【アメリカ人の生活】アメリカを蝕む「UPFs」とは?

前に「アメリカを悩ます「肥満」という名の国民病」という記事で、アメリカの国民病である「肥満」の現状をお伝えしました。今やアメリカ人の41.9%が肥満であり、その背景にはアメリカの食品会社による巧みなマーケティング戦略があることなどをご紹介しましたが、アメリカの「肥満」問題の原因は、どうもそれだけに限らないようです。今回は、昨今アメリカで問題視され始めた「UPFs」についてお伝えします。

「UPFs」とは何か?

UPFsとはUltra-Processed Foodsの略で、日本語では「超加工食品」と訳されています。UPFsは、ブラジルの栄養疫学者のカルロス・モンテイロ氏が発案した概念でありターミノロジーです。1990年代半ば、ブラジルの子供の肥満率が異常に上昇していることを不審に思ったモンテイロ氏は、勤務するサンパウロ大学の同僚らと共同で調査を行い、ブラジルの一般家庭における食品の購買パターンと子供の肥満率の相関関係などを調べました。

調査結果は、一般的なブラジルの家庭では砂糖、塩、食用油、米、豆などの購入量が大きく減少している一方で、ソーダ飲料、ソーセージ、インスタント食品、菓子パン、クッキーなどの加工食品の購入量が大幅に増加していたことを示したのでした。モンテイロ氏と同僚は調査結果をまとめ、独自に発案したNOVA分類とともにUPFsの概念を学会誌に発表し、世界中の研究者に衝撃を与えました。UPFsの消費量増加は肥満率を上げていたのみならず、糖尿病や心臓病といった他の健康問題を引き起こす可能性があることなども示唆していたのです。

「UPFs」の定義

モンテイロ氏らは、NOVA分類において「UPFs」を次のように定義しています。

UPFs(ウルトラプロセスドフーズ)とは、完全に、またはほぼすべてを食品の抽出物(油脂、脂肪、砂糖、スターチ、タンパク質など)や食品由来物(水素化油脂、モディファイドスターチなど)から構成した食品か、研究室内で合成された工業的フォームレーション(Industrial formulations)と呼ぶべき食品のことである。(中略)(生鮮食品などの)グループ1に含まれる生鮮食品がわずかに使われているか、またはまったく使われていない。

要するに、食品添加物や食品由来原料などを含む食品で、工場で製造されたものはほぼすべてUPFsに相当します。代表的なUPFsとして、モンテイロ氏らは(ポテトチップスなどの)スナック、クッキーまたはビスケット、アイスクリーム、チョコレートまたはキャンディ、コーラなどのソーダ飲料、エナジードリンクおよびスポーツドリンク、缶詰などのインスタントスープ、加糖ヨーグルト、加工されたフルーツジュース、マーガリンおよびスプレッズ、冷凍ピザまたは冷凍ハンバーガー、チキンまたはフィッシュナゲット、菓子パン、食品添加物入りのパン類、シリアルおよびシリアルバー、ケーキおよびケーキミックス、ウィスキーやウォッカなどの醸造アルコール飲料、などを挙げています。ざっと見たところ、普段アメリカ人が口にしているもののほぼすべてがUPFsであるように見えます。

アメリカは名実ともに世界最大のUPFs消費大国

実際に、アメリカは名実ともに世界最大のUPFsの消費大国です。アメリカの権威ある医療学会誌BMJに投稿された最新のレポートによると、アメリカ人は総摂取カロリーの60%をUPFsから取得しており、ヨーロッパ諸国の14%から44%に大きく差をつけています。また、ウォルマートやターゲットなどの主要スーパーマーケットチェーンで売られているUPFsのアイテム数も、ヨーロッパ諸国より41%も多いそうです。

確かに、忙しいアメリカ人などは、下手をすると一日三食をUPFsで賄わざるを得ない人が少なくありません。朝食にシリアルと加糖フルーツジュースをかきこみ、昼食はファストフードのハンバーガーを食べ、おやつにプロテインバーを食べ、帰宅したらスーパーで買った冷凍ピザをソーダ飲料と一緒に食べ、デザートにアイスクリームを楽しむ。実際にそのような食生活を送っているアメリカ人は多いのです。

アメリカ人の食生活の変革には食育が必要

上述の「アメリカを悩ます「肥満」という名の国民病」という記事の結論で、アメリカ人の肥満率を下げるには子供時代からの食育の導入が必要であると書きましたが、今回も同じ結論に至らざるを得ません。アメリカにおけるUPFsの消費量削減には、正しい食生活を教える食育と、そのサポートシステム、そして生鮮食料品のより効率的なサプライチェーンが必要です。何よりもUPFsの危険性を啓蒙する食育こそが、現在のアメリカに最も必要だと考えます。

ニューヨークタイムズは最近の記事で、UPFsがアメリカ人に与える健康上の影響として心臓病やⅡ型糖尿病、あるいはうつ病などの精神疾患を含む32の疾病を挙げ、UPFsの危険性を訴えています。特にソーダ飲料やソーセージやベーコンなどの加工肉製品の過剰摂取については、明らかに健康上のリスクがあるとしています。ソーダ飲料もソーセージやベーコンもアメリカ人の大好物と呼ぶべきものですが、ひとりでも多くのアメリカ人がUPFsの危険性へ目を向け、食生活を改善してくれることを願ってやみません。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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