ラテンアメリカで注目のスタートアップ企業・ロペオ

三人の若者が立ち上げたロペオ

 ラテンアメリカはEコマース不毛の地とされています。欧米や日本などの先進国に比べてクレジットカードの普及率が低く、国土が総じて大きい割に物流インフラの整備が不十分で、しかも治安も悪い国が圧倒的に多いのが理由です。そんなラテンアメリカでEコマース事業を立ち上げるべく、しかもアパレルという難しい領域で、ラテンアメリカ出身の三人の起業家が会社を立ち上げました。ロペオ(Ropeo)という会社です。

 ロペオはアレジャンドロ・カサズ、サンティアゴ・ゴメズ、ルイス・フエルタスの三人のコロンビア人の若者が2017年に立ち上げた、著名アクセラレーターのYコンビネーターが投資した会社です。ロペオの事業目的はシンプルで明確です。「アパレルとファッションをラテンアメリカ市場へ届けること」です。Eコマースの中でも、アパレル・ファッションは特に難しい領域とされていますが、ロペオは独自の「買う前に試す」(Try before you buy)方式を採用し、ユーザーの獲得を目指しています。
 
 ロペオの最大の差別化要因は、同社が専属のスタイリストを抱えている事です。ウェブサイトで単に服を売るのではなく、ユーザー一人ひとりの好みに合わせてスタイリストが服をチョイスし、各ユーザーに送っているのです。

ロペオのビジネスモデル

 ロペオの使い方は簡単です。ユーザーはロペオのウェブサイトで服のサイズ、好きなファッションのタイプ、好きなブランドや色、予算などの情報を登録します。登録された情報はロペオのスタイリストとAIによってチェックされ、気に入ってもらえそうな服をチョイスして代理で購入し、箱詰めします。箱は宅配便で送られ、ユーザーは気に入ったもの以外の服を箱に詰め戻して返却します。返却時に配達員に服の代金を現金かクレジットカードで支払います。なお、箱を送って欲しくない月はその旨をロペオに伝えると、その月は送られてきません。

 なお、ロペオはユーザーから毎月7ドル(約735円)のサブスクリプションフィーを徴収しています。このサブスクリプションフィーと服の販売コミッションがロペオの売上となります。

毎週ユーザー数が90%ずつ増加

 2018年1月からコロンビアに向けてサービスを開始したロペオによると、サービス開始から毎週ユーザー数が90%ずつ増加しているそうです。一方で気になる服の返却率ですが、現時点ではおよそ50%が購入されずに返却されているそうです。Eコマースがある程度一般化した日本から見れば、ロペオのビジネスはそれほど斬新には見えません。しかし、現金での決済を提供するなどラテンアメリカのニーズを巧みにくみ取り、同社はユーザーの獲得には成功しつつあるようです。

 「我々の最大のチャレンジは在庫とオペレーションです」とロペオのカサズCEOは話します。「在庫とユーザーが求めるものをマッチングさせるのが最大のチャレンジでありリスクです。我々がマシンラーニング(AI)を使っているのもそれが理由です。マシンラーニングを使う事でオペレーションの生産性を上げ、リスクを最小化する事ができます」

 ややアナログ的な感があるロペオのビジネスですが、最新の技術をしっかりと活用しているところはYコンビネーター企業らしいところです。サブスクリプションのユーザーを維持し、好みなどをより正確に把握するためにも、AIは今後の事業展開におけるポイントの一つとなりそうです。

ロペオのビジネスは成功するか

 ところで、ロペオのビジネスの今後ですが、現在の成長スピードを維持し、適切なファイナンスを受ける事ができれば、成功する可能性は大いにあると思われます。Yコンビネーターは通常、インキュベートする会社には12万5千ドル(約1,312万円)を出資します。出資はあくまでもブリッジ出資で、ラウンドがつながると別の投資家に売却してさっさとエクジットしてしまいます。ロペオはこれまでに総額で25万ドルを集めており、エクジットが近いと見られます。次のラウンドでそれなりに評価されれば、それなりのファイナンスが付けられる可能性があります。

 Yコンビネーターは、RedditやDropboxなどのテック系スタートアップ企業を好むものと一般的に認識されがちですが、実はAirBnBにも投資していたのは有名な話です。ガチガチのテック系スタートアップ企業でなくても、ビジネスモデルとマーケットが評価されればどんどん投資してきます。ロペオのビジネスモデルは、Yコンビネーターを筆頭とするシリコンバレーのベンチャー投資家に相応に高く評価されているようです。

 現在、創業者三人は母国コロンビアの7都市に向けてロペオのサービスを展開していますが、今後はコロンビアの他の都市や、他のラテンアメリカの国へもサービスを広げてゆくとしています。そんなロペオは、適切なファイナンスを受けて適切なスピードで事業を拡大してゆけば、一気に勝者のポジションが取れるかもしれません。ラテンアメリカで独特のビジネスを展開しているスタートアップ企業の今後を、大きな期待とともに注目していきましょう。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

連絡先:k-maeda@j-seeds.jp

無料ご相談フォームはこちら