アメリカ人の64%が「その日暮らし」の生活を送っている?

アメリカのオンライン融資仲介大手のレンディングクラブが昨年2022年12月に実施した調査によると、アメリカ人の64%が「その日暮らし」の生活を強いられていると答えたそうです。アメリカ人のほぼ三人に二人が「その日暮らし」の生活を余儀なくされているわけですが、一体状況はどうなっているのでしょうか。

6桁の収入がある人でも「その日暮らし」

まず、「その日暮らしをする」を英語で“Living paycheck to paycheck”と言います。Paycheckとは給与小切手のことで、paycheck to paycheckとは、「給料日と給料日の間を何とかつないでぎりぎりで生活している」というニュアンスになります。アメリカ人は二週間ごとか隔週で給料を受け取っている人が多いので、多くの人が毎回の給料日から二週間程度を常にカツカツの状態で過ごしていることになります。

なお、このレンディングクラブの調査では、もう一つ興味深いことが明らかになっています。アメリカでは6桁(100,000)の収入を稼ぐ人を”Six figure earner”と呼びますが、この年収10万ドル(約1,300万円)以上の収入がある人の51%が、Living paycheck to paycheckを強いられていると答えています。レンディングクラブによると、Six figure earnerでLiving paycheck to paycheckを強いられていると答えた人の割合が50%を突破したのは調査開始以来初だそうです。

また、年収5万ドル(約650万円)未満の人でLiving paycheck to paycheckを強いられていると答えた人の割合は78%で、年収5万ドルから10万ドルの層では66%でした。

インフレと金利引き上げが家計を直撃

調査を担当したレンディングクラブのフィナンシャル・ヘルス・オフィサーのアンジュ・ネイヤーさんは、「インフレの影響はすべてのアメリカ人の財布を脅かしており、米連邦準備制度理事会(FED)のインフレ対策のための金利引き上げがローンなどの負債の利子負担を増加させています。これまで行ってきた調査の歴史の中で、「その日暮らし」を強いられていると答えた人の割合がこれほど上昇したのは初めてのことです。パンデミックが始まった2020年にも割合が相当上昇しましたが、今回はパンデミックが原因ではありません。現在は、パンデミックを抑えるための経済封鎖などはしていないのです」と説明しています。

実際、アメリカの金利引き上げがアメリカの家計を直撃しています。ロイターによると、アメリカの昨年2022年度第4四半期(10月1日から12月31日まで)末時点の家計債務は16兆9000億ドル(約2197兆円)で、過去20年で最大になったそうです。特に住宅ローンとクレジットカード負債の増加が著しく、「その日暮らし」をするアメリカ人がクレジットカードも使って生活をやりくりしている姿が垣間見られます。

意外と楽観的な「その日暮らし」の生活者

家計債務の増加などの厳しい現実があるものの、「その日暮らし」の生活者の多くは意外と楽観的です。上述のレンディングクラブの調査によると、「その日暮らし」を余儀なくされていると答えた人の40%が「1年以内に自分の経済状況が良くなる」と答えています。その理由については、25%が「転職して収入が増える見込みだから」、三分の一が「副業などで新たな収入源を確保できそうだから」と答えています。経済的にカツカツの状態にあるものの、積極的に転職や副業をして収入を増やそうとするたくましいアメリカ人が少なくないようです。

一方で、「その日暮らし」を余儀なくされていると答えた人の27%が「1年以内に自分の経済状況が悪くなる」と答えています。悪くなる理由としては、「経済の不確実性」(72%)、「インフレーション」(62%)と答えています。先行きが見えず、物価上昇が止まらない難しい状況に置かれていては、自分の将来について悲観的にならざるを得ないのかも知れません。

貯金ができないアメリカ人

経済の不確実性に対応するには、貯金などであらかじめ備えておくことが重要です。ところが、一般的にアメリカ人は、貯金が大好きな日本人などと比べて、貯金が苦手です。貯金をほとんどしていないというアメリカ人は少なくなく、2022年1月のバンクレートのデータによると、56%のアメリカ人が1000ドル(約13万円)の急な出費をまかなうための貯金がないと答えています。実際に、アメリカ人の5人に1人は「貯金がまったくない」と答えています。

貯金が苦手であるという一方で、そもそもアメリカ人は貯金したくてもできないという説もあります。ニューヨーク大学のジョナサン・モーダック教授は、多くのアメリカ人が住宅ローン、教育ローン、自動車ローンなどの債務を抱えており、借金返済のために貯金ができないと指摘しています。「巨額の教育ローンに苦しむアメリカの若者達」という記事で、多くのアメリカ人が巨額の教育ローンを負っていることを紹介しましたが、教育ローン以外にも住宅ローンなどの負担が大きく、多くのアメリカ人の家計は収支がマイナスです。

事業に例えると、本業が営業赤字でキャッシュフローが常にマイナスの状態のようなもので、「貯金」をしようにもその原資がないといったところでしょう。「ない袖は振れない」状態の中で「貯金」をしなさいと言うのは、少々酷な話なのかも知れません。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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