アメリカの国民的ソウルフード「ピーナッツバター&ジェリー」とは?

前回の記事で、アメリカの伝統的な朝食「アメリカン・ブレックファスト」をご紹介しました。カリカリに焼いたベーコン、半熟の目玉焼き、そしてふわふわのパンケーキやカリカリのトーストにシロップをたっぷりかけて食べる「アメリカン・ブレックファスト」は、アメリカ人なら嫌いな人がいないと思われるアメリカの伝統的な朝食です。なお、アメリカには「アメリカン・ブレックファスト」と並ぶ、誰もが大好きな国民的ソウルフード「ピーナッツバター&ジェリー」も存在します。今回は「ピーナッツバター&ジェリー」をご紹介します。

「ピーナッツバター&ジェリー」とは?

「ピーナッツバター&ジェリー」(Peanut butter and jelly)とは、その名の通りピーナッツバターとジャムを挟んだサンドイッチのことです。英語ではジャムをjellyと言うので、日本語では「ピーナッツバターとジャムのサンドイッチ」と言う方が、ニュアンスが近いかも知れません。なお、アメリカでは「ピーナッツバター&ジェリー」をPB&Jと略すケースが多いです。

「ピーナッツバター&ジェリー」は、多くのアメリカ人にとって生まれて初めて自分で作った料理であり、お腹がすいた時に両親が手早く作ってくれたおやつであり、学校へ通う忙しい朝に用意してもらったお弁当です。アメリカ人であれば「ピーナッツバター&ジェリー」を食べたことがない人はなく、すべてのアメリカ人にとっての根源的ソウルフードと言っていいでしょう。安くて美味しくて、手軽に作って食べられる「ピーナッツバター&ジェリー」は、アメリカ人にとっては日本人にとっての「猫まんま」(ご飯に味噌汁や鰹節醤油をかけたもの)に近い存在のように思われます。

「ピーナッツバター」が誕生したのは1800年代後半

そんなアメリカ人のソウルフード「ピーナッツバター&ジェリー」の主役である「ピーナツバター」ですが、誕生したのは1800年代後半で、その歴史はそれほど古くありません。南米原産とされるピーナッツは、3800年前のペルーの遺跡で発見されるほど古くから食用されてきましたが、アメリカで本格的に食べられるようになったのは19世紀からとされています。

アメリカでは、ピーナッツは主にスープなどの煮込み料理の材料として使われていましたが、1890年代にコーンフレークの発明者でケロッグの創業者ジョン・ハービー・ケロッグがピーナッツを含む複数のナッツを原料とする「バター」を開発し、自ら運営していた宿泊施設で宿泊客にふるまったのが最初の「ピーナッツバター」であるとされています。敬虔なクリスチャンであり、「健康志向マニア」であったとされるケロッグは、肉に代わるタンパク質の供給源として「ピーナッツバター」を含む複数の「ナッツバター」を特許申請し、本格的な販売を開始しました。

「アンチ肉食キャンペーン」のムーブメントともに普及が加速

ケロッグが開発したピーナッツバターは、当時のアメリカで進行中であった「アンチ肉食キャンペーン」のムーブメントともに普及が加速しました。ケロッグのピーナッツバターはアメリカの白人富裕層を中心に人気を集め、アメリカの一般家庭にも徐々に浸透してゆきます。ピーナッツバターは当初、ジャムと一緒にサンドイッチの具として使われたのではなく、肉の代替品として供されるのが一般的でした。

1900年代に入るとピーナッツバターは相当程度普及し、ケロッグのブランドを含む多数のピーナッツバターのブランドで販売されるようになります。1928年に家庭用パンスライサーが発明され、それと共に無料配布された料理本の中で40種類のピーナッツバターを使ったサンドイッチのレシピが紹介され、中でもピーナッツバターとジャムを具にした「ピーナッツバター&ジェリー」は当時のアメリカ人の心に刺さり、たちまち大人気となりました。

ホームメイドのジャムがピーナッツバターとマッチした?

なお、アメリカにおける「ピーナッツバター&ジェリー」の起源については諸説あり、1901年には雑誌「ボストン・クッキングスクール」誌でピーナツバターと干しブドウのジャムやリンゴのジャムを合わせたサンドイッチのレシピが公開されており、それを起源であるとする説もあります。干しブドウのジャムやリンゴのジャムは、アメリカの家庭で一般的に作られている常備食であり保存食であり、普及が始まったピーナッツバターと共にサンドイッチの具にされたとしても、不思議ではないとすべきでしょう。

ピーナッツバターの発明、干しブドウのジャムやリンゴのジャムなどの常備食の存在、そしてパンのスライサーの発明という、三つの要素が合わさって「ピーナッツバター&ジェリー」が誕生したわけですが、アメリカの食文化を考える上では、特に干しブドウのジャムやリンゴのジャムなどの常備食の存在に注目すべきと考えます。

アメリカの家庭では、庭にリンゴやレモンなどの果物を植えている家庭が多く、多くの家庭が取れ過ぎたリンゴなどをジャムにしています。アメリカの家庭においてジャム(jelly)とは、日本風に言えば家庭の味でありおふくろの味です。「ピーナッツバター&ジェリー」は、そんなアメリカのおふくろの味を象徴する、無視することができない奥深い存在であると思うのです。

執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員、北米担当コンサルタント

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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