国際ビジネスにおける英文契約書の基礎知識
弊社では毎月、アメリカとヨーロッパをテーマとしたコラムを掲載しております。私の担当はヨーロッパですが、ここ数ヶ月英文契約書作成のご依頼をいただくことが増えていることもあり、今回は英文契約書について取り上げたいと思います。日本でもビジネスにおいて契約書を取り交わすことは当たり前ですが、国際ビジネスではその重要性は日本の比ではありません。国際ビジネスにおいて契約書は憲法のようなもので、契約書に書かれていることは絶対です。国内ビジネス以上にしっかりとした契約書を作成する必要があります。今回は国際ビジネスの基礎となる、英文契約書の基礎知識を少しご紹介します。
国際ビジネスで英文契約書を作成する理由
弊社のお客様はさまざまな国とビジネスを行われていらっしゃいます。例えば日本とアメリカ、日本とタイ、日本とドイツなどです。日米、日英間のように英語圏の企業との取引は当然ですが、それ以外の国であっても一部の例外を除き英文で契約書を作成するのが望ましいでしょう。理由は極めて単純です。大多数の日本人が日本語以外で一番得意な言語が英語であるからです。これは相手方にとっても同じです。契約書はお互いにとって公平であるべきです。
また、日本国内外問わず、契約書の内容をよく理解してサインをする必要があります。そのため、日本語の次に内容の妥当性が確認しやすい英語で作成するのが良いでしょう。また、日本には英語のできる弁護士はたくさんいらっしゃいます。特にこの妥当性の確認とその言語を解する弁護士が日本国内にいるかということは、「何かあった時に」極めて重要です。国際ビジネスは国内とは異なって、何かとトラブルが起こりやすいです。このような背景から契約書は英語で作成するのが望ましいでしょう
気を負わずに自分の条件を主張する
まず理解いただきたいのは、英文契約書では独特の表現がありますが、基本事項は国内取引と同じです。特に日系企業は売り手に回ることが多いので、納期や支払い条件については要注意です。ただ国際取引の方が為替相場や不可抗力(Force Majeure) などのリスク要因が多いです。また一般的に日本の方は自分の意見を強く主張しない方が多いですが、これらの条件については契約交渉ではしっかりと自己主張を行うべきです。
英文契約書ではよく日本の契約書である「双方で話し合って解決する」といった一文はあまり見られません。国際ビジネスでは、相手方企業の国や企業体質によってはすぐに裁判に持ち込む企業も少なくありません。したがって、リスクの洗い出しや自分たちの譲れない条件については、契約前の見積時からきちんと行い準備しておく方がよいでしょう。何度も申し上げますが、自己主張の遠慮は不要です。
誰に作成を依頼するか
弊社によくお問い合わせいただくお客様は、法務部門の方が英語でのビジネスに慣れていない企業様も少なくありません。そういう場合は英文契約書の作成を専門家に依頼する必要があります。もちろん日本で英文契約書作成に長けている法律事務所もたくさんあります。ただ中には日本語の契約書をそのまま英語に訳しただけのような英文契約書も見受けられます。日本国内ではビジネス上の法的トラブルが他の先進国ほど多くないため、契約書の内容が他国よりも厳しくないこともあります。
特に、個人情報や知的財産の取り扱いなどの項目でよく見かけられます。こういったポイントは国際ビジネスにおいてトラブルになりやすいので、注意が必要です。また、日本語独特の表現をそのまま英語に直してしまうと、海外の弁護士ですら「これは何?」と首をかしげるような表現もあります。これはあくまで文化の違いですが、弊社では、できれば国際ビジネス経験の豊富な英語ネイティブの海外の弁護士に英文契約書作成を依頼することをお勧めしております。
意外と評価される日系企業
最後に私の知り合いの弁護士の言葉を紹介しておきます。彼は中東で弁護士業を営む英国人ですが、日系企業は法的トラブルが極めて少ないそうです。なぜかというと契約書の条件を守り、きちんと期限までに決められた金額を相手方に支払うからだそうです。弊社が提携している弁護士も同様のことを言っています。そのため彼は日系企業向けには価格や納期などの面で融通を利かせてくれています。英文契約書を作成したい、これまでの英文契約書を見直したいという企業様がいらっしゃれば、ぜひ弊社にお声がけくださいますと幸いです。
筆者のお勧め本
野口幸雄(2011). ひと目でわかる英文契約書 かんき出版
英文契約書のポイントがまとまっていて、ちょっとしたことを調べる時に便利です。
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。