欧州におけるパッケージ戦略 ~コスメ業界を例に~

ドイツ美容業界の最新動向

筆者は毎年の恒例として「Beauty Messe Düsseldorf」に足を運んでいます。「Beauty Messe Düsseldorf」は欧州屈指の美容業界見本市ですが、大手の化粧品ブランドよりも、エステサロンで使用されるような中堅クラスのドクターズコスメや、エステ施術に焦点が当てられており、欧州各国のエステティシャンが最新トレンドを求めて一堂に会する場となっています。

昨今の動向として、AI(人工知能)を活用した肌診断技術や、ビッグデータにもとづき個別具体化されたスキンケアプランの提供といったサービスが衆目を集めています。エステ施術の分野では、個々人のニーズに合わせたテーラリングサービスを提供することが可能となってきているうえ、価格の面でも一般のサロン経営者の手が届くところまで来ており、次第に認知度が高まっています。顧客の肌の状態や生活習慣を総合的に分析し、最適なトリートメントや製品を提案するというサービスは、これまでAIとは縁が薄いとされてきたエステ業界に確実に浸透しつつあります。

今回は美容業界を例に取り上げ、欧州における商品販売の戦略について考えたいと思います。

コスメ業界でも「サステナビリティ」

「Beauty Messe Düsseldorf」で目を見張ったのは、「サステナビリティ」がコスメ業界にも入ってきていることです。「サステナビリティ」が従来のマーケティング領域のみならず、あらゆる観点から配慮せざるを得ない状況になっていることを文字どおり肌身で感じました。

EUやドイツが敷いている「サステナビリティ」に配慮した諸規制には、推奨とされているものもあれば義務化されているものもありますが、消費者の意識の高まりも手伝って、もはや看過できないところまで来ています。

ドクターズコスメ大国 ドイツ

ドイツといえばドクターズコスメのメッカとして知られますが、製品を構成する成分に関わる透明性がいっそう求められ、動物実験を行わないクルエルティフリーのブランドや、環境に優しいパッケージのニーズ、要望が広がってきています。

EUが、環境への配慮を示す具体的方策として「トレーサビリティ」を重視していることは誰もが知るところです。原料はどこでどのように作られたものか、製品化はどこでどのように成され、どのような手段で運ばれてきたのかといった具合に、一つの商品が消費者のもとへ届くまでの導線を可視化し、トレースできるようにすることで、環境への配慮、消費者の安全性を確保するような制度が敷かれています。

このような取り組みは製品単体に限られません。製品を包むパッケージについても、製造者や販売者が守るべき規制が複数存在し、しかも、年を追うごとに厳格化が進んでいます。

パッケージの表示

EU域内で流通・販売されるすべての化粧品は「EU Cosmetics Regulation (EC) No. 1223/2009」にしたがう必要があります。これは製品の安全性を保証し、消費者を保護するために規定されたもので、日本でもそうですが、構成成分の表示義務があります。

製品に含まれる成分をINCI(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)にもとづいて表記することや、製造者または責任者の名称・所在地、内容量、使用方法、使用上の注意、ロット番号、使用期限等などが明記されたラベル表示が求められるなどこと細かな規制があります。

EUではさらに、ビーガンへの対応も重視されており、要件を満たしていることを示すクルエルティフリーの表示も重要です。これは動物実験を行っていない製品のラベリングで、現在のところ義務化こそされていませんが、商品価値が確実に向上することから、取得する価値は充分にあると言われています。

パッケージングに関わる規制

日本のコスメ業界と価値観が最も大きく相反するのは包装材でしょう。

日本の美容商品では、消費者に対し、それを使えば美しくなる、肌が奇麗になるというようなことを訴求すべく、パッケージデザインや包装にも工夫を凝らし、あの手この手で消費者を惹きつけようとするのが一般的です。まずは商品を手に取ってもらうことが重要ですので、消費者の目を惹くようパッケージにも意を砕くというのは当然なのかもしれません。

