アメリカを象徴する観光都市ラスベガスの凋落

アメリカを象徴する観光都市ラスベガスが凋落しています。2025年6月にラスベガスを訪れた観光客数は310万人で、前年同月の350万人から11.3%のマイナスとなりました。特に海外からの観光客数の落ち込みが響き、街全体の雰囲気を沈滞させています。ギャンブルなどのゲーミングの売上高は前年比で14%のマイナスとなり、「ギャンブルの街」ラスベガスの凋落の様子を映し出しています。ラスベガスの観光業が苦境にあるのはなぜか、ラスベガスの未来を予想しつつ解説します。

昨年一年間で877億ドルをラスベガスにもたらした観光客

ギャンブルの街ラスベガスは観光業を主産業とする都市です。昨年2024年の一年間にラスベガスを訪れた観光客数は国内外合わせて4710万人で、総額877億ドル(約12兆8919億円)もの観光収入を同市にもたらしました。膨大な観光収入は同市内で働く38万5000人の労働者の給与の原資となり、額にして213億ドル(約3兆1311億円)の給与所得をもたらしています。これは、ネバダ州南部全労働者の給与所得総額の三分の一に達する額です。

しかし、今年2月の第二次トランプ政権発足と時を合わせてラスベガスを訪れる観光客が減少し始め、今年6月の観光客数が前年同月比で11.3%のマイナス、ゲーミングの売上高が14%のマイナス、コンベンションの参加者数も20%のマイナスとなったのです。

ラスベガスで定番人気のルーレット

激減したカナダからの観光客

ラスベガスを訪れる観光客減少の理由のひとつとして、多くの関係者が挙げているのがカナダからの観光客の減少です。エアカナダの発表によると、2025年6月にカナダ各都市からラスベガスへのフライト利用者数は前年同月比で33%のマイナスとなっています。競合エアラインのウェストジェットのフライト利用者数も31%のマイナスとなっています。さらに、カナダの格安航空会社フレアー航空のフライト利用者数は62%の大幅なマイナスとなっています。

カナダの観光客が積極的にアメリカ旅行をボイコットしているのが完全に数字に表れているのですが、トランプ大統領による「カナダをアメリカの51番目の州に」発言や、トランプ大統領のあからさまなカナダバッシングとも言うべき強硬な関税政策などに多くのカナダ人が反発し、アメリカ旅行をキャンセルする、またはアメリカ旅行そのものを計画しないという集団ボイコット運動を展開しているのです。

なお、カナダ人観光客が減少している他の都市としては、酷寒地域に住む多くのカナダ人が避寒先としているフロリダ州のマイアミやオーランドも挙げられます。いずれも前年比で二桁という大幅なマイナスに見舞われています。

宿泊施設による「リゾートフィー」の導入など、多くのモノの値段が上昇

さらに、ラスベガスで宿泊料金や食事代などの多くのモノの値段が上昇し、観光客に忌避されていると指摘する声も少なくありません。特に関係者が指摘するのがラスベガスの宿泊施設による「リゾートフィー」の導入です。「リゾートフィー」とは、宿泊者一人ずつにかかる「上乗せ料金」の一種で、通常の宿泊料金にアドオンされて請求されます。宿泊者の減少に苦しむホテルなどがこぞって導入し始め、今では宿泊者一人当たり100ドル程度の「リゾートフィー」を上乗せするのが標準になりつつあります。

ラスベガス名物のホテルやレストランのビュッフェ(食べ放題)も軒並み値上がりしています。10年ほど前でしたら大人一人あたり10ドル程度で朝昼食を、20ドル程度で夕食を、それぞれ好きなものを好きなだけ食べることが出来ました。それが、昨今のインフレの進行やトランプ関税の影響などで値上げが続き、今では夕食で50ドル以上かかるのが一般的になっています。人気レストランの中には一人当たり100ドル以上チャージするところもあります。

ラスベガスのホテル街

「安く楽しく遊べる街ラスベガス」の復活を

ラスベガスは、特に距離的に近いカリフォルニア州の住人などにとっては、「安く楽しく遊べる街」として長らくその地位を確たるものにしていました。21世紀に入るとラスベガスは単なる「ギャンブルの街」から「総合エンターテインメントの街」へと変貌を遂げ、ギャンブルをしない女性や子供も楽しめる「家族旅行先」としてのステータスを固めてきました。ラスベガスは最近では世界最高峰のモータースポーツのフォーミュラー1を開催したり、プロアメリカンフットボールチームのレイダースを招致するなど、さらなる発展の兆しを見せ始めたところでした。

そうした中、トランプ政権の対応や一連の関税ポリシーなどにより経済的な足かせを付けられ、成長フェーズにストップがかけられてしまっていることは実に残念です。トランプ政権は、ビザ取得が必要な国からの観光客に1人当たり250ドルの預り金の徴収を開始し、さらにはビザが必要ないESTA対象国からの観光客のフィーも値上げするなど、海外からの旅行者に対して非友好的なポリシーを貫いています。トランプ政権のそうしたアンフレンドリーな政策が、ラスベガス凋落の遠因となっているのは言うまでもないでしょう。

ラスベガスは、色々な意味において、良くも悪くも、極めてアメリカ的な街です。そんなアメリカ的な街がMAGA(Make America Great Again)の暴風を受けて荒廃してしまうことがないよう祈るばかりです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

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