アイルランドでビジネスを行うには

現在行われているイギリスのEU離脱交渉の一つのトピックになっているのが、北アイルランドです。イギリスは島国ですが、アイルランドとは唯一国境を接しています。ブレグジットに伴い北アイルランドが注目されることが多いですが、今日はその南側のアイルランドを取り上げたいと思います。

アイルランドの概要

アイルランドは長きにわたりイギリスの植民地であり、国家として独立したのは20世紀に入ってからです。その影響もあって第一公用語はアイルランド語(ゲール語)ですが、第二公用語の英語のほうがよく使われています。面積は7万300平方キロメートルと日本の北海道より一回り小さく、人口も500万人未満の小さな国です。日本人ではアイルランドとアイスランドの区別がつかない人もいますが、北極圏から遠くイギリスのすぐ左隣の国がアイルランドです。アイルランドは1973年と比較的早い段階で欧州連合に加盟し、通貨もユーロを用いています。

シリコン・バレーならぬ首都ダブリンのシリコン・ドック

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アイルランドの経済

アイルランドは以前は農業国で、ヨーロッパの最貧国の一つであった時代もあります。生活の糧を求めてイギリスやアメリカ、カナダなどに移住した人も多く、アイルランド国外に住むアイルランド系は7,000万人とも言われます。アメリカの昔の大統領にジョン・F・ケネディがいますが、ケネディはアイリッシュの有名な姓の一つです。次期大統領のジョー・バイデン氏もアイルランド系です。先日ジョン・レノンが亡くなってから40年がたちましたが、ジョン・レノンおよび他のビートルズのメンバーもアイルランド系の血を引いています。

アイルランドは90年代以降のケルティック・タイガーと呼ばれる急速な経済成長を受けて、ヨーロッパのみならず世界有数の先進国になりました。これまでは移民を排出していた国が、以後、移民を受け入れる側に転換します。しかし、これはEUからの出資や12.5%という低い法人税率に目をつけたアメリカなどからの出資に依存する経済成長です。その結果、アイルランドはギリシャやスペインなどと並んでリーマンショックの影響を大きく受けました。しかしその後経済は順調に回復し、2019年の一人当たりGDPは77,000ドルを超え、世界3位です。

アイルランドは近年IT、製薬業、金融業などの分野に特化して海外企業を積極的に誘致しています。GoogleやApple、FacebookといったアメリカのIT企業は、ヨーロッパ本社をアイルランドにおいています。日系企業においても武田薬品工業、アルプス電気、SMBCグループなどが進出しています。リーマンショックの後も外資依存の構造は変わらず、アイルランド政府産業開発庁(IDA)が積極的に海外企業の誘致を行っています。

アイルランドは近年航空機リースに力を入れている

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アイルランド人のビジネス文化

アイルランドは英語を公用語としているため、比較的ビジネスが行いやすい国です。上述の通り法人税が低く、アイルランド自体が外国からの出資に期待しています。またアイルランド人はフレンドリーで人懐っこい人が多く、見知らぬ人にも気軽に話しかけます。ビジネスの場においても同様で、ミーティング自体は非常に和やかなものとなるでしょう。

ただそのミーティングの雰囲気が良くても、必ずしもビジネスにつながるとは限りません。表面的にはフレンドリーなアイルランド人ですが、長くイギリスに植民地化されていた歴史的な背景もあり縄張り意識も強く、他人への警戒心が強いところもあります。また、「アイリッシュ・ファースト」の民族的アイデンティティも強いため、同胞の多いアメリカ、カナダ、オーストラリアなどへの身びいきもあります。理屈ではない理由で、極東アジアに位置する日本は後回しにされることはなきにしもあらずです。

また、アイルランドは経済成長後に移民を受け入れる国となりましたが、ビザが下りにくいです。私の友人(非EU人)は家族を呼び寄せるビザが下りるのに半年かかりましたし、非EU人の雇用については厳しい制限が課せられています。したがってアイルランドも他のヨーロッパの国と同様「出資は歓迎だが、人の派遣はご遠慮いただきたい」というスタンスです。近年アイルランドの失業率は5%程度とヨーロッパの中では低水準でしたが、新型コロナウイルス流行の影響で大幅に失業率が上がるのではないかと推測されています。

アイルランドでビジネスを進めるには

これまで述べてきた通り、アイルランドは英語圏であり海外企業の受け入れについて積極的です。また、イギリスとは異なりEU加盟国であるのでヨーロッパ進出の上で重要な拠点となるでしょう。ただ立地がヨーロッパ大陸から離れていること、人口が500万人未満であることなどを考慮するとモノやサービスの販売において大きな売上や利益をあげることは期待できません。特に物流コストについては注意が必要でしょう。しかし、立地に影響されない金融・ITといったサービス業や製薬業のような高付加価値製品は、アイルランドの企業と協業する価値は大いにあるでしょう。実際にアイルランド政府もそれをよく理解した上で、誘致を行っており、行政の手続きなどもよく整備されています。またアイルランド自体は産学官連携が非常に密であり、一体となって物事を進めていこうとする傾向が強いです。

また、アイルランド人自身がネットワーキングを重視するので、わらしべ長者のように人のつながりをたどっていけば、よい案件に出会えることも少なくありません。アイルランド人の大学進学率は高く、高度人材の獲得も行いやすいです。また、私の主観ですが勤勉で誠実な人は他国よりも多いような気がしますので、ソフトスキルに優れた人材の獲得についてもアイルランドは比較的行いやすいと思います。

今日はアイルランドを取り上げましたが、ビジネスを進めるにあたっては自社の戦略が何よりも重要です。アイルランドは立地などを考慮して支援産業を絞り込む、わかりやすい選択と集中を行っています。もし該当する分野のヨーロッパ進出を検討される方がいらっしゃればぜひお問い合わせください。

ジェイシーズではヨーロッパの現地担当者とともに皆さまのヨーロッパビジネスをお手伝いします。アイルランドやヨーロッパでビジネスにご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

執筆者 浜田真梨子(はまだ・まりこ)

執行役員 シニアマーケティングコンサルタント(欧州)

大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

出典
Central Statistics Office of Ireland (2020). Monthly Unemployment – CSO – Central Statistics Office. (https://www.cso.ie/en/statistics/labourmarket/monthlyunemployment/).
International Monetary Fund (2020). GDP per capita, current prices.(https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPDPC@WEO/AZE).
The World Bank (2020). GDP growth (annual %) – Ireland.(https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=IE).
外務省 (2020). アイルランド. (https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ireland/index.html).

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