欧州最大の食品メッセ「ANUGA 2023(アヌーガ)」ダイジェスト

日本政府は現在の円安の流れを最大限活用し、外貨を稼ごうと躍起になっているのか、2020年に1兆円の輸出目標を掲げ、見事に達成した。農林水産省によると、2022年の食品関係の輸出額は1兆4,140億円と過去最高額を記録、対前年比14.2%の増加となった。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/attach/pdf/zisseki-58.pdf

食品輸出はいまや鰻登りである。これまでのところ、EU向けの輸出額は大きいとは言えないが、高級ラインナップが売れるという点において「日本産」をひとつのブランドとして確立したい日本企業にとって、EUは見逃すことのできない市場だと言うことができるだろう。

ANUGA(アヌーガ)

ANUGA(アヌーガ)と呼ばれる欧州最大の食品メッセは、ドイツ・ケルンで2年に1度開催される食の大品評会である。毎回、経済産業省や農林水産省は相当な予算を投じ、日本の食を海外にプロモーションする。
ジェトロブースでは、全国味噌工業協同組合連合会と日本国内の味噌製造会社がタッグを組み、欧州の人々に「味噌」の存在を知ってもらいたいとプロモーションしていた。

欧州ではまだまだ、味噌というものがいかにバリエーションに富んだ食材であるか充分に理解されているとは言えず、まずは知ってもらうところから力を入れているのが印象的だった。味噌が日本食はもちろんのこと、洋食にも旨みを提供する調味料であるということをもっと広めたいという熱い思い、そして、アヌーガで見聞きしたいくつかのトレンドについて記したい。

「何かの代替」食品

ここ10年ほど、じわじわとその地位を確立しつつあるのがグルテンフリー食品である。
小麦の代替品を用いることで精製小麦を回避するという試みは、小麦アレルギーの人々のみならず健康志向の高い人々からも支持を得ている。大豆の代わりにグリンピースを用いた韓国産の醤油や、とうもろこしやカラス麦を使ったパスタなども登場している。その一方で、魚類の代替として小麦から作られたツナ缶なるものまで展示されていて面白い。

ほかにも、もはやチーズとは呼べないであろう、アーモンドと大豆からできたカッテージチーズ風のビーガンチーズのように、「何かの代替」という切り口の商品が目立った。

筆者が注目したのは、大潟村あきたこまち生産者協会が出展していた米粉ラーメンである。小麦の代わりに米粉を使用したものは、これまで美味しくないとされてきたが、こちらはちぢれ具合もコシも申し分なく、代替品として違和感を感じさせないくらい美味だった。このように、秋田県が誇る米を用い、欧州でもポピュラーなラーメン業界へ打って出るというのは、一つのシナリオとしてあり得ると思う。どうしてわざわざ日本から持ってくる必要があるのかを美しいストーリーで語ることができれば、充分受け入れられるのではないかと期待が湧いてくる。

近年、日本でも欧州でも良質のタンパク質が摂取できるとして注目されているのが昆虫食だ。
昆虫を気軽にスナックとして食べられるようポップに売り出したフィンランドのスタートアップは、早くも世界中にディストリビュータを発掘し、ビジネスの拡大を狙っている。同社のウリはEUの高い安全衛生基準をすべてクリアしたEU産であることで、すでに日本語サイトもあるのでチェックしていただきたい。
(Party Bugs:https://www.partybugs.com/ja/

前回のアヌーガでも、大豆ミートやプラントベースのサーモンといったものは見られたが、今回はさらに進化し、食感や味覚のクォリティが一気に上がったような印象を持った。たとえば、グリンピースを用いたビーガンケバブは、噛み応えこそやや劣るものの、柔らかい鶏肉ような食感で、ホンモノの肉質にきわめて近いと感じた。

ハラール

アヌーガでは、至るところでハラール認証マークを目にした。
現在、世界人口の4人に1人がイスラム教徒と言われ、しかもその数は年々増加傾向にある。このままの勢いが続けば、数十年後にはキリスト教信者の数を上回るだろうとまで言われている。
イスラムの世界とは無縁だと思っていては、みすみすビジネスチャンスを逃してしまう。ますます拡大をつづけるハラール市場は、食ビジネスを生業とする企業にとって決して看過することのできない存在となりつつあるのだ。

