ヨーロッパのeコマース最新事情―ドイツ・フランス・イギリスを中心に―
ヨーロッパにおけるeコマースビジネスは、ここ数年で大きく進展しています。特に2020年以降の新型コロナウイルスの流行を契機としてオンライン購買が一気に浸透し、その後も一定の水準を維持しながら緩やかな成長を続けています。「ヨーロッパで自社製品を販売したい」というご要望を弊社にいただくことも増えています。今日は、最も市場が大きいドイツ・フランス・イギリスを中心に、ヨーロッパのeコマース最新事情をお届けします。
eコマースで買い物をする人の割合の変化
Eurostatによると、オンラインで製品・サービスを購入した割合は2014年の59%から2024年には77%へと上昇しています。またドイツでは同割合が83%に達しており、主要国ではオンライン購買が日常化しています。
イギリスは欧州でもっともeコマース市場が成熟しており、小売全体におけるeコマースの占める割合は現時点で約30%前後に達しています。これは他の欧州諸国と比較しても非常に高い水準であり、消費者の購買行動がデジタルへ大きくシフトしていることを示しています。イギリスは英語圏であることに加え、歴史的に他国からのビジネス展開がしやすい土壌が整っていることも背景にあるように思います。ブレグジットによってこの流れはますます加速するでしょう。
一方EU(欧州連合)加盟国であるドイツやフランスでのeコマース浸透率はそれぞれ約16〜17%程度とされており、イギリスに比べるとやや低いです。ただ、今後は20%前後まで拡大すると考えられています。ただ、現地に住む者の肌感覚としてはもっと多いのではないかと思います。小売店各社がインターネット販売に力を入れ、店舗販売の撤退が相次いでいるためです。
また、欧州全体で見ると、オンライン購買比率は2024年の約16%から2029年には約21%へと上昇する見通しであり、引き続き eコマースが小売の中心的チャネルへと移行していく流れは変わりません。
さらにB2B領域でもデジタル化が進んでおり、2021年から2024年にかけて eコマース利用は約28%増加しています。また、実店舗での販売と、デジタルチャネルを組み合わせたオムニチャネル化も見られます。

人気のプラットフォーム
ヨーロッパの eコマースにおいて最も重要な特徴は、マーケットプレイスの圧倒的な存在感です。
ドイツ、フランス、イギリスのいずれの市場においても、まず挙げられるのはAmazonです。各国でそれぞれローカライズされたサイト(Amazon.de、Amazon.fr、Amazon.co.uk)が展開されており、特にドイツでは年間150億ドル以上の売上を誇る最大プラットフォームとなっています。
これに加えて、各国固有のプレイヤーも重要です。例えばドイツではファッション特化型のZalando、フランスではCdiscountやFnac-Darty、イギリスではASOSなどが存在感を示しています。また近年は、中国系プラットフォーム(AliExpress、SHEIN、Temuなど)の台頭も顕著であり、価格競争力と品揃えを武器に急速にシェアを伸ばしています。広告や検索エンジンでの表示などに力を入れている印象です。
さらに、越境ECの拡大に伴い、複数国をまたぐマーケットプレイスの重要性が高まっています。欧州ではトップ100のマーケットプレイスだけで2,000億ユーロ以上の取引規模に達しており、マーケットプレイス中心の構造は今後も続くと考えられます。
出店までにしなければいけないことと準備に必要な期間
ヨーロッパで eコマースに出店する際のリードタイムは、選択するモデルによって大きく異なります。
まず先ほど取り上げたAmazonなどのマーケットプレイスを例に取って考えます。マーケットプレイスへし出店する場合、比較的短期間での出店が可能です。アカウント登録、商品登録、物流設定(FBAなど)は必要ですが、Amazon側が要求する項目を入力していくことで後述するヨーロッパで製品を販売するために必要な規制をクリアすることができます。
ただし、EU域外企業であってもVAT番号(税金)やEORI番号等求められることになるので、出店者の責任で実施する必要があります。通常税理士等の専門家に依頼して対応しますが、申請してもすぐに入手できるものではなく、数ヶ月要することもあります。
一方、自社ECサイト(D2C)を構築する場合は、より長い準備期間が必要になります。マーケットプレイスへの対応に加えて、決済手段(PayPalやカード、銀行振込など)、物流パートナーの選定、さらに顧客情報を管理するためのGDPR(General Data Protection Regulation : EU一般データ保護規則)などの法規制対応を含めると、マーケットプレイスへの出店の2倍から3倍は有すると考えた方が良いでしょう。

そのほかに注意すべき規制
ヨーロッパで eコマースを展開する上で最も重要なのが、製品に課される厳格な規制への対応です。例えば、EU加盟国で一般消費者に対して製品を販売する場合、2024年12月に施行されたGPSR(General Product Safety Regulation:一般製品安全規則)です。この規制では、EUで販売されるオンライン販売を含むすべての製品について、安全性の確保やトレーサビリティ、リコール対応などの義務を生産者に課しています。EU域外生産者に対しては特に厳しく、EU域内に代理人を設置することが必須となっています。
さらに、環境規制(包装廃棄物指令やEPR)なども重要です。環境規制は同じEU加盟国であってもドイツやフランス等、国ごとに大きく異なるため出店前に厳密な調査が必要です。各国の役所に申請を行って事前に認可を得ることなども求められます。
どの規制が適用されるかは、製品によって異なります。また、イギリスもEUから離脱はしたものの、EUと似たような規制を有していることが多いです。
Amazonのようなマーケットプレイス側は、各国政府が要求する必要な対応をしない限り、出店を受け付けないような仕組みとなっています。自社ECサイトからの販売であってもこれらの義務から法的に逃れることができないので、出店をお考えの場合は入念な準備が必要となります。
おわりに
ドイツ、フランス、イギリスはいずれも欧州 eコマースを牽引する主要市場であり、今後も安定した成長が見込まれています。一方で、市場の成熟化に伴い競争は激化しており、単なる価格競争ではなく、物流、規制対応、ブランド価値といった総合力が求められる時代に入っています。日本企業にとっても大きなビジネスチャンスがある一方で、現地特有の商習慣や法規制への理解が成功の鍵を握ると言えるでしょう。
また、先日E-commerce Berlin Expoというeコマース業者を対象とした見本市を訪問しましたが、SNSを活用した消費者購買意欲の醸成や、AIをいかに活用して購買活動につなげるかというのがこの業界のトレンドのようです。若者を中心に、InstagramやTikTokといったSNS上で商品を発見し、そのまま購入に至る流れが一般化しつつあります。実際、eコマース事業者の87%がSNSを活用しており、76%が今後5年でSNS経由の売上が拡大すると見込んでいます。規制対応だけではなく、「どう消費者にアプローチするか」というマーケティング戦略も重要になるといえそうです。
出典・参照
Ecdb.com. (2025). European eCommerce Market Size 2024: Top Countries, Revenue, Growth & Payments.
Eurostat (n.d.). Statistics Explained.
Forrester. (2025). Forrester: European E-Commerce Sales To Surpass €565 Billion By 2029.
Forrester. (2025). Europe-5 Retail E-Commerce Growth Drivers, 2025.
Marketreportsworld.com. (2026). B2B E-commerce Market Size, Growth | Global Report [2034].
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。
