ヨーロッパにおけるM&A

欧米企業ほどではないですが、日本企業の合併・買収(M&A)のニュースを耳にする機会は昔よりも多くなってきました。海外企業への事業売却や海外企業の買収も当たり前のことになってきました。弊社でもM&Aに関するお問い合わせをいただくことはあります。今回はヨーロッパにおけるM&A動向と注意点についてお伝えします。

日系企業への期待

まず、筆者の個人的見解ですが、最近ヨーロッパの公的機関・現地企業が日系企業への期待がやや高まっているように感じています。これには新型コロナウイルス流行、中国への牽制、日本とEU、イギリス間でのEPAが発効など多くの要因があると思います。特に新型コロナウイルスの流行に伴い、事業戦略の見直しを行う企業はヨーロッパでも増えており、事業の売却先として日本企業も候補に上がっているようです。EUや各国が施策として推進しているエネルギー・バイオ・デジタル関連などは今後の成長も見込まれ、日系企業とのシナジーも期待できる分野であると考えています。

ヨーロッパのM&Aを行う上での言語の壁

しかしヨーロッパでM&Aを行うのは確かに容易ではありません。言葉や文化の壁、現地の法規制などさまざまな要因があります。特に最初に直面するのが言語の壁です。「ヨーロッパ人の英語力」というコラムでも記載しましたが、ネイティブを除きヨーロッパ人の英語は実はビジネスを行う上で不十分であることもあります。特にファミリービジネスを行っている企業の場合は、オーナーなどの意思決定者が現地語以外を話せないということも少なくありません。また、M&Aを進めていく上で現地の法規制・税務などを詳しく調べる必要がありますが、これらも現地語が必要です。ヨーロッパにおける日本企業のM&A先は経済規模に比例してイギリス、ドイツ、フランス、オランダなどが多いですが、一番多いのがイギリスです。これは経済規模だけではなく、言語上の理由もあると考えています。一般的にドイツやフランスは多くの企業を抱えているため自国企業の海外進出には力を入れていますが、海外企業の受け入れや誘致についてはあまり積極的ではありません。そのため、必要な法律などの現地情報をすべて英語で入手することについて難易度が高いです。したがって、ヨーロッパでM&A行う場合は現地語を基本として考えられる方がよいでしょう。

EUから離脱したがヨーロッパにおけるM&A相手方としてイギリスは人気。これには言語面での障壁の少なさが理由にもあると思われる。
EUから離脱したがヨーロッパにおけるM&A相手方としてイギリスは人気。これには言語面での障壁の少なさが理由にもあると思われる。

現地滞在、近いところにいることの意義

ヨーロッパ域内のM&A自体は新型コロナウイルスの流行以前から、アメリカや日本企業によるM&Aもありますが、ヨーロッパ域内の企業間で完結するケースが多いです。これはEU/EEA経済圏の税制上などのメリットもありますが、時差がないということも大きいと思います。M&A自体はいい案件が出た場合、短期決戦で決まるということも少なくありません。現在新型コロナウイルス流行に伴いオンライン化が進んでいるとはいえ、時差が少ない国の間でコミュニケーションを取りたい人は少なくありません。また、日系企業はもともと意思決定に時間がかかることが多いですが、新型コロナウイルス流行後は日本から現地の渡航は容易ではありません。したがって現地に近いところにいるということ自体が、商談の成否を決めてしまうこともあります。またM&A前のデューデリジェンスが重要となりますが、オンラインでできることにも限界があります。新型コロナウイルスの流行でヨーロッパ域内においても移動が難しい状態が続いていますが、実際の事務所や工場を見にいくなどといった実地調査を行うことも重要となります。

クロスボーダーM&Aも身近になりつつある
クロスボーダーM&Aも身近になりつつある

PMIの重要性

仮にM&Aの契約が終了した場合であっても、PMIは重要です。ヨーロッパではアメリカと同様に、オーナーが変わったために従業員が一斉に辞めてしまったり、取引先がそれを理由に契約を解除したりすることはよくあります。ヨーロッパに限らず、特にファミリー企業やオーナー企業などの場合は、オーナーの人脈などでビジネスがうまくいっていたというケースも多く、買収後も何らかの形でポストを用意するなどした方が良いでしょう。特に新型コロナウイルス流行のため、買収後すぐに人を赴任させることは難しいでしょうし、現地経済の落ち込みなどから非EU人の派遣が難しくなっている国や都市もあるようです。オーナーだけではなく現地人材をうまく活用することを念頭に置かれた方がよいでしょう。現地人の雇用創出を望まない国はありませんし、日系色が強くない方が税務などの現地当局の監視も少なくなり、経営上のメリットもあるでしょう。

ジェイシーズではヨーロッパの現地担当者とともに、ヨーロッパでのM&Aについてもサポートしております。お気軽にお問い合わせください。

出典など
3rd EU-Japan EPA Forum Global Webcast, (2021). 10 May.
Hood, J. (2021). 2021 Eurozone M&A and Strategy report. [online] www.ey.com. Available at: https://www.ey.com/en_gl/ccb/eurozone-mergers-acquisitions.
株式会社レコフデータ (n.d.). レコフM&Aデータベース. [online] madb.recofdata.co.jp. Available at: https://madb.recofdata.co.jp/.

執筆者

浜田真梨子(はまだ・まりこ)

執行役員 シニアマーケティングコンサルタント(欧州)

大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
ご相談は無料です。お気軽にご連絡ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!