【アメリカファースト】ドンロー主義とは何か?

現地時間の2026年1月3日未明、特殊部隊デルタフォースを先頭とするアメリカ軍がベネズエラ大統領公邸に突入、ニコラス・マデューロ大統領を夫人と共に逮捕拘束し、アメリカへ移送するという事件が起きました。アメリカによる他国への武力行使とも捉えられる事態に世界が衝撃を受け、中国・ロシアなどの反発を招いています。そうしたアメリカによるベネズエラ侵攻を正当化するドクトリンとされたのがドンロー主義です。ドンロー主義とは何か、今後の展開の可能性などを含めて解説します。
モンロー主義の現代版、ドンロー主義
ドンロー主義(Donroe doctrine)とは、平たく言えばモンロー主義(Monroe doctrine)の現代版です。モンロー主義は、ジェームズ・モンロー米国第5代大統領が1823年に打ち出した外交政策で、中南米大陸を主とする西半球におけるヨーロッパ諸国による植民地政策などを含む利害干渉を「拒否」するとしたものです。米議会での演説でモンロー大統領は、アメリカはヨーロッパ諸国による植民地政策や傀儡政権樹立によるラテンアメリカ諸国支配を望まないとはっきりと言明し、「西半球に干渉しない」ことを求めたのです。
モンロー大統領は、ヨーロッパ諸国による西半球への干渉は「米国に対する敵対行動である」と認識するとし、一方で、「ヨーロッパ諸国同士による戦争や内紛に関与しない」とも言明しました。要するに、「西半球はアメリカの縄張りであると正式に宣言する。ヨーロッパ諸国のいかなる介入も許さない。一方で、アメリカはヨーロッパ諸国同士の紛争などにも関与しない」というわけです。この200年前に打ち出されたアメリカの外交政策を改めて持ち出し、「アメリカの国益を守る」としているのがトランプ大統領によるドンロー主義です。

西半球とは?
ところで、モンロー大統領が言明した「西半球」とは、具体的にどの地域や国を指すのでしょうか。西半球(Western Hemisphere)とは、経度0度0分0秒と定義された本初子午線(ほんしょしごせん、Prime meridian)から西経180度までの地球の半分のことです。アフリカ大陸の一部や南極大陸の半分などを含みますが、主には南北アメリカ大陸に位置する国々が含まれます。直近で問題になっているベネズエラやコロンビアはもちろん、カナダ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、そして別に問題になっているグリーンランドも含まれます。
なお、本初子午線から東回りに東経180度までの地球の半分は東半球(Eastern Hemisphere)です。東半球にはユーラシア大陸のほとんどの国や、オーストラリアを含むオセアニア諸国、すべてのアジア諸国、ほとんどのアフリカ大陸の国などが含まれます。なお、日本も東半球に属しています。

ドンロー主義の狙いは?
ところで、トランプ大統領はなぜドンロー主義を持ち出し、実際にベネズエラに武力介入などを行ったのでしょうか。筆者は、アメリカファーストを掲げるトランプ大統領が、西半球はもともとアメリカの正当な縄張りであるという認識を持ち、歴代アメリカ政権がこれまで中国やロシアなどによる政治的・経済的介入を野放しにしてきたことに危機感を感じているからだと考えます。
ベネズエラのマデューロ大統領は、反米政策を掲げてアメリカの石油メジャーの石油インフラを国有化したチャベス大統領の右腕であり、政策的にはチャベス大統領の路線をそのまま引き継いでいます。トランプ大統領を筆頭とするアメリカ保守派の眼にはベネズエラの石油インフラは「ベネズエラによって奪われた」のであり、それを取り戻すのは当然のこととして映っているのでしょう。実際に、マデューロ大統領を排除したトランプ政権は、早速「ベネズエラの石油はアメリカが管理する」と宣言し、国有化された石油インフラを取り戻すプロセスを始めています。

次の狙いはグリーンランドか?
トランプ大統領が「西半球はすべてアメリカの縄張りである」と本気で考えており、さらに「その縄張りでアメリカの利害が他国に侵されている」と考えているとしたら、例えばグリーンランドの周辺に中国やロシアの軍艦が好き勝手に遊弋していることなどは決して看過できないのでしょう。
アメリカの外交戦略に詳しいシドニー大学アメリカ研究センターのデーヴィッド・スミス教授は、トランプ政権は中国とロシアの軍艦に自由にグリーンランド沿岸に出入りさせているデンマーク政府に業を煮やし、いずれは「ドンロー主義の原則に則り、グリーンランドを併合する」と予想しています。実際にグリーンランドを併合するとしたら具体的にどのように併合するかについては言及しませんでしたが、最低でもアメリカ軍を一定数駐留させるなどの行動をとる可能性が高いとしています。
なお、西半球にはアメリカの隣国カナダとメキシコも含まれます。カナダに対しても、トランプ大統領は「アメリカ51番目の州」になるよう呼び掛けていますが、単なるブラフであるとは考えにくいかも知れません。ドンロー主義を金科玉条とするトランプ大統領の眼には、カナダですら「アメリカの利害が及ぶ縄張り」として映っている可能性が高いのです。トランプ大統領のドンロー主義の行方については、今後も注視してゆくべきでしょう。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
