ヨーロッパで商品やサービスを販売するには(全体概要編)

よくお客様から自社の商品やサービスをヨーロッパで販売したいがどうしたらいいか、販売代理店を開拓したいなどのご相談を受けることがあります。ただ、ヨーロッパに限らず他国で商品やサービスを販売することは容易ではありません。皆様の商品・サービスが日本で成功しているのは、日本市場や消費者、規制を熟知した上で開発・製造されているからです。今回はヨーロッパ市場参入に関して私が考えていることをシリーズでお伝えします。

ヨーロッパは一つの国ではない

言わずもがなですがヨーロッパはEU(欧州連合)を中心とした地域ですが、一つの国ではありません。それぞれの国で規制や言語、文化、人口、物価などが異なります。言語についてはEU内で使われている言語は公用語24、それ以外を含めると50以上と言われています。規制についてもEU内での共通の指令に基づいて国内法に落とし込みますので、必ずしも各国共通というわけではありません。また、意外と日本企業の方が見落としがちなのがヨーロッパ内の物価の違いです。Eurostatによると、ヨーロッパの2019年の等価可処分所得の中央値は、1人あたり平均17,422EURで、EU内トップのルクセンブルク(28,943EUR)と最下位のルーマニア(7,338EUR)では4倍もの差があります(日本はだいたい21,000EUR程度)。したがって、ヨーロッパという市場を一括りにすることはできないということをまずご理解ください。また各国内の貧富の差は日本よりも大きく、南欧を中心に失業率も高いことについても注意が必要です。

EUにおける2019年の等価可処分所得の中央値(Eurostatより)

EUにおける2019年の等価可処分所得の中央値(Eurostatより)

ヨーロッパ市場を前提にして商品開発を行っているか

弊社にご相談いただくお客様の多くは「既にある商品・サービスを売りたい」という前提でご相談をいただきます。各社様とも素晴らしい技術やセンスをお持ちですが、その商品・サービスが商品・サービスがヨーロッパ市場で受け入れられるという前提で商品開発・製造されていないことが多いです。「日本市場で売れたからヨーロッパ(他国)でも売れるのでは」とお考えのこともありますが、日本での成功は皆様が日頃のたゆまぬ製品開発およびマーケティング努力を行った結果、日本市場や消費者を熟知した商品やサービスの開発を行っているからです。しっかりとしたヨーロッパでの市場調査を行った上で商品・サービスを開発した場合を除き、日本の商品・サービスをそのまま販売しても売れるとは限りません。その商品やサービスについてその市場でニーズが無かったり、既に現地の他社が市場を牛耳っていたりするということは少なくありません。ヨーロッパは歴史が長くヨーロッパ人は行動を変えようとあまりしないので、真新しいものに簡単に飛びつかないということもよくあります。
仮に商品に関するニーズがあった場合でも、パッケージや商品名称、サイズなどを変更する必要はよくあります。上述の通り欧州は多言語国家ですので、マニュアルやラベルは多言語表記が基本です。

筆者が最近購入した電動歯ブラシのマニュアル。内容は少ないが各国語表記のため2冊に分かれている。

筆者が最近購入した電動歯ブラシのマニュアル。内容は少ないが各国語表記のため2冊に分かれている。

ヨーロッパでの販路も国ごとに多種多様である

日本では新聞・雑誌、テレビなどを通じて流行を醸成する傾向がありますが、ヨーロッパでは全体的に流行について日本ほど敏感ではありません。これはインターネットやソーシャルメディアの普及後もあまり変わらないように思います。日本以上にヨーロッパが全体として個人主義というのも挙げられると思います。「何かを皮切りにヨーロッパに、もしくはヨーロッパのその国に流行させよう」というような日本のような考え方はヨーロッパでは新型コロナウイルス流行前から通用しないでしょう。また、いずれの手段を使う場合であれ広告媒体を利用する場合は、国・地域ごとに消費者行動が異なりますので進出国・地域ごとに注意が必要です。

またヨーロッパの販路も各国で異なります。特に新型コロナウイルス流行以降は商流も大きく変わっています。これまでは見本市でバイヤーとの接点を探していた企業様も多いと存じますが、そもそも新型コロナウイルスが流行している間、デパートなどは閉店していました。そのためオンラインショッピングを利用する人はヨーロッパでも増えました。ただ、どのオンラインサイトを利用するかは各国で異なっており、フランスでもAmazonはありますが自国ビジネスへの回帰の傾向が強いようで、ドイツやイギリスと比べて利用者は少ないとも聞きます。ただ各国の行動制限もワクチンの普及とともに緩和されつつあり、人々が街に戻りつつあります。見本市に関しても徐々に復活の兆しがあります。しかし、いずれの場合であっても「顧客・消費者がどのような行動を取り、何に影響され、その商品・サービスにたどり着くのか」という、消費者行動をよく理解した上で販路を検討する必要があるでしょう。その国や地域、そして皆様が販売したい商品・サービスに合わせた最適な販路を見つけることが重要です。

今回はヨーロッパでの商品・サービスの販売について少しお話ししました、来月は規制や税務面などについてご照会できればと思います。

ジェイシーズではヨーロッパの現地担当者とともに、新型コロナウイルス流行下においても皆様のヨーロッパでのビジネスをサポートしております。お気軽にお問い合わせください。

執筆者 浜田真梨子(はまだ・まりこ)

執行役員 シニアマーケティングコンサルタント(欧州)

大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

出典など
厚生労働省. “Ⅱ 各種世帯の所得等の状況.” 2019年 国民生活基礎調査の概況, Dec. 2020, www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf.
The European Union. “Living Conditions in Europe – Income Distribution and Income Inequality.” Ec.europa.eu, Apr. 2021,
www.ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Living_conditions_in_Europe_-_income_distribution_and_income_inequality.

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