アメリカでスターバックスの閉店が相次いでいる?

アメリカで大手コーヒーチェーン、スターバックスコーヒーの閉店が相次いでいます。スターバックスコーヒーの発表によると、同社は全米各地で100以上の店舗を閉鎖し、勤務する多くの従業員を解雇するとしています。アメリカを代表する世界的コーヒーチェーンのスターバックスコーヒーが多くの店舗を閉鎖する理由は何か、現状をお伝えします。
全米で100以上の店舗を閉鎖
アメリカの経済誌『ビジネス・インサイダー』は、スターバックスコーヒーが閉鎖すると発表した店舗はカリフォルニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、マサチューセッツ州などの、いわゆるブルーステート(民主党支持者多数州)に多く、特にロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークといった大都市で運営している店舗の多くが閉鎖に追い込まれていると報じています。ニューヨーク市内ではダウンタウンを中心に30店舗以上が閉鎖され、ほとんど全面撤退の様相を呈しています。
ロサンゼルス市内でもダウンタウンを中心に10店舗以上が閉鎖されています。店舗閉鎖の通知は突然行われ、多くの利用客を困惑させています。ある利用者は、「長年スターバックスのこの店を利用してきたが、突然閉鎖されるというので驚いている。日常の生活ルーティーンの一部が失われてしまい、残念だ」とコメントしています。

従業員にも突然レイオフの知らせが
突然店舗閉鎖を通知したほとんどの店舗では、同時に従業員へのレイオフ通知も短期間で出されています。スターバックスの従業員は「パートナー」と呼ばれ、雇用者である会社と対等の立場であると説明されてきました。ところが、閉鎖が決まった店舗の従業員に対してはレイオフ通知が「数日前に突然」行われ、寝耳に水の状態だったと言います。
スターバックスのロサンゼルス・ウィルシャー大通店に勤務していたある従業員は、「数日前にいきなりレイオフ通知を出すのはフェアではない。従業員をパートナーと呼び、さぞ従業員を大事にしているというイメージを醸し出そうとしてきたが、実際には多くの「大企業」と同じように突如レイオフしてきた。裏切られたような気持ちだ」とコメントし、突然の知らせに憤慨しています。
スターバックスの従業員は、最低賃金の時間給で働く人がほとんどで、多くはギリギリの生活を強いられていたとされています。いわゆるペイチェックトゥペイチェック(Paycheck to paycheck)と呼ばれる給料日を食つなぐ生活を送っていた人が多く、レイオフされたことによりギリギリの生活すらままならなくなってしまった人が少なくないようです。

ブルーステートで多くの店舗が閉鎖されているワケ
ところで、スターバックスコーヒーによる一連の店舗閉鎖は、特にブルーステートの大都市を中心に行われていますが、その背景には何があるのでしょうか。第一に考えられるのは、ブルーステートにおける高額な最低賃金です。
例えば、ロサンゼルスやサンフランシスコなどを抱えるカリフォルニア州では、ファストフード店の従業員の最低賃金を時給20ドル(約3000円)と規定しています。スターバックスは法律上ファストフード店に分類されるため、雇用主は従業員に最低時給20ドルを支払うことが義務付けられています。
高額な最低賃金に加え、店舗の家賃も上昇しています。スターバックスの店舗の運営形態は複雑で、一律的なことは述べづらいですが、一般的なスターバックスの店舗の場合、ロサンゼルス市内で営業する場合、年間リース料が最低でも14万ドル(約2100万円)程度と見積もられています。
また、トランプ政権がブラジルからの輸入品に50%の関税を課したことも大きく影響しているようです。ブラジルはアメリカに対する最大のコーヒー輸出国ですが、関税の影響でブラジルからの仕入れ価格が大幅に上昇しています。あるメディアは、ブラジルから輸入されるコーヒーの価格が、関税の適用により平均で21.7%上昇したと報じています。
高額な人件費、重い家賃負担、上昇する仕入れコスト等々の複数の要因が「パーフェクトストーム」となってブルーステートの都市部のスターバックスを襲っているのです。こうした状況に置かれては、どれほど優れた経営者でも利益を出すことは困難になるでしょう。

もはや「贅沢品」となったスターバックスのコーヒー
長年スターバックスを愛用してきた利用者の一人は、高騰を続ける運営コストから値上げを余儀なくされているターバックスのコーヒーは、以前のように日常的に飲むものではなく、特別なイベントの日などに飲む「贅沢品」となってしまったと話しています。
アメリカでも中間所得層の給与の伸び悩みが問題になっていますが、手取りの収入が増えない中で値上げが続くスターバックスのコーヒーは、多くの人にとって「高嶺の花」になりつつあるようです。物価高騰が続くアメリカの、ブルーステートの都市部のスターバックスが、今後どのような展開を見せるのか注目です。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
