アメリカで法人用銀行口座を開設する方法
国民へのコロナワクチンの接種が進む中、アメリカで新型コロナウィルスのパンデミック収束へ向けた雰囲気が広がりつつあります。ミシガン州のように、変異種が新たに広がっている地域もありますが、アメリカ全体としては何となく落ち着きを取り戻しつつあるようです。
そうした中、アメリカで法人を設立したい、またはアメリカで法人用銀行口座を開設したいというご相談を受けるケースが増えてきました。日本企業においても、そろそろアメリカでの経済活動を再開する機運が高まってきているようですが、実際にアメリカで法人用銀行口座を開設するにはどうすればいいのでしょうか。
まずは現地法人を設立する
アメリカで法人用銀行口座を開設するには、まずはアメリカで現地法人を設立する必要があります。アメリカに日本法人の支店を設立し、その支店の銀行口座を開くという手もなくはないのですが、支店の銀行口座では売上金の入金などはできないので(支店では営業行為はできないため)、ビジネスに使うという点においては現実的ではありません。
なお、アメリカで現地法人を設立するということは、実際に現地にオフィスを持たなければならないということではありません。最近のアメリカの法人の多くは、いわゆるバーチャルオフィスを使って設立されています。バーチャルオフィスの住所を本店所在地とし、バーチャルオフィスの現地代理人を使えば、設立コストを相当抑えることができます。よって、物理的な現地拠点を持つ必要がなければ、バーチャルオフィスを使っての法人設立をお勧めします。
また、法人設立の際には、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁、アメリカの国税局のような役所)からEIN(Employer Identification Number, 雇用者識別番号)を同時に取得してください。銀行口座の開設には、このEINが必要になります。
どの州での法人設立がおススメ?
前に別の記事でも書きましたが、単純に設立のコストやしやすさだけを考えるのであれば、我々のおススメはワイオミング州です。 法人税や所得税も安く、バーチャルオフィスも数多く存在します。しかし、四大メジャーバンクの支店が少なく、ローカルバンクばかりなので、銀行ブランドとしてはイマイチかもしれません。また、アメリカの取引先に「なんでおたくの会社の銀行口座はワイオミングにあるの?」と不審がられる可能性もあります。一方で、ネット通販やオンラインゲームなどのネット系のビジネスを展開するのであれば、あまり気にされることはないでしょう。
JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルスファーゴなどのメジャーバンクの銀行口座が欲しいのであれば、ニューヨーク州かデラウェア州で法人を設立して、そのままニューヨーク市内の各行の支店で口座開設するのもいいでしょう。実際にデラウェア州法人の多くが、ニューヨーク市内の銀行に口座を開設しています。
法人設立に必要なもの
では、実際に法人設立に必要なものは何でしょうか。以下に挙げます:
・Signerの顔写真付き身分証明書(パスポートでOK)
・IRSからのEIN通知書類
・Articles of incorporation(定款)
・Corporate Resolution(口座開設とSignerを定めた取締役会決議)
・会社住所が記された書類(バーチャルオフィスの契約書など)
・最低ディポジット金額
手続き自体は簡単です。事前に銀行へ連絡してアポを取り、以上の書類を持って銀行へ行き、指示に従って手続きするだけです。特に不備などがなければ30分から1時間程度で終わるでしょう。
なお、Signerとは小切手にサインをする人のことです。ですので、口座開設はSignerが行う必要があります。あるいは、口座開設者と一緒にSignerが銀行の窓口へ行き、SignerのSignを登録する必要があります。
銀行口座の開設には、現地へ行く必要がある?
これもよく聞かれる質問ですが、答えはYesです。特に、振出小切手を発行できるChecking Accountの開設には必須です。では、その理由は何でしょうか?
答は、アメリカの銀行は銀行口座開設に際して、口座開設者の本人確認を行うことが求められているからです。また、Checking Accountの開設については、SignerのSign登録という物理的な手続きを行う必要があるからです。日本でも法人の銀行口座開設には法人の代表者印の登録などを行いますが、それと同じことです。口座開設の申し込みや相談はインターネットでできるかも知れませんが、SignerのSign登録手続きなどは実際に現地に行かなければ行えません。
実際に現地へ行かなければならないということから、ワイオミングのような田舎では行くのが大変だという話にもなりそうです。ハワイやカリフォルニアであれば日本から近いし、飛行機代も安く済むといったメリットもあります。しかし、単に近いという理由だけで銀行口座開設地を決めるのも問題がありそうです。アメリカのどこで法人を設立し、どこに銀行口座を開設するかという問題は、アメリカで何のビジネスをどのように展開するのかという、本質的な問題と合わせて検討するのがもっとも現実的なのかもしれません。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。