ベルリンでの停電から見える、ドイツのインフラの安全性について

年明け早々の1月3日に、ベルリン市内で故意の電力網への攻撃による大規模停電が発生しました。連日最高気温さえ氷点下を下回るような寒さの厳しい中で発生したこの停電は、事件の真相解明やセキュリティ向上を求める声が高まる中、ドイツの首都を大きく揺るがしました。さらに、ドイツ国内の他地域においても、インフラの安全性に対する懸念が広がっています。

ベルリンで何があったのか?

この停電は、ベルリン南西部(シュテーグリッツ=ツェーレンドルフ区など)で発生しました。約4万5,000世帯と2,200の事業所が影響を受け、戦後、最も長く広範囲に及ぶ停電の一つとして報じられています。私のまわりでも自宅が停電になって生活がままならなくなった人、家は停電を免れたものの、公共交通機関が遮断されて日常生活に大きな支障が生じた人がいます。

停電の直接の原因とされているのは、送電用の高圧・中圧ケーブルが架かるテルトウ運河上のケーブル橋が放火によって焼損し、複数のケーブルが破壊されたことです。これにより系統が停止したことです。極左グループを名乗るVulkangruppe(火山グループ)が犯行声明を出したとされていますが、事件の背景については現在も評価が続いています。

ベルリンで頻発するインフラ破壊行動やその傾向

今回の停電は、決して例外的な出来事ではありません。ベルリンでは近年、インフラを狙った破壊行為が繰り返し発生しています。日常的によく遭遇するのは、市内や郊外を運行するSバーンで、ケーブル盗難や信号設備の損傷が原因となり、遅延や運行制限が生じるケースです。実際、私が最近Sバーンを利用した際には、駅での放火が原因で列車がその駅を通過するという場面を目の当たりにしました。

数日間に及ぶ広範囲の停電を経験し、「これほど簡単に重要インフラが破壊されてしまうのか」という疑問を抱いた市民は少なくなかったのではないでしょうか。また、近年、インフラを狙った攻撃は、物理的破壊とサイバー攻撃を組み合わせた「ハイブリッド型」が主流になりつつあります。送電網や信号設備はデジタル制御に依存しており、物理的な破壊が復旧を困難にするだけでなく、サイバー攻撃が混乱をさらに増幅させる可能性も指摘されています。今回の事件は放火という手法でしたが、現代都市のインフラが抱える構造的な脆弱性を改めて浮き彫りにしたと言えるでしょう。

寒さの厳しい冬
寒さの厳しい冬 (筆者撮影)

「日常インフラ」が攻撃対象になる時代

今回の停電事件が示したのは、電力網のような「日常インフラ」が、すでに明確な攻撃対象となっているという現実です。電力や交通、通信といったインフラは、普段は意識されることがほとんどありません。しかし一度機能が失われると、私たちの生活は即座に麻痺します。だからこそ、これらは攻撃者にとって「費用対効果の高い標的」になりやすいとも言えます。

ベルリンでは、Sバーンの信号トラブルやケーブル盗難が日常的に起こっていますが、これまではそれらは単なる迷惑行為や軽犯罪として受け止められてきました。しかし、今回のような大規模停電を経験すると、それらが同じ地平線上にある出来事であることに気づかされます。つまり、日常的なインフラ破壊の延長線上に、社会全体を揺るがす事態が存在しているのです。

「効率性」の追求が仇になることも

ここで改めて浮かび上がるのが、「効率性」と「安全性」の関係です。ドイツやEUでは、効率的な運用やコスト削減を重視し、電力網や交通網が高度に統合されてきました。平時においては合理的な選択ですが、その一方で、共通仕様が多いがゆえに、一部が破壊されると影響が広範囲に及びやすいという側面もあります。日本人から見ると極めてささいな事故やトラブル、天候不良で、長時間電車が止まってしまうことは日常茶飯事です。

日本では、歴史的背景から東・西日本の電力周波数が全国で統一されていないとはいえ、地震などの自然災害を前提に、結果として冗長性を多く抱えたシステムが形成されてきました。電力系統が広域に広がっており、地域間連系機能によって、復旧までの選択肢が複数存在します。そのため、一部の系統が不通になっても、他地域から電力を融通する仕組みが制度として整えられています。必ずしも「効率的」とは言えない構造ですが、危機時における柔軟性や段階的復旧の余地を残している点は、今回のベルリンの停電と対照的です。どちらが優れているかという単純な話ではなく、何を優先して社会インフラを設計するのか、という価値判断の違いが表れていると言えるでしょう。

凍結のため運休するトラム
凍結のため運休するトラム(筆者撮影)

停電事件を受けての評価と今後の対応

現在ドイツでは、クリティカルインフラ保護法(Kritis-Gesetz)が存在しますが、今回の事件を受けて、法的要件の見直しや規制強化の必要性が議論されています。特に、電力網やデータといった社会基盤を守るための「保護すべき基準」や監査体制の具体化が求められています。

また、停電を体験した住民の間では、災害やインフラ喪失への備えを自発的に進める動きも見られます。日本では地震など自然災害への備えが比較的浸透していますが、ドイツにおいてはそれほどではありませんでした。ただ今回は人災という、原因は異なるにせよ、日常的な備えの重要性が意識され始めているように感じられます。とはいえ、実際には停電からの復旧についてのお知らせが「警告!」という形でアプリ上に提示されたせいで、「また停電か?」と多くの住民が誤解し、混乱に陥るといったことも起こりました。警告アプリを通して通達を行ったものの、それすらもうまくいかなかったのです。

新年早々、しかも厳しい寒さの中で経験した広範囲の停電は、多くの人に強い印象を残しました。重要インフラへの攻撃は、人命にも関わる極めて卑劣な行為です。今回の事件を無駄にすることなく、行政による迅速かつ実効性のある対応が進められることを期待したいと思います。

出典・参照
BBK. Vorsorge und Handeln bei Stromausfall

IEA. Japan Electricity Security Policy

Tagesspiegel. Nach Stromausfall in Berlin Landkreistag: Sicherheitslücke im Kritis-Gesetz schließen.

Tagesschau. Was über die „Vulkangruppen“ bekannt ist.

執筆者

希代 真理子(きたい・まりこ)

メディア・コーディネーター

1995年よりドイツ・ベルリン在住。フンボルト大学でロシア語学科を専攻した後、モスクワの医療クリニックでインターン。その後、ベルリンの映像制作会社に就職し、コーディネーターとして主に日本のテレビ番組の制作にかかわる。2014年よりフリーランスとして活動。メディアプロダクションに従事。2020年にAha!Comicsのメンバーとして、ドイツの現地小学校を対象に算数の学習コミックを制作。2023年3月に初の共著書『ベルリンを知るための52章』刊行(明石書店)。

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