アメリカ合衆国副大統領の仕事とは?

アメリカ大統領選挙が終わり、第47代アメリカ合衆国大統領と副大統領が正式に選出されました。来年2025年1月から4年間アメリカという大国をリードする重責を担う大統領と、それを支える副大統領。アメリカ国内はおろか世界中のメディアの脚光を浴び、注目を一身に集める大統領に比べて、大統領の後ろに下がり、陽が当たらない場所でひっそりと仕事をするイメージが強い副大統領ですが、実際にアメリカ合衆国の副大統領は一体どんな仕事をしているのでしょうか。

大統領職務の代行が最大の仕事

アメリカ合衆国副大統領の最大の仕事は大統領職務の代行です。現職の大統領が暗殺などによって死亡した場合や罷免された場合、大統領に代わって大統領の職務を代行します。アメリカ合衆国憲法は、大統領権限の継承順位(The United States Presidential line of succession)を明確に定めており、第一位に副大統領が規定されています。以下、第二位議会下院議長、第三位議会上院仮議長、第四位国務長官、第五位財務長官、第六位国防長官、第七位司法長官となっています。

なお、現職大統領の死亡などにより大統領職務を継承したアメリカ初の副大統領は、1841年に大統領に就任したジョン・タイラー副大統領です。その後、1850年のミラード・フィルモア副大統領、1865年のアンドリュー・ジョンソン副大統領、1881年のチェスター・アーサー副大統領、1901年のセオドア・ルーズベルト副大統領、1923年のカルヴィン・クーリッジ副大統領、1945年のハリー・トルーマン副大統領、1963年のリンドン・ジョンソン副大統領、1974年のジェラルド・フォード副大統領などが、現職大統領の死亡や辞任などにより大統領職を継承し、大統領に就任しています。

アメリカ副大統領の仕事とは、アメリカ人が大好きなプロスポーツのアメリカンフットボールにおけるバックアップクォーターバックのようなものと言ってもいいかもしれません。正規クォーターバックが活躍中は常にベンチで控えており、正規クォーターバックが怪我などで欠場した時に初めて陽の目を浴びる。地味ですが、極めて重要な仕事です。

連邦議会上院の議長も重要な仕事

アメリカ連邦議会上院の議長も副大統領の重要な仕事です。アメリカ合衆国憲法第1条第3項は、「アメリカ合衆国の副大統領は連邦議会上院の議長を務める。しかし、決議が決しない場合を除いて投票権を有しない」と定めています。いうなれば決議のとりまとめ役のような仕事ですが、票が二つに割れた場合に決定権を有する重責の仕事です。

なお、バイデン政権で副大統領を務めたカマラ・ハリス副大統領は、アメリカ連邦議会上院議長になった初のアメリカ人女性です。上院議長としてのハリス氏は、多忙のバイデン大統領に代わって各種の重要な決議を通過させるなど、政治と行政の実務家としての手腕を十分に発揮しています。

外交も大きな仕事

外交もアメリカ副大統領にとっての大きな仕事です。アメリカは世界をリードする超大国ですが、その外交範囲は広く、複雑です。友好国との関係構築や維持、あるいは非友好国との交渉など、アメリカ大統領は多くの時間を外交に費やすことが求められます。

もちろん、すべての外交行事を大統領が一人で行うことは困難で、それらの多くを副大統領が代行しています。副大統領はアメリカ合衆国ナンバーツーの人物であり、国を代表する「顔」として十分に通用するのです。2022年9月26日に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬が執り行われましたが、多忙により参列できないバイデン大統領の代わりに大統領代表団を率いたのはハリス副大統領でした。ハリス副大統領は四日間日本に滞在し、岸田首相との会談を行い、日本の企業経営者との協議に出席するなど、精力的に活動を行いました。日本各地を回るハリス副大統領の行動は連日マスコミで報道され、日本中でその姿が映し出されました。

大統領の「アドバイザー」としての役割も

「ワシントンのアウトサイダー」と揶揄されていたジミー・カーター氏は1970年の大統領選挙で、政治・行政経験豊富なウォルター・モンデール氏を副大統領に指名しました。ビジネスマンの経験しかなかったカーター氏は、ワシントンの政治事情に精通したモンデール氏を副大統領に起用することで自分に欠落していたものを補ったのです。

晴れて副大統領に就任したモンデール氏は、慣例を破ってホワイトハウス内に自分専用のオフィスを設け、常に自分をカーター大統領のそばに置きました。カーター大統領はモンデール副大統領に全幅の信頼を寄せ、ちょっとした会合などにもモンデール氏を参加させ、意見やアドバイスを求めたと言われています。

特に政治や行政の経験が少ない大統領候補が、経験豊富な人物を副大統領候補に指名するケースは近年でも見られ、2000年の大統領選挙では政治経験のないドナルド・トランプ氏が、インディアナ州知事や議会下院予算委員長などを歴任した共和党の大物政治家マイク・ペンス氏を副大統領候補に指名しています。政治や外交などの経験が乏しい人物が自分の右腕の役割を副大統領に求めるわけですが、今後のアメリカ大統領選挙においても少なからず見られる光景かも知れません。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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