トランプ2.0時代のアメリカ・日本企業に追い風は吹くか?
アメリカ現地時間の2025年1月20日、大統領就任式を経てドナルド・J・トランプ氏が第47代アメリカ合衆国大統領に就任しました。大統領就任前から数々の「暴言」で世界中を騒がせましたが、大統領就任式はつつがなく終了しました。大統領選挙戦当時から「アメリカ・ファースト」を声高に叫び、アメリカの復興を目指すとした第二次トランプ政権ですが、トランプ2.0時代を迎えたアメリカで事業を展開する日本企業に追い風は吹くのでしょうか。
日本からの輸出には新たなハードルが
トランプ政権が発足前から掲げていた公約のひとつに、輸入品に対する関税の強化があります。トランプ政権は、すべての輸入品に最大で20%の関税を課すと公言しており、実際に実施する可能性が高いと見込まれています。アメリカの同盟国日本も例外ではなく、日本からの輸出品も関税の課税対象になると予想されます。
現在、ドル円交換レートは比較的円安に振れており、アメリカへ輸出している日本企業にはプラスとなっていますが、最大で20%の関税が課された場合、輸出価格を相応に値上げする必要が生じてきます。その結果、アメリカでの取引や販売などに相応のマイナスの影響が出る可能性があります。
なお、トランプ政権は中国からの輸入品については最大で60%の関税を課すとしており、仮に実施された場合、中国との競合品をアメリカへ輸出している日本企業にとってはプラスの影響が出ると予想されます。
アメリカ国内への投資は大歓迎
日本企業によるアメリカ国内への投資については、トランプ政権は大いに歓迎するでしょう。昨年2024年12月に行われたトランプ氏とソフトバンクの孫正義会長との会談で、孫氏がアメリカで今後四年間に最大1000億ドル(約15兆5000億円)を投資すると表明、トランプ氏が誇らしげに発表しました。AI関連企業やインフラ企業などに投資し、最大で10万人の雇用を生み出すとの発表は、日米両国の関係者を大いに喜ばせる結果となりました。
ソフトバンクによる1000億ドルの投資は極端な例ですが、数十万ドル程度の「投資」でも歓迎されるのは間違いないでしょう。アメリカの投資ビザのE-2ビザは、アメリカ国内での「相応の投資」をビザ発給の条件に定めていますが、特にアメリカ現地での雇用の創出が見込まれる場合、「それなりの金額の投資」でもビザが発給される可能性が高まると期待されます。Eビザ取得によるアメリカでの事業展開を検討中の方や企業にとっては、第二次トランプ政権の発足は少なからずプラスになるでしょう。
不法移民の取り締まりは強化へ
アメリカ現地で飲食店などを経営し、いわゆる不法移民を雇用しているケースなどにおいては、第二次トランプ政権の発足によりマイナスの影響を受ける可能性があります。トランプ氏は、大統領選挙の公約として「史上もっとも厳しい、史上最大の不法移民対策」を行うことを掲げており、実際に実施する可能性が高いとされています。
アメリカにおいては、特にカリフォルニア州やテキサス州などのメキシコと国境を接する州においては、飲食店や農場などで働く不法移民が多く存在するとされており、仮にトランプ氏が不法移民を厳しく取り締まり始めた場合、大きな影響を受ける可能性があります。
ビザ取得については、第二次トランプ政権の発足によりEビザの発給基準が緩和される期待が高まる一方、駐在員などに発給されるLビザや、合法就労者に発給されるHビザの発給基準がそれぞれ厳格化される可能性があります。実際のところ、第一次トランプ政権の発足によりHビザなどの発給基準が厳格化されたこともあり、今回も同様の状況を迎える可能性が高いと見られています。
減税の影響は?
トランプ政権はまた、公約に連邦法人所得税減税を掲げており、仮に実施された場合、現地の日本企業も恩恵を受けることになります。公約では連邦法人所得税の税率を15%に引き下げるとともに、研究開発の設備投資を最大で100%減価償却可能にするなどの事業活動を後押しする各種のスキームが用意されています。
トランプ政権はさらに、飲食店従業員などが客から受け取るチップを非課税にすることも公約に掲げており、実施された場合飲食店従業員などが手にするキャッシュの額をプラスにする効果が期待されています。アメリカの多くの州では、飲食店従業員はそれぞれの州の最低賃金水準で働いているとされており、チップが生活を支える重要な収入源になっています。チップを非課税にすることで飲食店従業員のキャッシュを増やし、ひいては慢性的な人手不足に苦しむアメリカの飲食業界に新たな労働力を送り込む起爆剤にできるかもしれません。
なお、トランプ氏には、第一次政権時代の2017年に連邦法人所得税を21%に減税した実績があります。当時の減税がアメリカ経済全体にどのような影響を与えたのかについては意見が分かれていますが、製造業などの「アメリカ回帰」を目指していたトランプ氏にとっては、少なくともマイナスにはならなかったとしたいところでしょう。いずれにせよ、新たに船出した第二次トランプ政権の今後に注目です。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。