アヌーガでは、日本の醤油・タレを製造、販売している山形県の株式会社丸十大屋が、スタンダードな醤油、だしつゆ等々のラインナップでハラール認証を取得し、認証マークをつけてプロモーションしていた。醤油の生成プロセスで発生するアルコールを許容範囲内に抑えることでハラールとして認められたという。「日本ハラール協会」を通して認証取得が可能なので、ぜひ多くの日本企業にも取り組んでいただきたいと思う。(https://www.jhalal.com

マリファナ入りの食品

ドイツでは間もなく、マリファナの個人使用、栽培を認める法律が成立する見通しである。
それを見越して、マリファナ入りのトルティーヤチップスやクッキーがトレンディな棚に陳列されていた。クッキーは砂糖の代わりにナツメヤシを使用。健康志向を謳いつつ、マリファナを混ぜ込むという何ともトリッキーな商品である。

また、大麻は日本では違法とされているが、オランダをはじめドイツでも医療分野以外での使用を認める方向にあることから、将来的には、大麻関連の食品も登場してくるだろうと予想されている。

紙製のパッケージ、食器など

欧州では、フランスを筆頭にプラスティック容器の使用制限が強化されている。
日本でもスターバックスのストローが紙製になり、時間の経過とともに萎えていくストローに苛立ちを隠せない人も少なくないだろうが、環境に優しい=不便だ、というトレードオフの関係に終止符を打とうと登場したのが、欧州で製造されている紙製の容器や箸で、コーヒーも問題なく飲むことができる。

紙製ストローと同じ素材を使っているらしいのだが、Hello Straw社のストローは7時間以上水に浸しても萎えることはなく、ストローとしての機能を存分に保持しているのには驚かされた。また、箸は、ラーメンを食べても萎えることがないという。ポップなデザインに加え、カスタマイズも自由自在とあって、ビジターが途絶えることはなかった。サステナブルで可愛らしく、クールで遊び心溢れるデザインが強く印象に残る。

日本の和牛-WAGYU

最後に紹介したいのは日本の和牛ビジネスである。
ジェトロのサポートで日本の食品会社や協会が小さな軒を連ねるなか、肉のホールでひと際異彩を放っていたのが日本の中央畜産会のブースだった。天井から大きな「WAGYU」の文字が吊り下げられ、巨大スクリーンをバックに日本の和牛マイスターが、日本から運んできたA5級の飛騨牛を解説を交えながら捌き、惜しげもなく試食に供するという大盤振る舞いだった。農水省としては、和牛の本家本元たる日本の和牛は相当な高値で取り引きされるため、プロモーションにも巨費を投じていることが見て取れた。

中央畜産会の会員企業で、精肉輸出業を営む鳥山畜産食品株式会社の鳥山社長は、「10年間このようなプロモーションを続けてきたが、ようやく会員企業の海外輸出に向けた足並みが揃ってきた。向かう方向はみな同じなので、企業ごとに設けられたパーティションは次回はいらない」と、みんなで一丸となって挑戦する意気込みを語ってくれた。10年かけて認知度を定着させてきた。これからはハイエンドな日本の和牛ブランドをビジネスとしてさらに発展させていく。

以上、アヌーガについて、筆者の興味のままに述べてきたが、欧州はまだまだ他国・他地域と比べると規制が多く、多くの日本企業にとって参入の壁は高い。他国との競争に負けないよう、日本の政府機関・公的機関にはいっそう強力なサポートを期待して止まない。

執筆者 吉澤 寿子(よしざわ・ひさこ)

CEO, Researching Plus GmbH
株式会社ジェイシーズ マーケティングコンサルタント(ドイツ)

早稲田大学人間総合研究センター招聘研究員。
2007年渡独。デュッセルドルフ大学現代日本研究所博士課程に在籍し、研究を重ねるかたわらResearching Plus GmbHを設立。日本企業のドイツ進出、市場調査、視察・研修等に携わっている。お茶の水女子大学人間文化研究科修士課程修了。

Researching Plus GmbH: https://researchingplus.com
連絡先:h-yoshizawa@j-seeds.jp

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