【2024年米大統領選挙】米大統領選挙の「選挙人」とは何か?

本記事が公開(日本時間2024年11月5日午前1時)されてから31時間後のアメリカでは、いよいよ米大統領選挙の開票が始まり、早ければ同日中にも第47代アメリカ合衆国大統領が選出されているはずです。前に「アメリカ大統領選挙の基本を学ぶ」という記事でアメリカ大統領選挙は大統領候補者へ直接投票する直接選挙ではなく、大統領に投票する選挙人に投票する間接選挙である旨を説明しました。本記事では、日本ではほとんど馴染みがない「選挙人」という仕組みについて、あらためて説明します。


全米538人の「選挙人」で構成される「選挙人団」

まず、アメリカの大統領選挙は、全米538人の「選挙人」(Elector)による「選挙人団」(Electoral College)によって構成・実施されています。有権者が大統領候補へ直接投票するのではなく、各州で選出された選挙人に投票し、その委託を受けた選挙人が有権者に代わって大統領候補へ投票する仕組みです。

ほとんどの州では「勝者総取り方式」(Winner takes all system)が採用されていて、対抗馬よりも一票でも多く獲得できればその州のすべての選挙人を獲得できます。選挙人の数は538人ですので、270人の選挙人を獲得出来れば晴れて大統領に選出されることになります。

なお、選挙人の538人という人数ですが、上院議員100人と下院議員435人にワシントンDC分の3人を足した数で構成されていて、538人を各州の上院議員数と下院議員数とに応じた割合で分配しています。人口の多い州ほど選挙人の数は多く、例えばカリフォルニア州54人、テキサス州40人、フロリダ州30人、ニューヨーク州28人で、人口が少ない州ではバーモント州3人、ワイオミング州3人、サウスダコタ州3人、デラウェア州3人などとなっています。

「選挙人」による投票は翌月12月に実施

なお、アメリカ大統領選挙は「選挙年の11月第一月曜日の翌日火曜日」に実施されますが、「選挙人」による大統領候補への投票は翌月の12月14日に実施されます。選挙人は通常、自分が所属する政党の大統領候補へ投票すると誓約しており、実際に投票します。しかし、極まれに自党の大統領候補への投票を拒む「不誠実な選挙人」(Faithless Elector)が出現することがあります。

2016年のトランプ氏とヒラリー氏による大統領選挙では、5人の選挙人がヒラリー氏への投票を、2人の選挙人がトランプ氏への投票を拒み、それぞれ「不誠実な選挙人」となっています。しかし、これはアメリカの歴史上極めてレアケースであり、通常は起こり得ない「異例の出来事である」としてしまって問題ないと思われます。選挙人による投票結果は翌年1月に上院・下院の合同委員会が発表し、正式にアメリカ大統領当選者が決定します。

どういう人が「選挙人」になるのか?

では、アメリカ大統領を選出する直接の当事者である「選挙人」は、一体どのように選ばれるのでしょうか。どういう人が「選挙人」になるのでしょうか。まず、大統領候補を立候補させている政党は、独自の基準やルール、または伝統に基づいて「選挙人」をそれぞれ指名します。例えばカリフォルニア州では、大統領選挙の年の10月1日までに各党に「選挙人」の名簿提出を行うよう求めています。

どういう人が「選挙人」に選ばれるかについてですが、例えばカリフォルニア州において共和党は、これまでに「元カリフォルニア州知事」「財務長官経験者」「司法長官経験者」などの行政経験者や、「上院議員二期以上経験者」「党幹部経験者」「党傘下のボランティア組織元幹部」などの要職に就いていた人物などを「選挙人」に指名するとされています。いずれも政治や行政における相当の有力者であり、状況は民主党もそれほど変わらないようです。なお、2020年の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン元大統領候補がニューヨーク州の「選挙人」に指名されています。各党の「選挙人」に指名されるには、相応の行政や政治の経験、あるいは各党での実績や知名度が求められるようです。

米大統領選挙で「選挙人団」方式が採用されたワケ

米大統領選挙で「選挙人団」方式が採用されたワケは何でしょうか。なぜ、アメリカ国民は直接選挙で大統領を選ばないのでしょうか。「選挙人団」方式が採用されたのは、アメリカ独立前にさかのぼりますが、当時のアメリカ合衆国憲法の起草者が、「独立13州と国家全体の利益配分のバランス」をとることを目指したことに由来するとされています。当時の独立13州でも、現在のアメリカと同様に、各州における人口や経済に格差があり、憲法において人口が多く経済力が強い州の利益が優先されがちでした。弱い州にも一定数の「選挙人」を割り当て、大統領選挙における影響力を行使できるようにしたことが背景にあるとされています。

一方で、直接選挙で対立候補よりも多く得票できても、選挙人の数で負けてしまい、結果的に大統領に当選できなかったという事例も存在しており、「選挙人団」方式の制度上の問題点が指摘されているのも事実です。しかしながら、アメリカで長年続いてきた「選挙人団」方式による大統領選挙の仕組みがドラスティックに変わる可能性は低く、今後も各候補者は「選挙人」獲得競争にしのぎを削ってゆくことになるでしょう。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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