利用料不払者続出?アメリカの救急車の費用が高いワケとは?

医療費が高額なことで知られるアメリカ。病院やクリニックでの診療や治療に高額な費用がかかることに加え、救急車の利用にも相当の費用がかかります。最近のアメリカ人の中には、高い費用負担を恐れるあまり、救急車の利用をかたくなに拒む人も出てきているようです。アメリカの救急車の費用はなぜ高いのか。アメリカの医療事情と併せて考察します。

アメリカの救急車利用にかかる費用は?

アメリカの救急車利用にかかる費用は、アメリカのどこに住んでいるかで大きく違ってきますが、例えばカリフォルニア州コントラコスタ郡健康局の救急車利用料金は以下の通りとなっています(2022年5月1日時点、1ドル135円で計算)

■救急車利用基本料 2,700.95ドル(約36万4628円)
■マイル加算料 1マイルごとに65.29ドル(約8814円)
■酸素処置料 226.40ドル(約3万564円)
■搬送拒否、処置料のみ 579.15ドル(約7万8185円)
■先端ライフサポート処置料 506.63ドル(約6万8395円)

例えば、呼吸困難に陥って救急車を呼び、酸素吸入を受けて20マイル(約32㎞)先にある病院へ搬送された場合、トータルで4,739.78ドル(約63万9870円)の費用がかかる計算です。健康保険に加入していれば、保険会社が一定の負担をしてくれる可能性がありますが、健康保険にまったく加入していない人であれば、全額を負担することになります。

なお、コントラコスタ郡健康局は、高額の救急車利用料を支払えない人に対しては、コントラコスタ郡健康局経理部に速やかに電話をして支払方法について相談するよう促しています。その一方で、支払がない状態が90日間経過すると、債権を債権回収業者へ譲渡すると警告しています。

誰が救急車を運用しているのか?

ところで、アメリカでは誰が救急車を運用しているのでしょうか。答はEMS(Emergency Medical Services)と呼ばれる組織です。EMSの中には複数のカテゴリーがあり、アメリカ救急医療従事者協会によると、内訳は以下の通りとなっています。

■消防署運営EMS(49%)
■民間企業運営EMS(18%)
■自治体運営EMS(14.5%)
■病院運営EMS(7%)
■その他EMS(8%)
■公的ユティリティモデル(2%)
■警察署運営EMS(1.5%)

アメリカではもともと、現在の日本のように消防署が救急車を運用するのが一般的だったようです。それが、消防署の財政悪化に伴い民間企業や非営利団体にEMSの事業を譲渡するケースが徐々に増え、現在の状態に至ったようです。それでも、全体の三分の二程度のEMSが公的に運営されています。

救急車の利用料が高額な理由

では、なぜアメリカでは救急車の利用料がこれほど高額なのでしょうか。多くの専門家が指摘するのは、救急車の運用にはそれなりのコストがかかるという点です。アメリカの平均的なボックススタイルの救急車の平均価格は15万ドル(約2025万円)で、最新モデルの価格は22万5千ドル(約3037万円)だそうです。また、救急車に搭載される各種の医療機器や検査機器、医薬品などにも相応のコストがかかります。救命救急士を含むパラメディックと呼ばれるスタッフや、24時間対応を余儀なくされているオペレーターに支払う人件費も馬鹿になりません。さらに、救急車を待機させておく施設の管理費や、メンテナンスコスト、燃料費なども必要です。総じて医療費が高額なアメリカで救急車を運用するには、多くの固定費を含む相当のコストが必要になるのです。

また、別の理由としてEMSの「利用料回収率」の低さを指摘する専門家もいます。利用料回収率とは、EMSの救急車の利用者に対する請求額に対して、実際に受け取る額の割合を意味します。そして、利用料回収率が低いということは、EMSは請求額の全額をもらえていないということなのです。

一説によると、例えばEMSが1500ドルの請求書を利用者10人へ送付した場合、1500ドル全額を支払ってくれる人は2人しかいないそうです。驚くべきことに5人は支払い能力ゼロで、回収がまったくできないそうです。つまり、そうした「焦げ付き」を補填するために、EMSは救急車の利用料をあらかじめ高めに設定せざるを得ないのです。

UBERやLYFTで病院へ行く人も

高額な利用料を嫌い、最近のアメリカ人の中には緊急時の救急車の利用を拒否し、UBERやLYFTなどのライドシェアリングサービスを使って病院へ行く人が少なくないそうです。一方で、ケガをした人がUBERを使って病院へ行こうとしたところ、出血して車内を汚してしまったというトラブルなども発生しており、一筋縄ではいかないようです。UBERの広報担当者も、「UBERは警察や医療従事者の代わりではありません。医療上の緊急事態が生じた際は、UBERを呼ぶのではなく、911(日本でいう119番)に電話することをおすすめします」とコメントしています。

いずれにせよ、アメリカの高額な救急車の利用料は、良くも悪くもアメリカの医療を象徴するものであるのは間違いないでしょう。今後旅行や出張などでアメリカへ行く予定の方には、海外旅行保険を必ずご購入されることをおすすめいたします。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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