【世界に激震】トランプ政権が振りかざす「関税」とは?

2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国第47代大統領に就任、第二次トランプ政権がスタートしました。政権発足前からトランプ氏が公約に掲げ、広く適用するとしていた「関税」ですが、早くも隣国カナダやメキシコに加えて、同盟パートナーであるはずのEUにまで適用し、外交関係に悪影響を与え始めています。トランプ政権が錦の御旗として振りかざしている「関税」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。
「関税」は輸入品に対して輸入国が課す「税金」
IMF(国際通貨基金)の定義によると、「関税」(Tariff)とは、輸入国が輸入品に対して課す「税金」です。納税義務を負うのは輸入品の輸入者(Importer)で、輸入品が税関を通過する際に現金などで支払われます。例えば日本から輸入されたお茶に25%の関税が課せられた場合、通関時に輸入価格の25%の関税を税関に納める仕組みです。輸入価格が100ドルの場合、輸入者が別途25ドルを税関に納めるイメージです。関税が200%の場合、輸入価格100ドルに対して関税だけで200ドルを納めることになります。
関税を負担するのは輸入者ですが、輸入コストの増加分は通常、小売価格に上乗せさせるので、最終的には消費者が負担することになります。上のお茶のケースで例えると、それまで100ドルで輸入できていたお茶に25ドルの関税が課せられることにより輸入コストが125ドルに上昇するため、小売価格も相応に値上げされます。実際、隣国カナダとメキシコからの輸入品に対して一律25%の関税適用が発表されたアメリカでは、スーパーマーケットなどで販売される生鮮食料品の価格が軒並み上昇し始めており、すでに影響が出始めています。

トランプ政権が関税政策を「錦の御旗」に掲げるワケ
ただでさえインフレが高止まりで推移し、多くの市民が生活コストの上昇に苦しんでいる今日のアメリカで、物価上昇にさらに拍車をかけるような関税政策をトランプ政権が「錦の御旗」に掲げているワケは何でしょうか。それは、輸入品に対して関税を課すことによってアメリカ国内に産業と企業の回帰を図り、メイド・イン・アメリカのトレンドを再興できるとトランプ政権が固く信じているからだと思われます。
トランプ政権はさらに、メイド・イン・アメリカのトレンドを再興することにより、最終的に多くの財をアメリカ国内で自己完結的に生産し、ひいてはアメリカが抱えている膨大な貿易赤字を削減・解消できると考えているからだと思われます。

日本企業への影響は
ところで、トランプ政権が掲げる関税政策による日本への影響はあるのでしょうか。日本並びに日本企業への影響は、極めて大きなものになると考えられます。特に日本からアメリカへ輸出されている主要品目の自動車および自動車部品、半導体および半導体製造装置、光学機器などにおいては、相応の関税が課せられることによりアメリカ側の輸入コストが上昇し、最終価格が相応に値上がりすると予想されます。特に自動車および自動車部品については、アメリカ国内のサプライチェーンにも広く取り込まれていることもあり、販売価格の相応の上昇など、アメリカの消費者にも影響を与えることになるのは間違いないでしょう。
実際のところ、日本の自動車メーカーなどにおいては、関税適用が始まる前の時点から日本からの輸出からアメリカ国内での生産に切り替える機運が高まっています。また、隣国カナダやメキシコからアメリカへの輸出についても、スキームそのものを見直す企業が増えてきているようです。自動車部品メーカーなどにおいても、同様の動きが見られ始めています。

「錦の御旗」の関税政策は今後どうなる?
トランプ政権による関税政策の今後の展開については、専門家の間でも意見が様々に分かれています。筆者は、トランプ政権による関税政策は、出だしの段階こそ勢いを見せるものの、やがて当初期待していたほどの経済的効果が得られず、最終的には物価上昇に音を上げた多くのアメリカ市民の反発によりフェイドアウトして元の木阿弥となると予想しています。
アメリカのメディアCNBCは、トランプ政権がすべての輸入品に一律25%の関税を課した場合、輸入される自動車部品やアルミニウムなどの原料価格が上昇し、一般消費者が支払う最終価格が車一台あたり4000ドル(約60万円)から1万ドル(約150万円)程度値上がりすると予想しています。
既に関税適用が始まったアルミニウムについても、仮にアメリカ国内での生産回帰が始まったとしても、アメリカ国内に全需要を賄えるほどの生産能力がなく、アルミニウムの製造そのものが出来ないとする声もあります。アルミニウムは一例ですが、アメリカ国内でのモノづくりに回帰しようにも、生産設備を含めたインフラや、それを担う人材がアメリカでは絶望的に不足しているのが実態のようです。
繰り返しますが、トランプ政権による関税政策は今後、物価上昇に音を上げた多くのアメリカ市民の反発によりフェイドアウトして元の木阿弥となると予想します。それが到来する時期は、意外にも早くやってくるとも予想します。生活コストの上昇と負債増加などによるアメリカとアメリカ人家計の財務内容の悪化は、もはや市民革命が起きても不思議ではないレベルに達しつつあるように見えるからです。

前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。