「白人アメリカ人」の定義とは?

前回「黒人アメリカ人の定義とは?」という記事で、アメリカにおける「黒人」の定義について説明しました。現在のアメリカにおいては「黒人」の共通の定義などは存在せず、歴史的文脈や、近年増加したアフロ・カリブ人移民の増加の影響などから独自の定義が編まれている旨を解説しました。一方、アメリカでマジョリティとされる「白人」の定義はどうなっているのでしょうか。今回は「白人アメリカ人」の定義について解説します。

結構曖昧なアメリカ国勢調査局による「白人」の定義

アメリカ国勢調査局(The US Census Bureau)は、「白人」(White)を、次の様に定義しています。

「白人」とは、ヨーロッパ、中東、または北アフリカの各諸国に起源を持つ原住民に自らのルーツを持つ人のこと

アメリカ国勢調査局による定義では、ヨーロッパ各国に起源を持つ原住民も、中東諸国に起源をも持つ原住民も、そろって「白人」ということになります。あくまでも国勢調査のための簡便的な定義であるとはいえ、曖昧であるという印象を免れません。 筆者の素朴な意見としては、ヨーロッパ各国の原住民と中東諸国の原住民を同じく「白人」であるとすることには相当無理があるように思われます。中東諸国の原住民は、「白人」であるとするよりも「アラブ人」(Arabian)であるとする方が現実的のように思います。アメリカ政府も同様に疑問を感じているようで、2030年実施予定のアメリカ国勢調査からは「中東諸国に起源を持つ原住民」と「北アフリカの各諸国に起源を持つ原住民」に自らのルーツを持つ人を、「白人」の定義から外すと表明しています。

アメリカの母国イギリス出身の白人アメリカ人が最大

ところで、アメリカ国勢調査局によると、「白人アメリカ人」を構成するエスニックグループでもっとも多いのが、アメリカの母国イギリス出身の「イギリス系アメリカ人」です。最新の国勢調査によると、イギリス系アメリカ人の人口比率は12.5%で、ドイツ系アメリカ人(7.6%)、アイルランド系アメリカ人(5.3%)、イタリア系アメリカ人(3.2%)、ポーランド系アメリカ人(1.3%)を大きく引き離しています。なお、これらの数字はあくまでも「最新の国勢調査に基づいたもの」で、必ずしも現実を反映したものではないとする意見もあります。

有識者の中には、イギリス系アメリカ人の人口比率は現実の数字よりも「過小にカウント」されていて、実際ははるかに多いと主張する人が少なくありません。アメリカは長らくイギリスの植民地であり、植民地時代から多くのイギリス人が住み着いていました。国勢調査が示す「白人アメリカ人」には、移民国家アメリカの歴史以前からアメリカに土着していたイギリス人の子孫が完全にカウントされていないというのです。

いずれにせよ、現実に「白人アメリカ人」を構成しているエスニックグループとしてはイギリス系アメリカ人が最大であることは間違いなく、今なおアメリカと言う国家と、それを支える文化や国民性を構成する大きな土台になっていることは否定できないでしょう。イギリスはアメリカを産んだ国であり、血は水よりも濃いようです。

最新のアメリカ国勢調査局による定義

なお、バイデン政権になって実施された国勢調査のアップデートにより、アメリカ国勢調査局は「白人」の定義を新たに次のように更新しています。

「白人とは、例えばイギリス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ポーランド、スウェーデン、フランス、スペイン、ウクライナ、ロシアなどの国を含むヨーロッパの各国の原住民にルーツを持つ人のことである」

この定義であれば、ヨーロッパ各国の原住民にルーツを持つ人はすべて「白人アメリカ人」となり、シンプルに収まります。ただし、トルコなどの東西文化が混在している「ヨーロッパとアジアの文化的国境の国」の原住民にルーツを持つ人を「白人」とするかについては、アメリカ国勢調査局も明確な方針などを示せていないようです。

マジョリティから転落する「白人アメリカ人」

なお、アメリカ建国以来人口比率80パーセント以上と常にマジョリティであり続けてきた「白人アメリカ人」ですが、将来的にはマジョリティから転落することが確実視されています。アメリカ50州の中でも、アジア系移民や住民が多いハワイ州、ヒスパニック人口が多いカリフォルニア州、テキサス州、ニューメキシコ州、ネバダ州では、「白人アメリカ人」はすでにマジョリティではなくなっていますが、アメリカと言う国家そのものでマイノリティとなる時がやってくるのです。

アメリカ国勢調査局は、現状のペースで「白人アメリカ人」の人口比率が低下し続けた場合、早ければ2045年に49.7パーセントまで低下し、「白人アメリカ人」はマジョリティではなくなると予測しています。現在でもアメリカでは社会の多様性を広げ、「様々な人種や背景を持つ人に開かれた社会」の実現を求める世論の声が小さくありません。「白人アメリカ人」がマイノリティとなるアメリカとは、正しく「多様性国家アメリカ」であり、それは今まで私たちが目にしてきたアメリカとは、まったく違ったものになっている可能性が高いです。

執筆者

前田 健二(まえだ・けんじ)

上席執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(北米統括)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。事業再生、新規事業立上げ、アメリカ市場開拓などを中心に指導を行っている。アメリカ在住通算七年で、現在も現地の最新情報を取得し、各種メディアなどで発信している。米国でベストセラーとなった名著『インバウンドマーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。

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