アメリカで利用が拡がる「BNPL」とは?
アメリカでBNPLの利用が拡がっています。アメリカの市場調査会社マーケットUSは、2023年時点で160億ドル(約2兆4000億円)規模と推定するアメリカのBNPL市場が今後年率25.3%の成長率で成長を続け、2032年に1150億ドル(約17兆2500億円)規模に達すると予想しています。新たな決済手段として急速にプレゼンスを広げているアメリカのBNPLについて解説します。
BNPLとは?
BNPLとはBuy Now Pay Laterの略で、直訳すると「今買って後で支払う」という意味の、後払いによる分割支払い方法です。例えば利用者が100ドルの化粧品を購入した場合に、購入時に20ドル程度の「ダウンペイメント」(頭金)を支払い、残金の80ドルを4回の分割払いで支払うといったイメージです。多くの場合利用に際して利息が上乗せされることはなく、支払回数も4-5回といった少ないケースが多く、販売価格50ドルから1000ドル程度の少額商品の購入で主に使われています。
BNPLの歴史は古く、小売りの世界で古くからあった「お取り置き」の慣習システムに端を発するとされています。「お取り置き」(Layaway)とは、消費者が気に入った商品を見つけたものの手元に支払いのための現金が十分にない場合に、一定額のデポジット(手付金)を支払うことで店に商品を取り置いてもらう仕組みのことです。「お取り置き」の仕組みはやがて、消費者がデポジットを支払う際に先に商品を消費者へ渡し、残金は後で支払ってもらう割賦払い(Installment)へと分化しました。それが、EC時代、電子決済時代の現代に改めて復興してきたというわけです。
利用に際しての審査がゆるいBNPL
BNPLの最大の特徴であり利用者にとってのメリットは「利用に際しての審査がゆるい」ことです。BNPLの利用に際しては通常、BNPLのプロバイダーが審査を行いますが、クレジットカードの加入審査などに比べて相当審査がゆるいとされています。一般的なクレジットカード会社が行う「ハードクレジットチェック」などは行われず、いわゆる「ソフトクレジットチェック」だけを行い、実行するかを判断します。
「ソフトクレジットチェック」とは、レンダーがクレジットスコアの一般的な情報を参照するタイプの「信用照会」で、クレジットスコアに直接影響を与えません。一方、ハードクレジットチェックでは照会の事実がクレジットスコアに履歴として残され、結果的にクレジットスコアに影響を与えます。例えば利用者がクレジットカードの新規利用や利用枠拡大などの申請を行うと、クレジットカード会社がハードクレジットチェックをその都度行うため、その履歴がすべてクレジットスコアに残されます。一方BNPLは利用申請ごとにソフトクレジットチェックを行うもののハードクレジットチェックは行わないため、利用者のクレジットスコアは原則無傷で済みます。
ジェネレーションZやマイノリティの利用者が多いBNPL
なお、BNPLの利用者はジェネレーションZや黒人・ヒスパニックなどのマイノリティ、および女性が多いとされています。ニューヨーク連邦準備銀行が実施した調査によると、アメリカ人の19%がBNPLを利用している・したことがある一方で、クレジットスコア620点以下のアメリカ人の43%がBNPLを利用している・したことがあると答えています。また、過去一年間に何らかの債務に対して30日以上の支払遅延をしたことがある人の37%がBNPLを利用している・したことがあると答えています。
ニューヨーク連邦準備銀行は、BNPLの利用者の多くは平均的なアメリカ人よりも経済的に脆弱で、2000ドル(約30万円)の緊急資金の貯えがなく、68パーセントが貯金ゼロであると指摘しています。BNPLの利用者および利用が拡大していることの背景には、アメリカ社会における経済的弱者の増加と、アメリカ全体の経済力の低下という大きな潮流があることが見てとれます。BNPLの利用拡大は、経済全体にとってはプラスの面がありますが、同時にマイナスの面も併せ持っていることは間違いないようです。
意外に低いBNPLの不良債権率
利用者にマイノリティなどの経済的弱者が多いBNPLですが、意外にも回収不能などの不良債権率は低いです。アメリカ消費者金融保護局がアメリカ国内で営業中のBNPLプロバイダー五社に対して行った調査によると、2022年時点の業界平均貸倒償却率(Charge-off rate)は3.8パーセントで、大手クレジットカード会社の平均値よりも低くなっています。大手BNPLプロバイダーのKlarnaの2023年度第2四半期末の貸倒損失率(Credit loss rate)はわずか0.41%で、こちらも大手クレジットカード会社の平均値よりも低くなっています。
一方で、BNPLの利用についてはクレジットカード債務のように全体の「利用残高」が把握できないため、利用の総額がいくらであるのかわからない「幽霊債務」(Ghost debts)の状態になっており、今後返済困難などの問題が増加するリスクがあると指摘する声なども聞かれます。また、BNPLは返品の際の返金手続きが面倒であるといった問題や、返品手続き中も遅延損害金を支払う必要があるといった問題があることなども指摘されています。また、クレジットカードのように利用者保護の規制や法律なども十分に整備されているとは言えず、今後のさらなる普及に向けてはクリアしなければならないいくつもの課題が存在しているようです。
前田 健二(まえだ・けんじ)
上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。