一部のアメリカ人がワクチン接種を頑なに拒む理由とは?
アメリカ現地時間の2021年9月4日現在、アメリカのワクチン接種率は63%、完全接種率53.6%となっています。完全接種率が40%を超えたのが5月26日ですので、100日程度で13%程しか増えていない計算になります。その背後には、ワクチン接種を頑なに拒む人たちの存在があるとされています。なぜ一部のアメリカ人はワクチン接種を頑なに拒むのか、現地の報道から探ってみます。
4人に1人のアメリカ人がワクチン接種を拒否
アメリカの公共放送NPRが最近実施した調査によると、4人に1人のアメリカ人がワクチン接種を拒否していることがわかりました。また、5%がワクチン接種を受けるか「決めかねている」と回答しています。ワクチン接種を拒否している人は非都市部に住む共和党支持の男性に多く、年代によるばらつきはなかったそうです。
経済誌エコノミストが実施した別の調査でも、「ワクチン接種を受けない」と答えた人が18%、「ワクチン接種を受けるかわからない」と答えた人が11%ですので、アメリカ人の約30%がワクチン接種に前向きでないことがわかります。
「副反応が怖い」が最大の理由
では、なぜ多くのアメリカ人はワクチン接種に前向きでないのでしょうか。上述のエコノミストの調査によると、「ワクチン接種を受けない」と答えた人の90%が「副反応が怖い」と回答しています。アメリカでは成人人口の6割が高血圧症や糖尿病などの何らかの基礎疾患を抱えているとされており、そうした人達の少なくない数がワクチン接種の副反応を恐れているようです。
また、83%のワクチン拒否者が「コロナ感染症はたいした病気ではない」とも回答しています。さらに、90%の人が「コロナの危険性は政治的な理由により誇大に喧伝されている」と答えており、アメリカのコロナ対策の指揮を執るアンソニー・ファウチ博士の発言を「まったく信用できない」と答えています。ワクチン接種の副反応を恐れる一方、コロナはたいした病気ではないと強気に出るという、ワクチン拒否者の姿が浮き彫りになっているようです。
「安全性の問題」から「個人の自由の問題」へ
一方、ワクチン接種を徹底的に拒否する狂信的なグループも存在します。ジョンズ・ホプキンズ大学とメリーランド大学が共同で実施した調査によると、Facebookにはワクチン接種拒否を主張するグループが204存在し、これまでに25万の投稿が共有されているそうです。その投稿のほとんどがワクチン接種の危険性を訴える内容ですが、少なくない数の投稿がワクチン接種を強制することが「個人の自由を侵害する」と訴えています。
ワクチン接種を巡る議論は、もはや安全性の問題を超えて個人の自由の問題に突入しているのです。自由の国アメリカで個人の自由を主張されてしまえば、もう何も言えなくなってしまうでしょう。なお、CNBCが実施した調査によると、政府によるワクチン接種義務化に賛成と答えた人が49%、反対と答えた人が46%と、ほぼ二分する結果になっています。さらにワクチン接種を受けていない人の79%が、ワクチン接種義務化に反対と答えています。
ニューヨークではワクチン接種義務化へ
ところで、現地時間の2021年8月17日、ニューヨーク市で全米初となる飲食店などに対するワクチン接種義務を課す市長令が発せられました。店内での飲食を希望する人のみならず、店舗で働く従業員にもワクチン接種を求める新たなルールは、ウィズゴロナ時代のアメリカの「新たな日常」になるとして、全米の注目を集めています。
現在は「移行期間」であり、罰則などは適用されませんが、今月9月13日からは本格施行となり、罰則が適用されるようになります。飲食店の従業員が客のワクチン接種証明を確認しなかった場合、飲食店に最大5000ドル(約55万円)の罰金が課せられるそうです。
なお、同様のルールはロサンゼルスやサンフランシスコなどの他の都市でも施行が検討されており、ワクチン接種義務化は、アメリカの都市部においてさらに広がる可能性があります。
ファウチ博士の予言が実現か?
前の記事でアンソニー・ファウチ博士が、ワクチン拒否者が一定数存在することで「コロナの感染拡大が抑えられているアメリカ」と「感染拡大が抑えられていないアメリカ」という二つのアメリカが誕生すると発言したことを書きました。ワクチン拒否者が改心せず、頑なに接種を拒む限り、「二つのアメリカ」はますますその基盤をそれぞれ強くして行くしかないでしょう。左右対立、貧富の格差、人種間対立等々、アメリカを分断する基軸は少なからずありますが、ワクチン接種を巡る対立が、新たにそれに加わることになりそうです。
ところで、日本の最新のワクチン接種率ですが、2021年9月2日時点で接種率58.2%、完全接種率47.2%となっています。一カ月前の2021年8月2日時点で接種率41.2%、完全接種率30.7%でしたので、驚異的なペースで伸びています。ピークを迎え、微増の状態を続けているアメリカを超える日がやってくるのは、それほど遠い先の話ではないでしょう。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。