アメリカで日本の「軽トラ」が売れているワケとは?

アメリカで日本の「軽トラ」が売れていると現地メディアが報じています。アメリカの大手ケーブルテレビニュースメディアのニュースネーションによると、アメリカの郊外に住む人を中心に日本の中古軽トラを購入する人が増加し、軽トラを普通に街中で見かけるシーンが増えてきているそうです。とにかくデカいアメ車がひしめく中でちっぽけな日本の軽トラが走る姿を想像しにくいですが、日本の軽トラが売れている理由は何でしょうか。

「25年ルール」の適用で軽トラの輸入が増加

多くの専門家が指摘するのが「25年ルール」(25 year rule)の適用です。25年ルールとは、製造から25年が経過した車は、安全基準や仕様などの如何を問わずに、原則自由にアメリカに輸入できるというルールです。

アメリカへ自動車を輸入する場合、アメリカ政府が定めた連邦自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standards (FMVSS))に適合させる必要があります。例えば、連邦自動車安全基準は右ハンドル車の輸入を認めていませんが、25年ルールが適用される車齢25年以上の車については、たとえそれが日本製の右ハンドルの中古軽トラであっても、自由にアメリカへ輸入できるのです。そして、もともと日本の軽トラのような小回りがきく丁度良い小ささのピックアップトラックが欲しいという一部のアメリカ人のニーズに上手く合致したというワケです。

1990年の規格改定で軽トラの性能が大幅アップ

また、1990年の日本の軽自動車の規格改定により、軽トラの性能が軒並み大幅にアップしたことが背景にあると指摘する専門家もいます。具体的には、それまでエンジンの最大排気量が550cc以下から660cc以下へアップされ、エンジンがパワーアップされるとともに、ボディサイズも拡大されるなど、トラックとしてより魅力的になったのです。そして、1990年代に製造された多くの優れた軽トラが、25年の時を経た今、アメリカで新たな人生を送るケースが増えてきたというのです。実際、現在アメリカで売れている日本の軽トラのほぼすべてが、1990年代に製造された新規格の軽トラだそうです。

コストパフォーマンスが良い日本の軽トラ

さらに、コストパフォーマンスが良いのも人気の理由です。まずは車両の価格ですが、上述のニュースネーションによると、現在のアメリカにおける軽トラの平均販売価格は4500ドル(約60万7500円)です。車両価格とは別に日本からの輸送費がかかりますが、それでも購入価格は合計で8500ドル(約114万7500円)程度です。アメリカでもっとも売れているピックアップトラックはフォードのF-150ですが、F-150のもっとも安い車両の販売価格は3万3695ドル(約454万8825円)ですので、日本の中古軽トラの約4倍になります。

また、軽トラの燃費の良さも人気の理由です。日本の軽トラユーザーが集まるネットフォーラム「ジャパニーズ・ミニトラック・フォーラム」(Japanese minitruck forum)によると、日本の軽トラの燃費の平均は45mpg(リッターあたり19.13キロメートル)で、フォードのF-150の22mpg(リッターあたり9.35キロメートル)の二倍以上となっています。アメリカでは現在もガソリン価格が高い水準が続いていますが、ガソリン代を抑えられる軽トラに注目が集まるのは当然でしょう。

さらに、昨今の円安ドル高の為替相場の影響も大きいと考えられます。現在も1ドル135円程度の円安基調が続いていますが、例えば日本での販売価格50万円の軽トラのアメリカでの購入価格は3703ドルになります。一方、2020年3月の円相場は1ドル106円でしたので、その時点での購入価格は4716ドルになります。つまり、現在日本の軽トラを購入すると、2020年1月と比べて1000ドル以上も安く購入できる計算になります。アメリカ人にとっては、現在の円安ドル高の為替水準は、日本の軽トラをお得に購入できるボーナスタイムとなっているのです。

セカンドカーとして使われる軽トラ

なお、アメリカの軽トラオーナーの多くは、軽トラをセカンドカーとして使っているようです。特に農業や畜産業を営んでいる人などが、毎日の農場の見回りなどに軽トラを使ったりしているそうです。確かに、毎日の農場の見回りに巨大なフォードのF-150を使うよりも、日本の軽トラを使う方がはるかに経済的です。旅行などで遠出をする時はF-150を使い、日常のちょっとした用事などには軽トラを使うといった風に使い分けているケースが多いようです。

また、日本の軽トラの見た目が良い、コンパクトでかわいいといった理由で軽トラを買っている人もいるようです。YouTubeには、日本の軽トラを買って街中を乗り回したところ、至るところで人々から声をかけられたといった動画なども投稿されています。また、軽トラの写真をインスタグラムに投稿したところ、即座に多くのフォロワーにフォローされたという軽トラオーナーも存在します。コストパフォーマンスや利便性といった軽トラの本来の魅力に加えて、日本オリジナルの軽トラの「可愛さ」に魅力を感じるアメリカ人が少なくないようです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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