最初のアプローチとしてメールでコンタクトされることが多いと思いますが、まず返信が返ってこないとお考えください。この返信が返ってこない理由にはいくつかあります。
- 基本的に返信が遅い、忘れる(数週間待つ、何度かフォローする)
- そもそも紹介がない会社からの新規商品の取り扱いを行わない
- 迷惑メールだと思われている、そもそも読む気もない
- 商品のニーズがない
- 貴社の商品の魅力を伝えられていない
適切な営業・マーケティングツールを準備しているのか
上記の(1)から(4)の場合はどうしようもないですが、きちんと相手に伝わるような言葉でメールを書いているかが実に重要です。日本語は多くを語らずに聞き手に察することを強く要求する言語ですが、異文化の方々にはかなり詳しく書かないと相手には全く伝わりません。また、相手方がそれなりに真面目に検討してくれる場合、貴社のホームページをチェックすると思います。それが日本語版しかない場合、次のステップに進むことは難しいでしょう。
また、商品説明や送料などの価格に関する考え方も、通貨も含めてわかりやすく書けているかをプロに確認してもらった方が良いかと思います。「詳しく書け」と言っておきながら矛盾しますが、ヨーロッパ人はちゃんとカタログなどを読んでくれない人も少なくないので、「ぱっと見てわかりやすいか」は非常に重要です。わかりづらいと感じた物を読んでくれません。業界によっては現地語で連絡する方がいいこともあります。スタートはミニマムであっても、こういった営業・マーケティング資料は見本市出展などさまざまなシーンで活用できますので、ぜひとも最初にしっかり準備なさってください。
ここでは深くは述べませんが、販売代理店探しの前に英文での代理店契約書を事前に準備しておきましょう。相手方が気に入ればすぐ契約を、となることも多いです。契約書作成にもたついていると相手が関心を失って商機を逃したり、相手方にとって有利な契約をよく読まずにサインしたりということをよくお聞きします。仮にドイツやフランスの企業であった場合も、英語で雛形を作成して交渉に臨んでください(英文契約書についてはこちらをご参照ください)。
最後にですが、販売代理店などから相手にされない場合は失うものはありませんが、カモにしたい現地企業にはお気をつけください。言葉は悪いですが恰幅の良い白人男性にプレゼンをされて、その気になってしまうアジア人は少なくありません。弊社のお客様ではないですが「あの日系企業の商品は絶対売れないと思っているけど、お金がもらえるから販売支援を行っている」という声を聞いたことがあります。日系企業はお金を持っているから、という理由でつけ込まれることもないわけではありません。したがって、自分たちの身の丈をわきまえ、準備を行うべきところにはしっかりと準備を行い、営業・販売活動に臨んでください。
出典など
Statista GmbH (2021). Modes of transportation for commuting in Germany 2021. https://www.statista.com/forecasts/998727/modes-of-transportation-for-commuting-in-germany.
総務省統計局 (2015). 統計局ホームページ/平成22年国勢調査. http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/.
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。