他方、欧州はどうかと言うと、環境への配慮という、いわば資本主義の常道に逆行するような倫理観が根強く、包装材にもさまざまな規制があります。「包装材及び包装廃棄物指令94/62/EC (Packaging and Packaging Waste Directive)」と呼ばれるものはその代表格で、包装材が環境に与える影響を最小限に抑えるべく、過剰包装を回避すること、リサイクル可能な材料を使用することが規定されています。可能なかぎり資源の無駄、輸送の無駄を排除することが重視されています。

包装材はリサイクル可能なもの、または環境に負荷を与えない素材でできていることが強く推奨されています。プラスティックの使用量をできるかぎり減らし、再生可能な資源(紙、バイオベースのプラスティック等)の使用が求められます。製造者はさらに、パッケージ廃棄物の削減目標を遵守することが求められ、これには再利用可能なパッケージデザイン、消費者が容易にリサイクルできるパッケージづくりなどが含まれます。

有名な「REACH規制(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)」は化学物質に関わるEU主要規制の一つですが、パッケージ素材にも適用されます。

パッケージの材料に有害な化学物質が含まれていないことを保証するため、製造者は「REACH規制」に従う必要があります。加えて、ドイツ独自の「ドイツ包装法(Verpackungsgesetz, VerpackG)」は、製造者や輸入業者に対しパッケージの廃棄物管理を義務づけています。製造者や輸入業者はドイツ市場へ上市する場合、LUCIDと呼ばれる中央登録システムへ登録する義務があり、これによりトレーサビリティが担保されています。製造者はさらに、パッケージ廃棄物のリサイクル目標を達成するため、認定リサイクル業者と契約しなければなりません。

マーケティング戦略としての包装

今日の欧州では、バイオプラスティックや生分解性プラスティック、リサイクル素材などで包装された商品が急増しています。環境ラベルの取得により、サステナブルな取り組みを前面に打ち出す例も多く見られます。国際認証の取得は、他国での販売を目指す場合にも顧客の信頼を得やすく、マーケティング戦略の一環として注目されています。

当然のことですが、日本国内で事業を行う場合、企業は日本の法令・規制の下に事業を行います。これとまったく同じで、欧州で事業を行う場合は、企業は欧州の法令・規則に則して事業を行わなければなりません。日本企業が欧州市場で商品を売ろうとするのであれば、EUやドイツなど加盟国の法令・規制に適応しなければならないことは言うまでもありません。

EUやドイツなどの認証制度を利用し、パッケージや商品にターゲットに響く認証マークをシーリングするなどは比較的容易に実践できるマーケティング戦略であり、施策と言えるでしょう。食品や化粧品に用いられることの多いDemeterはオーガニック基準がきわめて厳しいことで知られますが、それだけにDemeterが付いていれば安心と考える消費者が多いのです。ターゲット層などを分析し、さまざま認証サービスの中から自社の商品に適したものを選び、取得されることお勧めします。

化粧品に使われるオーガニックの認証も数多い。
化粧品に使われるオーガニックの認証も数多い。
https://www.fairlis.de/post/bio-kosmetik-einfach-erklaert-definition-vertrauenswuerdige-marken-faq
ビーガンの認証機関も多く、認証マークもさまざま
ビーガンの認証機関も多く、認証マークもさまざま
https://www.fairlis.de/post/bio-kosmetik-einfach-erklaert-definition-vertrauenswuerdige-marken-faq
執筆者

吉澤 寿子(よしざわ・ひさこ)

CEO, Researching Plus GmbH
株式会社ジェイシーズ マーケティングコンサルタント(ドイツ)

早稲田大学人間総合研究センター招聘研究員。 2007年渡独。デュッセルドルフ大学現代日本研究所博士課程に在籍し、研究を重ねるかたわらResearching Plus GmbHを設立。日本企業のドイツ進出、市場調査、視察・研修等に携わっている。お茶の水女子大学人間文化研究科修士課程修了。

Researching Plus GmbH: https://researchingplus.com
連絡先:h-yoshizawa@j-seeds.jp

当社は、海外事業展開をサポートするプロフェッショナルチームです。
ご相談は無料です。お気軽にご連絡ください。

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