ジェトロ ブルガリア・セルビア・ビジネスミッション参加レポート〜ブルガリア編〜
先日、ご縁があり2024年の10月15日から18日までの4日間、ジェトロ(日本貿易振興機構)主催のブルガリア・セルビア・ビジネスミッションに参加させていただくことができました。ブルガリア・セルビアの2回に分けて、参加レポートをお届けしたいと思います。今回はブルガリア編です。
ブルガリアの概要
みなさんは、ブルガリアというと何を思い浮かべますか。日本では株式会社明治のブルガリアヨーグルトが非常に有名なので、ヨーグルトを思い浮かべる方も多いかもしれません。ブルガリアは東ヨーロッパに位置し、ルーマニアやトルコ、ギリシャ、北マケドニア、セルビアと国境を接しています。首都ソフィアはかなり西側に位置していますが、東側は黒海のリゾート地として有名です。
人口は約652万人で面積は約11万平方キロメートル(日本の約3分の1)です。1989年までは共産主義国家でしたが、2024年にNATO(北大西洋条約機構)、2007年にEU(欧州連合)、また、本年3月には空路・海路限定ですがシェンゲン協定にも加盟し、西ヨーロッパとの結びつきを強めています。
ただ、文化・伝統的にロシアに近いということもあり、他のEU加盟国と比較してロシアに親近感を持っている傾向はあるようです。ブルガリア語はロシア語等と同様のスラブ系言語でキリル文字を利用しているので、街を歩いているとロシアにいるかのような気分になりました。宗教的にも正教系のブルガリア正教が多く信仰されています。私は少し早めにソフィア入りしたので少し街の中を歩く機会がありましたが、おそらく私の滞在中ウクライナ国旗をほとんど目にしなかった随一のEU加盟国ではないかと思います(ただブルガリアも他のNATO加盟国同様、ロシアに経済制裁を行っています)。
なお、ドイツよりも英語が通じやすい印象を受けました。ドイツは都市部であってもスーパーやパン屋などでは英語が通じない(もしくはわかっていても知らん顔される)ということがよくあるのですが、少なくともソフィアではそのようなことは感じませんでした。ただ、これは地方に行けば状況はだいぶ異なるとは推測されます。
ブルガリアの経済
ブルガリアの通貨は、ブルガリア・レフで2025年にはユーロ圏加盟をめざしています。GDPは890億ドル、1人当たりGDPは約13,135.3ドルで、日本の半分以下です。GDP成長率は2.1%と堅調に推移しているようですが、EUの最貧国といっても過言ではありません。最低賃金も月額447ユーロ(2024年11月時点で約74,000円)とドイツの4分の1程度となっています。
このような状況はインフラ設備にもよく表れています。首都ソフィアといえど、街の中を歩いていると道路や住宅で未整備と思われる点がかなりあり、大変驚きました。以下の写真はブルガリアの経済産業省の建物ですが、よくみていただくとケーブルなどが外壁に剥き出しになっているのがお分かりいただけると思います。私は今回やや長めに滞在したこともあり、市内中心部のアパートホテルに滞在しましたがその中も同じような感じになっていました。
さらに、民主化、EU加盟などのさまざまな政治状況の変化を受けて、より賃金の高い西ヨーロッパに移住するブルガリア人も少なくなく、リトアニアなどのバルト三国同様人口は低下傾向にあります。優秀な人材を自国に引き止めるべく、ブルガリアもバルト三国や他のバルカン半島の国々同様、情報通信(IT)関連への人材強化を行っています。日本からはSEGAなどが進出しています。ちなみにこれらの業種の平均月収は2,350 EUR程度で、決して安くはありません。
それ以外の業種においては、自動車関連やライフサイエンス分野などに力を入れています。日系企業の進出も矢崎総業を中心とした自動車関連産業がめだちます。同社は3,000人以上の従業員を有し、完全にブルガリア人のみで経営を行っているようです。今回のビジネスミッションにおいて、とあるドイツ企業のブルガリア工場を見学する機会がありましたが、旧共産圏ということもあってか工場現場で活躍している女性も多いと感じました。
今回のビジネス・ミッションに参加したある物流会社の方にお伺いしましたが、「陸路輸送が可能なのであれば、EU域内のどこに倉庫があっても輸送関連コストは大きくは変わらない」そうです。そのため、人件費の安価なブルガリアで生産・保管して、他のEU加盟国へ納品するということはコスト削減という観点で有益なのでしょう。
ブルガリアでのビジネス展開
そもそも論ですが、前述の通りブルガリアは人口が約652万人で経済水準もそう高くはないので、日本企業の販売先としては期待することは難しいかもしれません。ブルガリア政府も現地人の雇用を生み出す工場建設や、設備は少ないが高賃金が期待できるIT産業進出などの投資を期待しているようです。この傾向はこれまでにご紹介した、アイルランドやリトアニア、エストニアと同じです。したがって、ブルガリアのみに対して何か製品やサービスを出荷するというタイプのビジネスを収益化することは、容易ではないと考えます。
ただ、多少距離があるとはいえ、ドイツやフランスなどの欧州の大国と陸続きであるのは非常に大きなメリットです。人口の割に大きく安価な土地や人件費の安さを利用して、ブルガリアで生産した製品を西ヨーロッパに出荷して利益を上げることは可能です。ブルガリアはEU加盟国ですので、ブルガリアで生産することでEUの複雑な規制をクリアできるというメリットもあろうかと思います。トルコとも国境を接しているため、物流関係の拠点としても期待できそうです。法人税も10%とEU加盟国の中でもっとも低い水準であり、税制上のメリット享受することができます。
最後に
個人的な経験ですが、ブルガリアのパン屋やレストランで食事をしたときにちょっとおもしろいことがありました。ブルガリアではチップはドイツ同様必須ではないですが、10%程度支払うのが望ましいとされているようです。そのため、私が10%程度チップを支払ったところ、店員さんが「あなたの荷物、重そうだから入口まで持ってあげるわ」などといって、急に気を遣い始めました。1カ所だけではなく3カ所でそのような動きがあったので、ちょっと珍しく感じて印象に残っています。ブルガリアも、ポーランドやチェコなどの旧共産圏でよくあるように、最初は愛想がなくてもちょっとしたことで親切にしてくれるようになる人は多そうです。
出典・参考
Eurostat (n.d.). Minimum wage statistics.
https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Minimum_wage_statistics.在ブルガリア日本国大使館 (2024). ブルガリアの経済・投資(ジェトロ ブルガリア・セルビア・ビジネスミッション参加者への提供資料).
ジェトロ(2024). ブルガリアの強みは高度な技術・IT人材、ジェトロがミッション派遣(ブルガリア、日本、欧州) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュースhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2024/10/7af5b6fb1f2cd66f.html
浜田真梨子(はまだ・まりこ)
執行役員
シニアマーケティングコンサルタント(欧州統括)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。