テスラが販売開始した自動車保険「テスラ保険」とは?

世界最大のEV(電気自動車)メーカーのテスラが自動車保険を販売していることをご存じですか?従来型の自動車保険の常識を覆すゲームチェンジャーになる可能性が指摘されている「テスラ保険」とは一体どのような自動車保険なのでしょうか。本記事では、現在アメリカで注目を集めている「テスラ保険」についてお伝えします。

「テスラ保険」とは?

「テスラ保険」(Tesla Insurance)は、テスラが2019年からカリフォルニア州で販売を開始した自動車保険です。カリフォルニア州に続いて他の州での販売へ拡大し、本記事執筆時点の2023年7月13日時点ではカリフォルニア州、アリゾナ州、コロラド州、イリノイ州、メリーランド州、ミネソタ州、ネバダ州、オハイオ州、オレゴン州、テキサス州、ユタ州、バージニア州の12州で販売されています。

テスラ保険の内容は、一見したところ一般的な自動車保険と変わらないように見えます。補償内容も対人賠償責任補償、対物賠償責任補償、人身傷害補償、搭乗者傷害補償、自損事故補償、車両保証、盗難保証などで、基本的には一般的な自動車保険と同じのようです。実際のところ、事故などによる損害を補償するという基本的な仕組みは従来型の自動車保険とまったく同じです。では、テスラ保険はこれまでの自動車保険と一体何が違うのでしょうか。その前に、テスラはなぜ自前で自動車保険の販売を開始したのでしょうか。

テスラが「テスラ保険」の販売を開始したワケ

テスラが「テスラ保険」の販売を開始したワケですが、保険料の高さです。テスラのEVに対しては、アメリカのメジャーな自動車保険会社が保険の対象とし、モデルごとに保険を販売しています。問題は、テスラのEVは車両価格が総じて高額であり、かつ事故などを起こした際の修理代も高額で、結果的に保険料が高額にならざるを得ない点です。

車の修理などのメンテナンス費用についてのデータを収集・公開しているRepairPalによると、テスラの平均年間メンテナンスコストは832ドル(約11万6,480円)で、アメリカで販売されているすべての車両の平均年間メンテナンスコストの652ドル(約9万1,280円)より27.6%高くなっています。実際のところ、アメリカのメジャーな自動車保険会社の多くはテスラのEVを「高級車」に分類せざるを得ず、保険料も相応に高額にせざるを得ないとしています。例えば、GeicoによるテスラEVの平均保険料は年間6,565ドル(約91万9,100円)、プログレッシブによるテスラEVの平均保険料は年間5,952ドル(約83万3,280円)もします。これでは、お金に余裕がある人でないとテスラEVの購入に二の足を踏んでしまうでしょう。

従来型の自動車保険よりも最大69%も安い「テスラ保険」

そこで「テスラ保険」の登場となるのですが、上述のRepairPalによると、テスラ保険は従来型の自動車保険よりも、最大で69%も安いそうです。例えば、Geicoの保険料6,565ドルに対し、テスラ保険の保険料はわずか2,030ドル(約28万4,200円)となっています。Geicoの保険料の三分の一以下という驚きの安さですが、一体なぜこんなに安くできるのでしょうか。

その最大の理由は、テスラ保険は運転者の現在の「セーフティスコア」をベースに保険料を算出しているからです。従来型の自動車保険は、保険の対象となる車両の情報に加え、運転者の年齢や性別、あるいは事故歴や違反歴といった情報に基づいて保険料を算出します。一方、テスラ保険は保険の対象となる車両の情報を保険料算出のための基礎情報とはしますが、運転者の事故歴、年齢、性別などは考慮しません。テスラ保険はそれよりも、「運転者が安全に運転しているか」「将来にわたって安全運転を続けるか」を独自に推計して保険料を算出しているのです。それゆえ、テスラ保険が「安全運転をしており、今後も安全運転を続ける」と判断した運転者には、大幅にディスカウントした保険料を提示できるのです。

セーフティスコアが低いと保険料は割高に

テスラ保険は運転者のセーフティスコアに基づいて保険料を算出するので、当然ですがセーフティスコアが低い運転者の保険料は割高になります。セーフティスコアの計算上は、特に「前方衝突警報の発動」「急ブレーキ」「危険なハンドル操作」「深夜などの危険時間帯の運転」「オートパイロットの強制停止」といった危険行為が厳しくマイナス評価されるそうです。

セーフティスコアを計算するために、テスラのEVはテスラに常にモニタリングされているわけですが、その意味においてテスラのEVは、コネクテッド・ビークルであると言えるでしょう。コネクテッド・ビークルは次世代のクルマのトレンドとされていますが、テスラはテスラ保険によってその領域でも一歩先に行っているのかもしれません。

コネクテッド・ビークルは、いずれは完全自動運転化されるでしょうが、そうなるとテスラは運転者としての自分自身をモニタリングするという不思議な状態になるでしょう。そんな時代が間もなくやってこようとしています。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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