パリのアクセラレーター「WILCO」

今回はパリで10年以上にわたりスタートアップ企業を支援しているアクセラレーターWILCOについてご紹介したいと思う。

アクセラレーターの役割

アクセラレーター（accelerator）とは、直訳すると「加速させるもの」という意味になるが、端的に言えば、「スタートアップ企業や企業家をサポートし、事業成長を促進する役割を担う人物や団体・組織、プログラム等」のことを言う。

アクセラレーターが提供するプログラムには経験豊かなメンターたちが参画し、スタートアップ企業を指導したり、経営力強化や知識の向上を後押ししたりする。
また、ビジネスの立ち上げや拡大に不可欠な資金を拠出したり、ネットワーキングの中で企業家と投資家とを引き合わせ、新たなビジネスチャンスを創出したりする。

いわゆるアクセラレーションと似て非なるものに、英語で「卵などがふ化する」を意味するインキュベーション（incubation）があるが、こちらは起業及び事業の創出をサポートするサービスや活動のことを指す。
インキュベーションを提供する団体や組織は「インキュベーター」と呼ばれるが、アクセラレーターとインキュベーターの明確な違いは、後者がシード以前、もしくは創業直後の企業家の支援にフォーカスしていることにある。企業基盤を築くための長期的支援を提供し、発展に必要な環境を整えるべく、オフィスや共有リソース、住居等を提供することに重きを置いているのがインキュベーターである。

WILCOの沿革

WILCOの前身は2002年、サクレーに発足したScientipôleである。これが2017年に名称変更し、WILCOとなった。

こうして誕生したWILCOは、2020年にはスタートアップ企業、中小企業、大企業を包括的にサポートするアクセラレーターとなり、3年後の2023年にはLiberateur ambition（野心あるリベレーター）へと変貌を遂げた。

その後もWILCOは成長をつづけ、今日では世界有数のテクノロジー・エコシステムとして知られるパリ・サクレー集積地において、Le30というコワーキング・スペース兼企業支援センターを運営するにまで至っている。

パリ・サクレー地区はパリの玄関口の一つ、オルリー国際空港からほど近く、国内外を問わず広く知られたキャンパス・クラスターの中心であり、文字どおりパリ地域の経済及びキャリアの主要拠点を成している。
WILCOが運営するLe30は、パリ地域の公的・私的研究機関の40%、ハイテク研究開発機関の15%が集結する、欧州随一のイノベーション・エコシステム地区に所在するわけだ。

WILCOの方針とサポート分野、スタッフの構成

WILCOは、スタートアップ企業が同社の資本参加を求めないかたちで、売上100万ユーロを3年以内に達成することを目標としている。
この目標を達成するため、WILCOは、次に掲げる4つの方針にもとづき、企業家の育成を強力に進めている。

1. 協力的態度の育成と積極的な関与
2. サスティナブルな開発の提案
3. テックにおける包括性と多様性の奨励
4. 環境負荷低減の奨励

「協力的」、「サスティナブル」、「包括性」、「多様性」、「環境負荷低減」といったキーワードが盛り込まれ、地球環境にも人にも負担の少ないイノベーションを志向している点が評価され、幅広い共感を呼んでいる。

WILCOプログラムの特徴

名だたるアクセラレーターの大多数が数か月間という短期のプログラムを提供しているのに対し、WILCOは、先述のとおり3年間という長期のプログラムを提供している。つまり、WILCOは、地に足のついたきめ細かなサポートを提供することを重視しており、そうした点において米国の一般的なアクセラレーターとの違いを鮮明にしている。手数料を取り、即座に結果を出そうとする米国流ではなく、じっくりと腰を据え、時間をかけてコミュニケーションをはかりながら、信頼を醸成していく姿勢を大切にしていることが他のアクセラレーターとは明確に異なると言うことができる。

スタートアップ企業の採用と資金調達

WILCOのプログラムに応募する企業は毎年700から750あるそうで、それら応募者の中から100から120社が採択される。その後、3年間で売上100万ユーロを果たすのは50社ほどという。

採択された企業は10万ユーロの融資を無利息で受けることができる。受けた融資は４年で完済すればよく、万一事業に失敗しても返済義務はない。
3年間の企業育成に要する費用は20,000ユーロである。WILCOはこの20,000ユーロを3分の1ずつ3方面から調達する。内訳は企業家の自己負担、企業家のための銀行BPI France や地方自治体からの支援金、顧客であるインキュベーターや投資家から得た資金の合算である。

ビジネスのさらなる加速を求める企業家に対しては、COMET（彗星）と呼ばれるプログラムが別途用意されている。COMETはWILCOのマネージャーによる知識・技術の伝授、特別レベルのメンターによる指導、投資家とのネットワーキングなどで構成される1年間の有料プログラムで、スタートアップ企業の60%が参画すると聞き及ぶ。

アクセラレーターの枠を超え、リベレーターアンビションへ

WILCOは成長と変革をつづけ、いまや活動の場を地方や海外へと広げている。

イルドフランス・エコシステムの発展は目覚ましいものがあるが、そうは言っても、フランスの地方はまだまだ発展途上にある。政治的課題を孕み、それぞれの自治体のフレキシビリティが求められることから、地方都市におけるエコシステムの活性化は一朝一夕に達成されるものではない。
WILCOは、多くの課題を抱える地方に着目している。

WILCOはまた、外国企業のプログラムにも積極的に携わっている。日本や韓国、ウクライナ等からもたびたび協力要請があるらしい。Brexitの余波も相まって、欧州事業に乗り出すならまずはパリからという選択をする外国企業が増えていることが主因であろう。

WILCOからのメッセージ（HPより抜粋）

「挑戦、破壊、変革。
経済価値を創造する。社会にポジティブなインパクトを与える。これがWILCOチームの原動力です。
WILCOチームは、企業家精神はプロジェクトを超えたものであり、何よりも向上心の問題であると確信しています。プロジェクトにとどまらず、それは何よりも野心の問題であると確信しています。現状に挑戦し、リスクを冒す野心、明日の世界にインパクトを与える。
あなたが新興企業であれ、中小企業であれ、大企業であれ、企業家であれ、イントラプレナーであれ、WILCOはあなたを解放します、WILCOはすべての企業家のイニシアチブを解放します、WILCOは、各分野に特化した専門知識により、あらゆる企業家イニシアチブを解放します。

WILCOの使命は、革新的な変革プロジェクトを実現することで、成長を支援することです。WILCOは可能な限り倫理的な方法でコミットします。
あらゆる野望を成功に導くために、利害の対立を一切排除し、最も倫理的な方法で取り組んでいます。
1,500を超えるプロジェクトで試行錯誤してきた方法論を通じて、あらゆる野望を成功に導くために、利害の対立を一切排除し、最も倫理的な方法で取り組んでいます。
それは変革プロジェクトを軌道に乗せることができる独自の方法論、価値を生み出す効果的な方法論、あらゆる野心を解き放つというコミットメントに基づいた方法論です。」

欧州への事業展開をお考えであれば、WILCOが提供するプログラムへの参画もぜひご検討いただきたいところだ。