ヨーロッパのスタートアップ事情入門

アメリカのシリコンバレーほどではないですが、ヨーロッパの各地にスタートアップ企業を数多く有するスタートアップHUBがあります。国や都市をあげてスタートアップを支援している地域もあり、スタートアップコミュニティが充実しています。EU(欧州連合)が進める施策もスタートアップのトレンドから垣間見ることができて、なかなか面白いです。今日はそのようなヨーロッパのスタートアップについて取り上げます。

ヨーロッパのスタートアップHUB

イギリスはEUから離脱しましたが、ロンドンはヨーロッパの最も大きなスタートアップHUBといえるでしょう。2019年の年間投資額は84億ユーロに上り、Techstars、Seedcamp、FoundersFactoryといった有名なスタートアップアクセラレーターを有します。世界の金融センターであることもありフィンテック系スタートアップが多く成功を収めています。また、ロンドンに続くのがドイツの首都ベルリンです。ドイツはイギリスやフランスのような一極集中ではなく、各産業が主に旧西ドイツ側に分離しています。長きに渡って東西に分裂していたベルリンは首都でありながら本社を置く大企業も少なく、物価も他の大都市に比べて安いです。そういった背景に加えて比較的英語が通用するということもあり、ベルリンは欧州のスタートアップHUBに君臨しています。ルフトハンザのスタートアップ支援子会社であるLufthansa Innovation Hubもベルリンにあります。その他にもパリ、バルセロナ、アムステルダムといったヨーロッパの主要都市がそれに続きます。

ヨーロッパのスタートアップHUB・ベルリン
ヨーロッパのスタートアップHUB・ベルリン

ヨーロッパのスタートアップのトレンド

新しいビジネスが生まれ、成功することには理由があります。上記で紹介したロンドンは金融の街ということを生かして、Revolut、Monzo、TransferWiseといったFintech系企業の成功が目立ちます。これらは既存の市中銀行に代わるような、口座維持手数料がかからないネットバンクや格安送金サービスといった発想から始まっています。その後ビットコインや保険といった関連産業に多角化し、現在では会社設立などのB2B取引に主眼をおいたサービスを提供する企業が多いです。ビジネスシティとしてのロンドンが有するネットワークや課題をスタートアップの経営陣がよく理解した上で、ビジネスパートナーとともにビジネス拡大を進めています。

ドイツにおいてもFintech系のスタートアップも数多く見られますが、環境やモビリティに配慮したスタートアップが近年増えてきたように感じます。eスクーターレンタル業などを行うTIREやカーシェアリングのSHARE NOW、Flixbusグループなどがあります。これはもともとの環境意識の高まりだけではなく、EUのCO2削減目標施策などとも関連していると考えられます。国によって差異はありますが日本以上にヨーロッパの産学官連携は強く、研究機関との連携や大企業からの投資なども受けやすい環境であります。国の施策と連動していることで投資が受けやすいのも大きな理由でもあろうかと思います。

また業界全体としてヨーロッパではアメリカと比較してB2Bスタートアップの割合が多いのが特徴です。ドイツで昨年最も注目されたスタートアップはPfizerとともに新型コロナウイルスワクチンの開発を行ったバイオ系のBioNtech社でしょう。バイオだけではなくエネルギーや航空、ロボットといったもともと基礎研究がしっかりしているヨーロッパにおいては、こういった企業が投資家からの評価を受けたり大企業との協業の機会があったりということが多いように思います。

導入当初は事故も相次ぎいろいろと問題があったeスクーター。今では人々の生活の一部となっている。
導入当初は事故も相次ぎいろいろと問題があったeスクーター。今では人々の生活の一部となっている。

成功しているヨーロッパのスタートアップ

最後に私の身近でヨーロッパで成功しているスタートアップをご紹介できればと思います。パーキンソン病患者の自宅訓練をサポートするアプリを解決したBeats Medicalはアイルランド・ダブリンに拠点をおきます。創業者は医学系の学位や博士号などを有する2人の女性で、医学の臨床の場でパーキンソン病患者が抱える課題を解決したいという思いを持って2012年に創業しました。CEOのCiara ClancyはForbes 30 Under 30やEY Young Entrepreneur of the Yearなどのさまざまな賞を受賞・ノミネートされています。
またつい先日apaleoへ事業売却を行ったHotelheroは、2017年にホテルなどのホスピタリティ業界に対してソフトウェアやデータの最適化を通じて経営支援を行っていました。設立した3人の若い男性はホスピタリティマネジメントを大学で共に学んでおり、インターンやアルバイト先のホテルやレストランでの経営上の課題を解決したいと考えたようです。
もちろんこれだけではありませんが、成功しているスタートアップは、創業者がその分野への深い知見や問題意識、当事者意識を有していることが多いのではないでしょうか。この2社は極めて若い経営者たちによって設立されていますが、これまでの常識にとらわれない斬新さだけではなく、当該分野に関して投資家や顧客と同じレベルで会話ができるということが成功要因であったように思います。今回はヨーロッパのスタートアップについて簡単にご紹介しましたが、今後もユニークなビジネスなどを引き続きご紹介できればと思います。

出典など
DEEP Ecosystems 500 UG (n.d.). The 10 best startup cities in Europe. Startup Heatmap Europe. Available at: https://www.startupheatmap.eu/best-startup-cities/.
Dörner, K., Flötotto, M., Henz, T. and Strålin, T. (2021). Europe’s startups: New B2B companies on the rise | McKinsey. www.mckinsey.com. Available at: https://www.mckinsey.com/industries/technology-media-and-telecommunications/our-insights/europes-innovation-wunderkinds-the-rising-b2b-startup-ecosystem.
Ohr, T. (2020). TOP 30: Europe’s biggest startup hubs in 2020. [online] EU-Startups. Available at: https://www.eu-startups.com/2020/11/top-30-europes-biggest-startup-hubs-in-2020/.

執筆者

浜田真梨子(はまだ・まりこ)

執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)

大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
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