ジェフリー・エプスティーンとはどういう人物か?②

(前回からの続き)
ジェフリー・エプスティーンが「資産投資アドバイザー」としてのピークを迎えていた2005年、フロリダ州パームビーチ警察にエプスティーンが14歳の少女に金を渡し、エプスティーンに「マッサージ」をさせているとの訴えが少女の両親からなされました。パームビーチ警察が捜査を開始したところ、とてつもない規模の性犯罪の可能性が認められ、FBIによる捜査協力を求める事態となりました。
パームビーチ警察が捜査を進めた結果、14歳から16歳までの五人の少女がエプスティーンから金を受け取り、エプスティーンに「性的サービス」を提供していたことが判明しました。また、エプスティーンの自宅に仕掛けられた二台の隠しカメラも見つかり、数々の「不適切なシーン」が撮影されていたことなどもわかりました。
パームビーチ警察とFBIによる捜査はさらに進み、被害にあった少女の数は80人にも達し、中にはフランスから連れてこられた三つ子の姉妹やブラジル出身の少女なども含まれていました。2006年5月、パームビーチ警察は「未成年者との不法な性行為」および「性的虐待」の罪でエプスティーンに逮捕状を出し、同年7月にエプスティーンを逮捕しました。

連邦レベルで捜査が進むが
パームビーチ警察とともに独自の捜査を続けていたFBIは、2007年6月に53ページの捜査報告書を発表しましたが、結果的にエプスティーンに対するすべての連邦法による起訴を免除すると表明しました。予想外の進展に一部の世論は沸き立ちましたが、フロリダの地元紙マイアミ・ヘラルドは担当検察官が「連邦法の機能とは裏腹に、(この事件は)被害者達から隔離される」とコメントしたことを報じ、「エプスティーンが、(検察官自身の)自分のポジションをはるかに超越した国家情報管理の職務を遂行しているため、『本件は不起訴とする』という判断を下した」と報じています。
エプスティーンは、ベア・スターンズを独立して投資コンサルティング会社「インターコンチネンタル・アセットグループ」を設立した頃より自らを「秘密情報エージェント」であると称し始めましたが、それが真っ赤な嘘ではない可能性があることがこの顛末により明らかになったりしました。

刑務所でも優遇されるエプスティーン
2008年7月、エプスティーンは18歳以下の未成年者に対する売春ほう助の罪で懲役18カ月の有罪判決を受けます。しかし、州レベルでもエプスティーンは「特別扱い」され、監視の目や規律がゆるい収容施設に収監され、1日12時間週6日の「出勤のための出所」が認められるなどの「厚遇」を受けました。収容施設を管轄する州保安官事務所が、エプスティーンが管理する非営利団体から12万8000ドル(約1856万円)の「収容コスト」を受け取っていたと報道されたことが関係していたことは間違いないでしょう。
2009年7月に釈放されたエプスティーンはレベル3の「性犯罪加害者」として性犯罪者データベースに登録されはしたものの、次に逮捕されるまでの間比較的自由な時間を獲得し、各界の大物などとの交流を続けてゆきます。この期間中、エプスティーンはより大規模で悪質な「性犯罪」に手を染め、多くの人を巻き込んでゆくことになります。
2019年7月、ニューヨーク警察とFBIの合同捜査チームはエプスティーンを性的人身売買などの罪で逮捕、自宅を捜査して隠しカメラなどで撮影された「大量の若い女性の裸の写真」や写真が納められたコンパクトディスクなどを押収します。一回目の逮捕・収監から10年を数えた二回目の逮捕でしたが、エプスティーンがその後娑婆で陽の目を見ることは二度とありませんでした。2019年8月10日、エプスティーンは収監されていたニューヨーク・メトロポリタン矯正センターで、首を吊って自ら命を絶ったからです(なお、エプスティーンが本当に自殺したのかについては、今でも異論が出されています)。

注目を集めるエプスティーン資料
生涯に二度性犯罪で逮捕されたエプスティーンですが、押収された証拠を含む捜査関連資料、裁判関連資料、エプスティーンの個人情報、事件についての各種の報告書などの膨大な資料が存在しています。それらを総称してエプスティーン資料(Epstein files)と呼ばれていますが、一部のエプスティーン資料の中に各界の大物の名前が記載されているとして注目を集めているのです。
イギリスの公共放送BBCは、エプスティーン資料にはイギリスのアンドリュー王子、ビル・クリントン元米大統領などの大物政治家とともに、マイケル・ジャクソンやデービッド・カッパーフィールドといったアーティストの名前なども記載されているとしています。記載されているという100人近い有名人の中でも最も注目を集めているのは、現職のアメリカ大統領のドナルド・トランプ氏でしょう。
米経済紙ウォールストリートジャーナルは、ドナルド・トランプ氏の名前がエプスティーン資料に記載されていて、今年2025年5月に司法長官からトランプ氏へ直接報告されたというニュースを報じました。トランプ氏は否定し、直ちにウォールストリートジャーナルを名誉棄損で訴えましたが、世論はトランプ氏に対して説明責任を果たすよう圧力を加え始めています。現在のアメリカは、トランプ氏を巡るエプスティーン資料の話題で持ち切りですが、トランプ政権の今後の行方に何らかの影響を与えることになりそうなのは間違いないでしょう。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。