ベジタリアンにヴィーガン、でも肉も?ドイツの食トレンドの現在地

近年、ベルリン市内のスーパーやカフェ、ジムなどでベジタリアン・ヴィーガンコーナーやメニューを見かけることが増えてきました。特にスーパーのベジタリアン・ヴィーガン食品売り場は種類も豊富でとても充実しています。ドイツでは近年、食に関する大きな変化が起きているのです。

ここで一度、以下に食スタイルの定義を簡単に挙げておきたいと思います。

  • ヴィーガン:動物性食品を一切摂らない。
  • ベジタリアン:肉・魚を食べないが卵や乳製品は摂る。
  • フレキシタリアン:基本的には菜食を中心に、ときどき肉も食べる柔軟派。

では、なぜこのような食スタイルが注目されているのでしょうか。

街角で見られるようになったベジタリアン・ヴィーガン食

先日、友人とボルダリングジムに行ったのですが、お腹が空いたので軽食を摂ろうとショーケースを覗き込むと、ナッツ入りのチーズケーキを除き、全てがベジタリアン食でした。豆腐スティック、ほうれん草やズッキーニとチーズのキッシュなど。恐らく、この場所には健康・自然派・エコ志向で、かつ新しいものが好きな人たちが多いのだろうな、とそれらを見ながら思いました。

ベルリン市内を歩いていても、街角にある焼きソーセージ屋にベジタリアン用のメニューがあったりもします。「ソーセジーなのにベジタリアン?」と最初は違和感をおぼえましたが、スーパーのベジタリアン・ヴィーガンコーナーにも確かに100%植物性の代替肉やフェイクミートと呼ばれる商品がたくさん並んでいます。その多くは大豆プロテインを原料としています。

スーパーのヴィーガン・ベジタリアン食品コーナー(筆者撮影)
スーパーのヴィーガン・ベジタリアン食品コーナー(筆者撮影)

矛盾するような事実:肉の消費量が微増

ところが、意外にも連邦農業情報センター(BZL)の暫定データによると、ドイツの食肉消費量は1人あたり平均53.2キログラムで、過去2年間(2022年:52.8キログラム、2023年:52.9キログラム)よりもやや増加していました。

特に鶏肉の人気が高まった一方、豚肉の消費量は過去数年間ほぼ横ばいでした。肉の生産量は2016年以来、初めて増加したようです。

2024年の肉類の供給バランスによると、豚肉は1人当たり28.4キログラムで再びトップでしたが、2023年比で約100グラム減少しました。鶏肉の人気は再び上昇し、1人当たり13.6キログラム(前年比500グラム増)となりました。この増加は主に鶏肉によるものです。牛肉と子牛肉の消費量は、消費者価格の上昇にもかかわらず、1人当たり9.3キログラムで安定していました。

「この傾向が今後どのように進展するかは、まだ不明です」と、連邦農業情報センター(BZL)所長のヨゼフ・グース博士は述べています。ただ、「フレキシタリアン食のトレンドを考慮すると、過去の消費量に戻る可能性は低い」とも考えられます。

ドイツ人の年間食肉消費量 
出典:連邦農業・食料研究所(BLE)より
ドイツ人の年間食肉消費量 出典:連邦農業・食料研究所(BLE)より

なぜこのようなトレンドに?

ベジタリアン・ヴィーガンブームがこのまま継続するのかと思いきや、もう少し自由度の高いフレキシタリアンがトレンドになりつつあるのかもしれません。ただし、この傾向が今後どうなっていくのかを知るためには、もう少し長期的な統計データが必要になりそうです。

間違いなくいえることは、食生活のトレンドは気候変動への意識や健康志向が大きく影響している、ということです。さらに、動物福祉の観点からベジタリアンやヴィーガンに食生活を切り替える人たちもいるでしょう。また、ドイツには移民背景を持つ人々がたくさん住んでいることから、彼らの多様な食文化の影響があるようにも思います。

これらの複合的な影響に加え、多くの人が「意識的に食べる」時代になったといえるのではないでしょうか。

今後ベジタリアン・ヴィーガンブームはどうなるか?Pexelsより
今後ベジタリアン・ヴィーガンブームはどうなるか?Pexelsより

日系企業の参入機会は?

和食=健康というイメージはドイツや他のヨーロッパ諸国に浸透しており、寿司だけではなくおにぎりなどさまざまな和食が広がりつつあります。日本のみなさんにはイメージしづらいかもしれませんが、椎茸などを利用したヴィーガン寿司(!)などもあります。また、抹茶やお茶も近年ブームとなっているようでカフェやスーパーなど至る所で見かけます。伊藤園が2024年にドイツ生産を開始しています。

現地に住む者の意見としては、ドイツをはじめとするヨーロッパの規制は非常に厳しいものの、乗り越えられない壁ではありません。日本からの輸出で採算を取るには、時間と戦略が必要になるかもしれませんが、それだけに成功した時の成果も大きいと言えるでしょう。

ただ、成功している企業は、小規模であっても現地で営業・マーケティング、生産を行っているケースが多く、その柔軟な対応力が成功の鍵となっています。欧州食品安全機関(EFSA)や、ヴィーガン・ベジタリアン製品のV-Labelなど、多くの規制が存在しますが、これらの壁を一つずつクリアすることで、確かなブランド力を築くことができるでしょう。

もちろん、最初の段階では多くの努力と工夫が必要ですが、現地市場に深く根差した戦略を立て、時間をかけてじっくりと事業を成長させていけば、必ず道は開けるのではないでしょうか。

出典・参照

Bundesanstalt für Landwirtschaft und Ernährung (BLE). Versorgungsbilanz Fleisch: Verzehr leicht gestiegen.

European Food Safety Authority.

V-Label

株式会社伊藤園. 「お~いお茶」飲料製品の欧州生産を開始。世界の品質基準に合う「お~いお茶」飲料用原料を使用した新製品を2024年5月に発売.

執筆者

希代 真理子(きたい・まりこ)

メディア・コーディネーター

1995年よりドイツ・ベルリン在住。フンボルト大学でロシア語学科を専攻した後、モスクワの医療クリニックでインターン。その後、ベルリンの映像制作会社に就職し、コーディネーターとして主に日本のテレビ番組の制作にかかわる。2014年よりフリーランスとして活動。メディアプロダクションに従事。2020年にAha!Comicsのメンバーとして、ドイツの現地小学校を対象に算数の学習コミックを制作。2023年3月に初の共著書『ベルリンを知るための52章』刊行(明石書店)。

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
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