デイヴィッド・ラムジーに学ぶ、アメリカで安易に破産してはいけない理由とは?

前に別の記事で、保守系アメリカ人が絶賛する財務アドバイザーのデイヴィッド・ラムジー氏をご紹介しました。借金とクレジットカードを完全否定し、人々を「債務からの解放」に導く健全家計財政の伝道師としてのステータスを獲得していますが、同時に「破産」に対しては消極的であることでも知られています。ラムジー氏はなぜ破産に消極的なのか、アメリカにおける破産全般の事情なども含めて解説します。

2023年度の破産申し立て件数は45万件超

アメリカ合衆国裁判所事務局(Administrative Office of the U.S. Courts)のまとめによると、アメリカでは2023年の一年間で法人と個人を合わせた破産申し立て件数が45万2990件に達し、対前年比で16.8%増加しました。そのうち、個人による破産申し立て件数が43万64件で、全体の95.8%を占めています。破産の種別では、チャプター7(清算型破産)が26万1277件(57.6%)、チャプター13(再生型破産)が18万3956件(40.6%)で、両者合わせて全体の98.2%を占めています。

破産申し立て件数増加の理由について、破産弁護士のデレック・ジャッケス氏は、アメリカの金利引き上げによるクレジットカードやローンなどの支払利息の増加、インフレーションの常態化による生活コストの上昇、ハイテクセクターの企業などを中心としたレイオフなどの雇用調整を挙げています。特にアメリカのインフレーションと金利高は当面続くことが見込まれていて、今後も破産増加のトレンドが継続する可能性が高いと見ています。

「チャプター7」で破産すると?

アメリカで破産申し立てをする人の半数以上がチャプター7で破産を申し立てていますが、チャプター7で破産すると債務者はどうなるのでしょうか。まず、チャプター7は債務者の居住地を管轄する破産裁判所へ申し立てます。なお、チャプター7で破産申し立てをするには所得制限をクリアする必要があり、一定の所得がある人についてはチャプター13で申し立てることなどが求められます。

裁判所へ申し立てると裁判所が管財人(Trustee)を指定し、管財人が債務者の財産や負債などを流動化し、残余財産を債権者へ分配します。この辺のプロセスは、日本の破産申し立ての手続きとほぼ同じです。その後債権者集会が開催され、債務者が研修プログラムを受講するなどした後、債務者の債務が「原則」免除されます。債務免除を得て、債務者は晴れて「フレッシュスタート」を切ることが可能になります。

免除されない債務も?

チャプター7で破産申し立てをすれば、クレジットカードやカードローンなどの債務が免除され、フレッシュスタートを切ることが可能になります。では、ラムジー氏はなぜ破産申し立てに否定的なのでしょうか。その最大の理由は、「免除されない債務」の存在です。ラムジー氏は、「チャプター7で破産申し立てをする人のほとんどが、主たる債務にIRS(米内国歳入庁)に支払うべき税金の滞納分と相応の金額の学生ローンを抱えている。そして、恐ろしいことに、これらの債務については1セントたりとも免除されないのだ」と説明しています。

例えば、5万ドル(約750万円)のクレジットカード債務、5万ドルの学生ローン残高、3万ドル(約450万円)の連邦所得税の滞納があるとした場合、チャプター7で破産申し立てをして認められたとした場合、免除されるのは5万ドルのクレジットカード債務のみで、学生ローンとIRSに対する税金の滞納分はそのまま残る形になります。総額13万ドルの負債のうち8万ドル分は免除されずに残るのであれば、何もわざわざチャプター7で破産申し立てなどをせずに、クレジットカードの債権者と直接交渉して、返済条件の変更などを認めてもらう方が手取り速く、かつクレジットスコアにも傷が付かないというのです。確かに、債務全体の38%しか免除されないのであれば、チャプター7の経済効果やメリットも限定的になってしまうでしょう。

それでも増加する兆しを見せる「破産申し立て」

ラムジー氏自身も、26歳の時に不動産ローンを借り入れていた金融機関とトラブルになり、自己破産を経験しています。ラムジー氏によると、アメリカの破産制度は「地獄のようなもの」で、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈する別次元の世界だそうです。ラムジー氏は、破産は離婚と同じで、「考えられる手段をすべて試した後に、どうしても埒が明かない場合」にのみ選択すべきであって、簡単に選択すべきではないと力説します。チャプター7で破産すると、日本と同様に信用情報に傷がつき、クレジットカードやカードローンなどの利用が10年間程度完全にできなくなります。「借金大国アメリカ」においては、クレジットスコアがネガティブになるとそれなりのデメリットが生じることは間違いないでしょう。

しかし、ラムジー氏の杞憂とは裏腹に、現在のアメリカにおいては破産申し立てが増加する兆しを見せ続けています。生活コストが高止まりで推移する中、特に高騰する医療費に音を上げて破産を申し立てる人などが増加しているのです(医療費の債務は破産により通常免除されます)。医療費の爆発的な増加は、アメリカ社会が抱える巨大な社会的時限爆弾のひとつですが、アメリカ人を破産申し立てに走らすドライバーとならないことを祈るばかりです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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