【2026年版】アメリカのデ・ミニミスルールの最新情報

第二次トランプ政権が発足してから10カ月が経過、肝いりの関税政策がアメリカ社会に大きな影響を与えています。トランプ関税を巡っては、まもなく最高裁判所で合憲性が示される予定ですが、海外からモノを購入する多くのアメリカ人が恩恵を受けてきた、輸入品に対するデ・ミニミスルールが今日までに実質的に廃止された状態になっています。デ・ミニミスルールの最新情報をお伝えします。

デ・ミニミスルールとは?

デ・ミニミスルール(De Minimis rule)とは、少額で小口の輸入品に対して関税などの税金が免除されるルールです。アメリカでは1800年代から存在する、相応の長い歴史を持つ制度です。時の政権とともに適用金額などが上下し、最近までは2016年に定められた輸入価格800ドルを下回る輸入品が免税とされるルールが適用されていました。800ドルは日本円で約12万円程度ですが、その程度までの越境ECであれば、アメリカ人は関税をまったく気にすることなく自由に利用できたのです。

ところが、2010年代後半に入ると状況が一変します。海外、特に中国で製造されたアパレル品や生活用品などの日用製品を「800ドル以内」に価格設定してアメリカへ輸出する専門業者が相次いで登場してきたのです。デ・ミニミスルールを最大活用した中国の輸出業者ですが、低価格を売りにシェアを一気に広げます。アメリカが輸入したデ・ミニミスルール適用輸入品は10年前の1億4000万個から10億個へ激増、アメリカ国内の小売店の売上にも影響を及ぼすほどになりました。

「デ・ミニミスルールは、中国企業のための関税回避ルートである」と主張してきたドナルド・トランプ氏は、大統領に就任するや直ちにデ・ミニミスルールの撤廃を宣言、実際に廃止しました。これにより、免税の恩恵を受けてきたアメリカの多くの消費者が、突如として関税の納税義務者になり始めたのです。

国際小口郵便のイメージ

廃止されたデ・ミニミスルール

トランプ大統領はデ・ミニミスルールを撤廃する大統領令を発令、2025年7月30日からすべての国からのすべての輸入品に対する免税制度が廃止されました。これにより、いかなる輸入価格のいかなるサイズの輸入品も、それぞれの輸入元国の関税率に応じて関税が課せられるようになりました。販売を目的としない100ドル以下の贈り物などについては、引き続き免税の対象になっていますが、販売を目的とする場合は、100ドルを超えない場合でも関税の対象になります。

デ・ミニミスルールの廃止により、特にデ・ミニミスルールを最大活用してきた中国の輸出業者は大打撃を受けています。また、日本からアメリカへデ・ミニミスルールを使ってEC販売を行ってきた業者も同様に大きな影響を受けています。前に「日本産食品サブスクビジネスにFDA登録は必要?」と言う記事で日本産のお菓子やスナックなどを箱詰めしてアメリカの消費者へサブスクリプションベースで送る業者について紹介させていただきましたが、そうした業者もデ・ミニミスルールの廃止により、大きな打撃を受けていることは間違いなさそうです。

荷物を受け取るEC購入者

日本のEC事業者が採るべき対応

では、デ・ミニミスルールが廃止された現在、日本のEC事業者はどのように対応すべきでしょうか。前提として理解しておきたいのは、アメリカでデ・ミニミスルールが廃止されたとしても、日本からアメリカへEC事業を展開することは禁止されていないということです。ただし、ECでの販売価格とは別に、品目ごとに購入者に関税が課せられるので、それを前提にビジネスを変化させる必要があります。

アメリカでは現在、越境ECで商品を購入した一般のアメリカ人が、商品受け取り前に宅配業者から想定外の関税を請求されて、混乱するケースが増えてきています。中には関税の支払を拒否して商品を受け取らず、商品が輸出元へ返送されるケースも少なくない様です。

混乱の原因は、購入者に事前に関税の存在と金額が知らされておらず、商品受け取り時に突然関税の支払が求められるからです。米Amazonでは、現在までに商品の販売価格とは別に関税の金額が表示され、購入者に事前に総額支払額を知らせるようにしていますが、日本のEC事業者も同様の対応が必要でしょう。

DHLの国際宅配便。DDPに対応している。

購入者への配達はDDPが義務化

また、購入者への配達はDDP(Delivered Duly Paid)で行う必要があります。DDPは、発送人が配達国で発生する関税を負担して前払いする方法で、購入者が別に関税を支払うことなく荷物を受け取れます。輸入手続きがスムースに進むので購入者にとっては大変便利です。

なお、2025年10月27日より、日本発のアメリカ向けEC事業においてDDP発送が義務化されました。これにより、商品価格2500ドル未満の物品については、必ずDDPで発送する必要があります。また、日本郵便の国際郵便サービスではDDPが利用できないので、DDPが利用できる国際宅配便を利用する必要があります。

デ・ミニミスルールの廃止と、それと並行した実施されたDDP義務化などにより、日本からアメリカへのEC事業は大きな変革を強いられています。当面は不明瞭で不安定な時期が続きそうですが、情報収集を行い、常にアップデートしておく必要がありそうです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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