米史上初ムスリム・民主社会主義派市長、ゾーラン・マムダニ氏とは?

アメリカ現地時間の2025年11月4日、ニューヨーク市長選挙が行われ、34歳のゾーラン・マムダニ氏が50.4%を得票して新ニューヨーク市長に選出されました。元ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏を10ポイント近く引き離して勝利したマムダニ氏は、様々な点でこれまでのアメリカの政治家とは一線を画し、大きな注目を集めています。マムダニ氏とはどういう人物なのか、現地メディアの情報などを整理してお伝えします。

ウガンダ生まれのアメリカ人一世、ゾーラン・マムダニ氏

ゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)氏は、1991年10月18日にウガンダのカムパラで生まれたアメリカの政治家です。コロンビア大学で人類学を専攻する大学教授の父と、インド人映画監督の母との間に生まれたマムダニ氏は、七歳の時に家族でニューヨークへ移住してきたウガンダ系アメリカ人一世です。

ニューヨークのブロンクス高校からボードウィン大学へ進み、卒業後ミュージシャンとしてキャリアをスタートさせたマムダニ氏は、やがて政治へとキャリアチェンジし、2020年にニューヨーク州議会議員に立候補して初当選します。その後再選を経て2024年にニューヨーク市長選挙への立候補を表明、選挙戦で当選を果たしたのはご存じの通りです。

大学在籍時からパレスチナ人のための平和運動を組織するなどの政治活動を始めたマムダニ氏は、2018年にアメリカに帰化してアメリカ国籍を取得します。2021年には出会い系アプリでシリア系アメリカ人アーチストのラマ・デュワジさんと知り合い、今年初めにニューヨークのシティホールで結婚式を挙げています。

両親と写真に写るマムダニ氏

SNSをフル活用するインフルエンサーのマムダニ氏

マムダニ氏の特徴のひとつを言い表すなら「SNSをフル活用するインフルエンサー」が筆頭に挙げられるでしょう。マムダニ氏はInstagramやTikTokなどのメインラインの動画SNSを始め、新興動画SNSなどもフル活用し、インフルエンサーとしての地位を最大限に高めています。

マムダニ氏はX(旧Twitter)も活用し、Instagramなどと同様に短尺動画を多数投稿しています。Xでの投稿には#ZaddyZohranというハッシュタグを使用し、動画視聴者の間でバズらせることに成功しています。マムダニ氏の動画は、マグダニ氏が市民へ呼びかける形式をとる「ウォーク・アンド・トーク」というスタイルで徹底されており、プロの編集チームによる多彩な編集技術の効果もあって、若者の間で大いに人気を博しました。映像制作のプロがマムダニ氏のSNS活動に関与したことには、アカデミー賞ノミネートの実績を持つ著名映画監督である彼の母親の影響力が及んだと噂されています。

生粋の民主社会主義者のマムダニ氏

政治家としてのマムダニ氏は、自他ともに認める民主社会主義者です。民主社会主義(Democratic Socialism)は社会主義(Socialism)の一種で、民主主義をベースにした「経済の民主主義」「職場の民主主義」「労働者による経営管理」などを主旨とした政治システムのことです。

実際にマムダニ氏は、複数の民主社会主義的な選挙公約を掲げています。五歳以下の乳幼児を対象にした無料子供医療保険制度の導入や公共バスの無料化、最低賃金の引き上げに家賃値上げ凍結ルールの導入などです。それらの「社会主義的政策」を実行するための財源として、マムダニ氏はニューヨーク在住の富裕層への増税を行うとしています。

なお、自らが掲げる「民主社会主義」について、マムダニ氏は次のように説明しています。

「民主社会主義者としての私を言い表すならば、数十年前にキング牧師が語ったことを引用するのがいいでしょう。すなわち、『民主主義でも、民主社会主義でも、どちらでもかまいません。この国に住む神の子供たち全員に富が公平に分配されればいいのです』というものです。ニューヨークでは、所得格差が広がり続けています。我々は、ニューヨークを誰もが生活できる街にしたいだけなのです」

ニューヨークの公共バス。マムダニ氏が無料化を公約に掲げている

ムスリムのニューヨーク新市長、マムダニ氏

マムダニ氏はまた、アメリカで初めてアメリカ最大の都市の市長となったムスリムでもあります。前に書いたアメリカの宗教に関する記事で、アメリカは基本的にクリスチャンの国であり、特に歴代大統領はすべてクリスチャンであることを説明しました。クリスチャンの国であるアメリカで、しかもその最大都市の市長にムスリムの候補が選出されたことは、これまでのアメリカの歴史からは到底想像できない驚異的な出来事です。

初のムスリムのニューヨーク市長に選出されたことについてマムダニ氏は、次の様にコメントしています。

「私は自分自身を変えません。何をどのように食べ、生活するかも変えるつもりはありません。私は信仰を曲げる気はなく、(ムスリムであることに)誇りを持っています。ただし、一つだけ変えることがあります。それは、私はこれまでのように暗闇に紛れて生活することをしません。これからは、光の中で生活してゆきます」

アメリカのムスリムの人口比率はわずか1.3%に過ぎず、アメリカでは「超」が付くマイノリティです。その超マイノリティからマムダニ氏が選ばれたことは、文字通り奇跡的なことです。そんなマムダニ氏の新市長としての公務は、2026年1月1日からスタートします。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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